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もう、誰も帰れない……美樹編  作者: カボチャの悠元
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最終話です。

美樹は直ぐに着ていた服のフードから紐を抜き取ると、光紀の腕を直ぐにキツく締め上げた。

しかし、勢いが収まるも血液は止まることなく流れ続けている。

その量は美樹から見ても致死量だと用意に想像が出来た。

光紀は激痛から意識を失うことも出来ずに美樹に抱かれて震えていた。

光紀の顔から徐々に血の気が無くなり青ざめて行く。

「光紀、光紀……大丈夫だから、直ぐに血は、止まるんだから確りしてよ」

美樹の言葉に光紀は無理矢理、微笑んで見せた。

「ごめん……俺があの時、防空壕なんかに入らなければ……俺、バカだよな、手まで無くなっちまった……」

冷静に喋る光紀の脳は痛みを遮断した。

其れは光紀の限界を意味していた。

「お願いだから……独りにしないで……お願いだよ、光紀!」

光紀は美樹を見て涙を流した。

「俺さ……お前に惚れたかも……女の子に心配されるなんて、初めてだ……やっぱり、バカだよな……」

光紀は目を瞑り、一筋の涙が頬に流れ落ちた。

そのまま光紀の呼吸が止まった。

そして光紀の心臓の鼓動も静かに停止していた。

「本当にバカだよ……自分だけ言いたいこと言って死ぬなんて、ずるいよ……」

そんな美樹の耳にアナウンスが聴こえてきた。

「ザザッ……御客様に御連絡致します……余りアトラクション内の物に触られますと……思わぬ事故に巻き込まれます……気を付けてお進みください……大切な物を落とさぬよう御注意ください……ザザッ……」


「何が……思わぬ事故よ……ふざけないでよ」

美樹は光紀をその場に寝かせると立ち上がった。

そして、荷物の中から大地が調べた資料を取り出した。

ドリームキャッスルの案内と内面図があったからだ。

そして、ドリームキャッスルの天辺にある特別展望台を目指すことにしたのだった。

特別展望台以外のフロアは一番下の階から順に上がっていく造りになっている為最上階の特別展望台まで、順に調べられる。

美樹は涙を拭きながら確実に1階から上に上がっていく。

高さにしたら8階建ての建物に更に3階建ての展望台が建設されているドリームキャッスルをひたすらに美樹は上を目指していく。

丁度半分の高さを通過した時、フロアの中に誰かいるような気配がした。

扉の隙間から美樹は室内を覗き込むと中に小さな子供の姿が見えた。

そして、美樹はそっとフロアに書かれた文字を見た。

『皆のスペース。楽しく遊びましょう』

どうやら、休憩や子供のオムツ等を代えるためのスペースの様だった。


美樹はそっとその場を立ち去ろうとした時だった。

一人の子供が私を見つけたのだ。

「新しいオモチャ見つけた……」

そんな事とは、知らない美樹は急ぎ扉の前を離れようとしていた。

「御姉ちゃん……かくれんぼしよ……」

美樹はいきなり後ろから声を掛けられ心臓が飛び出るかと思いながら振り向くとそこには白い肌の男の子がたっていた。


美樹は逃げようかと考えたが、あることを考えついく。

そして一か八か賭けに出ることにしたのだった。

「お姉ちゃんも大切な人を捜してるの、一緒に捜してくれないかな?」

美樹は、その男の子にそう口にしたのだった。

男の子は少し悩むそぶりをしたが頷いた。

「誰を捜してるの、お父さん?お母さん?」

男の子は首を傾げながらそう聞いてきた。

「私の、お兄ちゃんを捜してるの」

男の子は“ぴたっ”とその場に停止した。


「御姉ちゃん……悪い人なんだね……」

美樹の前を歩いていた男の子の首が180°回転して美樹の方を向く。


「首が……」

美樹は言葉に出来なかった。

真後ろに向いた男の子の顔が美樹を睨み付ける。

「僕たちのお兄ちゃんを連れてく気なんだよね……僕を利用したんだよね……悪い人」


美樹は慌てて男の子の横を走り抜けようとした。

しかし男の子が美樹の手を確りと掴んだ。

「悪い人は……カエサナイ……」

そう言うと男の子の目に血が溢れだし口の中からも血が溢れたしていた。

余りに不気味な光景と有り得ない力に腕を掴まれ、美樹は焦っていた。

美樹は男の子の顔面に思いきり拳を叩き込んだ。

次の瞬間…… 男の子の首が有り得ない角度に曲がり、じたばたと手足をばたつかせていた。

「オマエ……悪いヒト……悪いヒト」

美樹は深呼吸して男の子の方に近づく、そして階段から男の子を蹴り落としたのだ。

男の子の体が階段を転がり落ちる度にバラバラに千切れていく。

余りにグロテスクな光景に一瞬吐き気を模様したが美樹は其れを堪えた。


「私は……悪い人で構わないわ……光紀……必ず私はお兄ちゃんを見つけるわ」

美樹はそのまま展望台を目指し階段を登っていく。

そんな時、背後から何かが物凄い勢いで近づいて来ていた。

美樹は下の階の階段を上から覗くとあの男の子が他の子供達に体のパーツを持たれながら上に向かって走ってきていたのだ。

「悪い子……ワルいこ……ワルい子は……オシオキ……」

無数に口を開く子供達は同じ言葉を発しながら確実に美樹の元に近づいて来ていたのだ。


「ふざけないでよ!」

美樹は急ぎ展望台を目指し走り出した。

しかし子供の脚は凄まじい速さで確実に美樹との距離を縮めて来ていた。


その距離は2階分から1階分になり、展望台を目前に美樹に追いつこうとしていた。

そして美樹は展望台への扉に手を掛けると直ぐに扉を引っ張った。

しかし扉は開かなかったのだ。

「何で!開かないのよ、開きなさいよ」

美樹が扉を引っ張る間に真後ろに子供達が追いつこうとしていた。


美樹は扉を良く見た、開かない筈はない、確かに動く鍵は掛かっていない……

「引いて駄目なら!押すまでよ」

美樹は、扉目掛けて思いっきり体当たりをした。

扉が開き美樹が中に入ると扉は独りでに閉じた。

そして扉を叩く音が鳴り始めた。

その瞬間に“ガシャン”と入り口で聞いたあのギロチンの音が扉越しに聞こえる。

「ギャアァァァァ痛いよ」

子供の叫び声が次々に聞こえてくるが扉はそれでも叩かれ続けた。

その度に“ガシャン”と言う音がなり、それが上に巻き上げられる音が繰り返された。

美樹は音が無くなるまで耳を塞ぎしゃがみ込んでいた。

音が鳴り止み、美樹は耳から手を放し目を開いた。

目の前には、窓の開け放たれ、展望台のバルコニーにある椅子に腰掛ける長い髪の女の姿が見えた。


美樹はその姿を見るなり走り出した。

さっきまでの震えが嘘のように無くなり、恐怖が殺意に変わっていた。

そんな美樹の存在に気付いていた女は美樹の方に振り向くと微笑んだ。


「貴方はどちらを望むのかしら……」

女はそう口にした。

美樹は女に飛び掛かったのだ。

そして、月明かりに女の顔が照された。

女の顔は美樹と同じ顔をしていたのだ。


「あははは、貴方はお兄ちゃんと私の死どちらを望むの?教えて……」

女はそう言い楽しそうに笑った。

「ふざけないで!お兄ちゃんを返しなさいよ!アンタが全部仕組んだんでしょ!」

美樹の怒りに満ちた表情に女は再度笑って見せる。

そして美樹からは死角になっていた柱の方を指差した。

其処に椅子があり、椅子にもたれ掛かるように座る大地の姿があった。

「お兄ちゃん!」

その時、美樹は押し倒されさっきと真逆になった。

「お兄ちゃんを助ける?私の死を望む?選んで……」

女がそう言うと大地が座る椅子がゆっくりとバルコニーの中を動き出した。


「私の死を望めばお兄ちゃんは死ぬ……お兄ちゃんを望めば私は消えない……どちらを望む?」

その時、大地が口を開いた。

「美樹……俺はいい……ソイツを……とめろ」

大地がそう言った瞬間……美樹は涙を流した。

大地が生きていた。

諦めていた兄の大地が生きている事実は美樹の殺意をかき消してしまった。


「お兄ちゃん……私は……」

美樹は口にした。

「お兄ちゃんを返して……」

美樹はいっぱいいっぱい悩んだ、しかし大地の命を道連れに女の死を望む事など出来なかった。


女は笑った。

「あはは、やっと終わった……ありがとう、アナタが早く次の人に出会える日を願ってるわ……」


女はそう言うとバルコニーから身を投げた。

いきなり飛び降りた女が鈍い音をたてて、地面に落下したのがわかった。

そして混乱する状況の中、美樹は突如酷い頭痛に教われ意識を失った。

そして、頭に声が聞こえた。

『次の人は鏡に写る顔の女……貴方はもう、帰れない……』

美樹はその声で目覚めると其処は先程の展望台の中であった。そして部屋の中に置かれた鏡を直ぐに確かめる。

其処には自分の顔はなく、別人の顔が写し出されていた。

「なんなのよ……これ、何で顔が違うの?」

美樹は鏡の下に置かれた日記を見つける。


其処には過去の女達の悲痛な叫びが書かれていた。


○月×日……何日も私は一人だ、脱出を試みたが出口はないようだ。

次第に自分が化け物になるのがわかる、もし私と同じようになった人がいるなら、早く次の人を捜してほしい。

自我が無くなれば、最後は只の化け物になるしかない。


○月×日……今、私は正常なのだろうか、私の横には知らない人がいる?誰だろうか、しかし、私の顔に関係があるのかも知れない。

何時ものように手紙を書いているが、何故手紙をだすのだろう?


○月×日……今日……人を殺した。私の探してる顔じゃない……早く顔を見つけないと私がおかしくなる、何でこんな事を書いているんだろう?


そこで最初の日記は終わっている。

次も次も同じように書かれては途中で書かれなくなっていた。


その中に名前を残している人もいた。

水野 マリ…… 彼女も選ばれてしまっていた。


目覚めてから何日たったのだろう……何時から日記を書いていて何時から書かなくなったんだろう。

そして……私は今日、久々に日記を書きながら手紙を空に飛ばす……私の探す顔に届くまで……


「ねぇ……お兄ちゃん……私は誰なのかな?」


既に朽果てた白骨化する大地の死骸を抱き締めながら、そう口にする美樹は自分が高橋 美樹であることすら忘れていた。


「あれ?お兄ちゃんって誰だっけ……」


もう、誰も帰れない……

読んで頂きありがとうございました。

初のホラー2作品でした。


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