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工藤は直ぐに携帯に撮られた写真に合成の跡がないか、修正の痕跡がないか、そしていつ撮られた物かを調べたのだ。
工藤は唾を飲み込んだ、その写真には合成の跡も修正の跡も無かったのだ。
紛れもなく高橋 大地、本人が流した自身の血だまりに倒れている写真だったのだ。
写真から解るのは、胸から流れる大量の血は間違いなく高橋 大地の体格からしたら致死量に達していると言うことだった。
「此れは少し不味いな、警察に連絡するしかないな」
工藤は記者であったが、自分の実力を確りと自覚している人物であった。
だからこそ、工藤はこの事件が自分の手に余ると判断した。
「美樹ちゃん、光紀君、そこを動くなよ!直ぐに警察を呼ぶから」
工藤は直ぐに携帯を使い電話を掛けようとしたが、さっき迄、使えていた携帯の電波は圏外を表示していたのだ。
工藤は何とか電波を探したがどの方向も繋がる事はなかった。
工藤が美樹達から少し離れた時、光紀の携帯が鳴り響いたのだ!
二人は“ビクッ”と体を震わせた。
薄暗い夜の裏山に鳴り響く着信音そして、光紀が携帯をポケットから取り出した時、光紀は表示された名前に眼を疑った。
そこには「桜井 美雪【姉ちゃん】」と言う文字が写し出されていたのだ。
「姉ちゃんだ!」
そう言うと直ぐに光紀は電話に出たのだ。
余程あせったのだろう、光紀はスピーカーになっているのに気付いていなかった。
しかし、其処から流れてきたのは光紀の期待したものではなかった。
「姉ちゃん!大丈夫か何処にいるんだよ!」
光紀の叫び声が携帯を通して相手に伝わる。
しかし、次の瞬間、聴こえてきたのは……扉がユックリ閉まる音、そして……
「いやぁぁぁぁ」
桜井 美雪の悲鳴と不気味な笑い声だった。
「姉ちゃん!姉ちゃん!どうしたんだよ!」
「遊園地から……もう……ダレも……カエレナイ……」
“ガチャ”
そして電話が切れたのだ。
工藤は光紀の大声を聞き急ぎ戻ってきた。
工藤は携帯を握り締めて膝をつく光紀を見て何が合ったかを美樹に確めた。
そして、美樹は今、目の前で起きた事を工藤に全て話したのだ。
そして、話が終わり光紀に1度戻る事を工藤は提案した。
だが、光紀は首を横に振ったのだ。
そして、美樹と工藤が一瞬、眼を離した瞬間に防空壕に向かい歩きだしたのだ。
それに気づいた美樹が光紀を止めようと防空壕に近づいた時、防空壕の入り口に高橋 大地の愛用していたオイルライターを見つけたのだ。
それは美樹がお父さんに頼んで渋渋買って貰った高橋 大地への誕生日プレゼントであった。
「お兄ちゃん……此処まで来てたんだ……」
そう口にした瞬間、防空壕の扉が風で揺れ嫌な音を鳴らしながら少しだけ開いたのだ。
その瞬間、光紀が防空壕目掛け走り出したのだ!
「あ、まて!光紀君ダメだ!」
工藤の制止を振りきり光紀は防空壕の中に走っていったのだ。
美樹もそれを追うように中に走り出していた。
その時、何故中に踏み込んだのだろうか……まるで何かに吸い寄せられるように体が、足が、防空壕の中に引き込まれるように自然と前に出ていた。
「チッ、ガキどもが人の話を聞け!仕方無いな、待て、お前ら!」
工藤も直ぐに美樹達の後を追うことになったのだ。
美樹達が完全に防空壕に入ると入り口に一人の女が立っていた。
そして、静かに防空壕の扉に外から鍵をかけたのだった……
「誰も……帰さない……ふふふっ」
そんな事とは知らずに美樹達を直ぐに捕まえる事が出来た。
いくら懐中電灯があっても暗闇に慣れていない美樹達と工藤ではスピードが違ったからだ、工藤は直ぐに光紀を肩に担ぎ上げると直ぐに来た道を引き返したのだ。
そして、美樹に防空壕の扉を開けるように言うが美樹がどんなに扉を開けようと力を入れてもビクともしなかったのだ。
美樹にかわり、工藤が扉を開けようと試みたがビクともしなかったのだ。
「どうなってんだ?確かにさっきは簡単に開いたのに」
工藤は扉が全く開かないことを不気味に思っていた。
普通の扉が全く動かないなんて事があるだろうか……工藤の頭の中に住職の言葉が甦る。
「不味ったかもしれないな……」
工藤は急ぎ外に出なければならないと感じた。
そして、選択肢は二つ、此処で助けを待つか、防空壕と繋がっているとされる、裏野ドリームランド迄、進み助けを求めるか、しかし、どちらも問題があった。
先ずこの場所に居ても助けが来る可能性は殆んど0%と言う事だ。
元々、立ち入り禁止になっている場所であり、防空壕までは、少し距離があるからだ。
次に防空壕を進み、噂の裏野ドリームランド迄の道を探し出すと言う案だが、戦時中に造られた防空壕が本当に繋がっているかはまだ工藤は確かめていないと言うことであり、地図上は防空壕の奥に確かに裏野ドリームランドが重なる部分があるが、地上まで繋がってない可能性があったからだ。
ましてや、高校生を連れて移動する事を考えるとリスクが高過ぎると考えていた。
そんな工藤に美樹が口を開いた。
「あの工藤さん、ここに居ても助けとか来なそうですし、先に進みませんか?もしかしたら何か扉を壊せる物があるかもしれないし?」
美樹の発言に二人は頷いた。
手元にある地図を拡げ三人で確りと居場所を把握する。
脇道などがない一本道の先を曲がると、倉庫のような物があり、その先に当時使われるはずだった。
避難用の出口があった。
防空壕にしては珍しい造りではあったが、元は石炭の採掘場の跡であり、地図にない出口もあるらしいが先ずは地図にある通路をひたすらに進んでいく。
通路の至る所に蝋燭たてが設置されていた。
そして、その先を曲がると、確かに部屋の扉があったが扉は確りと閉ざされ、無数の扉の傷は美樹達の不安を煽るように不気味に刻まれていた。
「美樹ちゃん、光紀君、大丈夫か?」
足取りが重くなってきた二人を心配して工藤は声を掛けるようにしていた。
二人は「大丈夫」と口にしたのを聞き工藤はまた歩きだした。
工藤は鞄から水を2本取り出すと二人に手渡したのだ。
「とりあえず水分を確りとるんだ。人間は水分を失うと運動能力が低下するからな」
工藤はいつも500㏄のペットボトルを4本持ち歩いていた。
どんな時状況でも水があれば何とか生き残れるからだ。
二人は水をすごい勢いで飲み干した。
そして、三人は一番奥の通路を抜けた。
そこには反対側から壊されたと思われる鉄の扉が倒れていた。
「どおやら?あっちから此方に来た奴がいるのは間違いないな」
「きっと……お兄ちゃんだ……」
美樹は入り口で拾ったオイルライターを握り締めてそう口にした。
そして光紀が床に無造作に置かれた鍵の束を見つけた。
光紀はそれを工藤に渡した。
工藤は鍵に新しい傷があるのを見つけるとある推測をたてた。
仮に、高橋 大地が此処まで逃げてきたとして、鍵をこんなに合わせている時間があったなら、追われてたわけでは無いのではないかと、何かの拍子に、この場所に迷い混み鍵を手に入れ防空壕の出口まで向かった。
しかし問題はこんなに上手く鍵が手に入るだろうか、そして迷わずにこの場所までどうやって来たのか?
考えれば考える程、工藤は混乱した。
美樹はそんな工藤を他所に先に進むと二人を直ぐに呼んだ。
そこには広い空間と他の通路に真新しいピンクのバツ印が書かれていた。
「これ、口紅だよ……お兄ちゃんと誰か一緒に此処を通ったんだ」
「それって!姉ちゃんかもしれないって事だよな」
美樹の言葉に光紀は希望を取り戻したのである。
三人はバツ印の始まりである狭い通路を抜けていく。
そして、ドリームキャッスルの中に辿り着いたのであった。
そして扉を開きやっと外に出ることが出来たのだ。
カビ臭いドリームキャッスルの外に出ると外は蒸し暑い夏の夜だと言うのに蝉の声は無く、月明かりすらない、暗闇の世界が何処までも続いていた。
そして自然とドリームキャッスルの扉が閉まると……鍵の掛かる音がドリームキャッスルの中に鳴ったのだった。
「とりあえず、出口を探そう。何処かに案内図があるはずだ」
三人は案内板を見つけると自分達の今いる場所を確認した。
ドリームキャッスルは一番奥に位置していた。
右に進むと 『皆がビックリ!ミラーで輝く鏡の世界“ミラーハウス”・休憩所・喫煙所』
右下に進むと『未知との遭遇。ジャングルゾーンの探険隊 “アクアツアー”乗り場・トイレ・売店』
左に進むと『楽しいゲームゾーン・世界の恐怖を体感!見世物小屋・喫煙所』
左下に進むと『運命の占いのハウス・トイレ・裏野ドリームランド特別ステージ開場』
そして、どちらの通路も中央のメリーゴーランドの前を通り出口に向かうように設計されていた。
違うのは右の通路には観覧車、左の通路には小さなレストランがあると言う事だった。
「どちらにしても最後はメリーゴーランドの前を通るわけだな、なら急ごう」
そして三人は今いる位置から近い左側の道を進むことに決めたのだ。
しかし……此処から先に出口などはなかったのだ……三人の運命を占うより先に予想する女はただ……冷たく微笑んでいたのだった。
「先輩……兄妹って素敵ですねぇ……私も妹か弟が欲しくなっちゃった……アハハ」
「くるな……美樹……駄目……だ……」
そう口にする男は女の腕に抱かれただ虚ろな眼をして、そう呟いたのであった。
しかし……その声が届く事はなかった……