エピソード2 学校は本当に空の上
ピピピピッ!
ピピピピッ!
ピピピピッ!
朝か…。俺は目をうっすら開けて時計を見る。
現在、6時。
…うん、朝飯食わなくていいや二度寝しよ。
目覚ましを止め、素早くアラームを7時30分に設定しなおす。
よし、二度寝…
「ろーう!あっさ飯ー!」
出来なかった。
「……葉…兄?」
「朝飯〜まだか〜?」
あーうるせー。
「朝飯は作らないよ」
俺は自室から出て直接葉兄に言った。
「またか…どうしたんだよ。最近飯作らないじゃんか」
「めんどい」
俺は財布から三百円取り出す。
「ほら葉兄。コンビニ行ってらっしゃい」
「いや、いい。とりあえずほら、制服着ろ」
「制服ぅ?…あぁ、あれね」
そう、今日は学校とやらの入学式らしい。
…迎えを寄越すって言ってなかったか?
「迎えって葉兄なの?」
「おう、昨日電話で明日狼を連れて来てくれって言われてな」
制服をタンスから出して着る。
ダサくもないし凄くかっこいい訳でもない普通の制服だ。
「そのついでに朝飯を頂こうかな〜…と思いまして」
制服を着ながら気付いた。
葉兄の制服ちょっと違うなぁって。
「ねえ葉兄。何で制服ちょっと違うの?」
「これか?学校行って校長の話聞けば分かるよ」
「へぇ。…よし、着替えたよ」
「そうか。じゃ、早いけど行くか?」
「そうだね。このブースターにも慣れなきゃいけないし」
そして場所は変わって家の裏庭。
「ブースターは背負うだけでいいんだ。で背負ったら右側のボタンを押す」
言われた通りにやってみた。
あ、意外と軽い、これ。
「見ろ」
葉兄は手鏡を見せてくれた。
「え?何で映ってないの?」
「ステルス機能搭載だ。これで周りの人に気付かれずに登校できる。そして…」
ごそごそと葉兄もブースターを着用した。
「同じものを使っている人同士は見える。狼、外してみろ」
言われるままにブースターを外した。その瞬間、
「うおっ」
ふっ、と葉兄の体が見えなくなった。
「着けてみ」
「おお」
今度はぱっと体が見えるようになった。
「そういうことだ。ちなみに、一回外すともう一度ボタンを押す必要あるからな。気をつけろ。本当はステルス状態でボタンを押すと飛ぶんだけど、まぁジャンプすれば勝手に飛ぶんだよ。飛ぶ速さを変えたかったら左にあるダイヤルをいじれば変えれる」
「なるほど」
「ちなみに、女子の場合はこれらの機能+スカートの中が他人に見えない、という機能が追加されている。さらにもう一つ、飛んでいる最中にあの〜何つーの?噴射口?に触れても火傷しないという機能があるぞ」
「…凄いね」
「説明は終わりにしていくか」
「分かった。行こう」
葉兄がジャンプしてそのまま浮遊する。
それをまねして俺も飛んでみた。
「おお。飛んでる」
「後は真っ直ぐに立つとそのまま上昇、体を斜めに傾けたりすれば傾いた方向に向かって飛ぶから。…ってか慣れろ、行くぞ」
葉兄は俺をおいて一人で斜め上に飛んでいく。
俺はそれを後ろから追いかけた。
最初の頃こそ姿勢制御とかでフラフラしてたけど慣れれば結構楽しいもんだ。
今は葉兄と並んで飛んでいる。
「何か葉兄の奴僕のと少し違わない?」
追いついて並んで飛行してたらふと気がついた。
「あーこれ?これも校長の話聞けば分かる」
「へぇ…。まぁいいや。それより後どれ位で学校に着くの?」
「もうちょっとだな。そんなに早く行きたいのか?」
「折角だから色々見てみたいじゃん」
「よーし分かった。あんま動くなよぉ」
俺の左側に接近してくる葉兄。
何してるんだ?
「あったあった。よっと…」
ん?なにやらカチカチと何かを回している音が…
《これより、高速飛行を開始する。
これより高速飛行を開始する。
モードチェンジ、開始》
機械音が…機械音が!一体何をしたぁ!葉兄ぃぃぃ!
――ガキョガキョガキョ
――ガシーン
《ハイスピードモードへシフト完了》
――キィィィィィン…ボッ!
うぉ…一気に加速した!
「葉兄!葉兄、止、め、ろぉぉぉぉぉぉぉ!」
「あっはははははは!!」
下から葉兄も俺を追ってくる。…爆笑しながら。
くっそ。後で突き落としてやろうか。
あー…、あまりの加速力で物凄いGが…。
ぶっちゃけきつい。
「追ーいつーいた。今止めてやるぞー」
また後ろからカチカチいってる。
ふぅ、助かった。
――ガチャガチャ
――ガタン
《ノーマルモードへシフト完了》
「ふぅ…。葉兄ぃ、あの事おじさんに言うよ?」
「ごめん、ゆるちて」
「まぁいいけどね」
「それより、今の加速のおかげでもう学校見えるぞ?」
ほら、って斜め前を指差す葉兄。
俺はその方向を見た。
「…大きさがおかしくないか?あれ」
そう、ありえない位でかい校門があった。
「気にすんな。ほら、さっさと行こうぜ」
「そうだね」
それからすぐに校門近くには着いたけども、一つ忘れてることがあった。
それは、
「葉兄、どうやって着地すんの?」
着地の方法。
「体重を下に掛ければ降りられるぞー」
「分かった。やってみる」
ゆっくりと下降し始めた。
おぉ、出来た。
「おし。じゃ俺は自分のクラスに行くわ。またなぁ」
葉兄は手を振りながら歩いて行った。
俺も行くとしよう。
とりあえず真っ直ぐ行きゃ入り口があるかな。
よし、行くか。
……………………
ま…迷った…
真っ直ぐ行けば入り口あるだろー、とかそんなノリで動くんじゃなかった…
はぁ、どうすっかなぁ。
辺りを見回してみた。
お、右の方に誰かいるぞ。ちょっと聞いてみるか。
「すいませーん」
歩きながら声を掛けてみた。
「はい?どうかしましたか?」
こちらの方を向き、言って来た。
…あれ?何か聞き覚えのある声だな。
「私に何か用ですか?」
むこうも近づいてきた。
顔がハッキリと分かるくらいまで近づいて気付いた。
「もしかして…『先輩』?」
「何だ、『後輩』か。久しぶりだな、元気か?」
彼女は夜波風菜。
腰辺りまで伸びた黒髪。可愛い、と言うよりも綺麗、と言ったほうがいい綺麗に整った顔立ち。スタイル抜群。長身。成績優秀。運動神経抜群。
中学校時代、俺の猫被りを唯一見破った人だ。
俺も先輩の猫被りを見破ったけどな。
「道に迷ったんです。教えてください、先輩」
「その言い方は似合わねぇよ。どうせ他人はいないんだから普通に話せ」
「はいはい…。で、マジで迷ったんだけどどこ行きゃいいんだ?それと、まだ猫被ってるのか?」
「後輩だって猫被っているだろう。とりあえずついて来い。体育館に行くぞ」
俺を置いてさっさと歩き出す先輩。
うん、行動が早いのは変わってないなぁ。
少し歩くと、人がポツポツと道に現れ始めた。
それすなわち、俺と先輩が猫被るということ!
「ところで先輩。何であんな所にいたんですか?」
「私はちょっと早く学校に着いたから散歩してたの」
「そうなんですか。それより先輩、この学校って大きすぎだと思いませんか?」
「ふふふ。一週間もすれば慣れるわよ。
はい、ここが体育館。あそこの壁にクラス表と新入生のこの後の行動が掲示されているから、また後で会いましょう」
「ありがとうございました、先輩」
先輩は猫被ったまんまどっかへ行った。
俺もクラス確認して、さっさと行くか。
誰か知ってる奴いねーかなぁ。
とりあえず見てみるか。
一年一組 A・B
俺の名前は無し、と。
二組 A 無し。B 無し。
三組 A 無し。B …お、あった。
知ってる奴誰もいねぇなぁ。
ま、いいか。
俺は今後の予定を確認し、ご自由にお取り下さいの所から地図を持って、一年の校舎に向かった。