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第08話 捕食

「うぉっと!?」


 出口についた時に、俺は驚愕した。

 前方には針葉樹林が延々と広がり、遠くには雪山らしき物が見える。

 そして、足元の先は無く、断崖絶壁になっていた。

 傾斜が70度くらいある岩壁が上下に続いている。


(仕方ねぇな)


 俺は、リュックからこうなったときのために用意していたロープと、杭を十数本と、ハンマーを取り出す。

 幸い高さは10メートルとそんなに高くなく、岩肌は固い。

 胴体にロープを巻きつけ、ハンマーを手に持ち、杭を数本通路に打ちつけて、ロープを引っ掛ける。

 ロープの反対側を地面に垂らして、ロープの両端を固定させて命綱とする。


「お前は、飛んで降りろ」


「ぴぃ」


 ヴィゼルは口をぽかんと開けて、めんどくせぇと言わんばかりの表情をしているが、仕方なくパタパタ飛び始めた。

 俺は、そのままゆっくり壁沿いに這って、ロープを手に持ち恐る恐るだがレスキュー隊のように徐々にロープを使って降りる。

 一応、万が一再度登る可能性があるので、登る際にロープを引っ掛けるための杭を等間隔に打ちこみながら徐々に降りていく。

 結局1時間かけて岩壁を降り、最後はロープを回収する。

 そして、ようやく洞窟から脱出することが出来た。


「はぁ・・・」


 俺は大きく息を吐く。

 目の前には空が見えないくらい密集した木で覆われている。

 一応龍鱗鎧の下にはウインドブレーカーとヒートテックを着て、カーテンマントを羽織っているので寒さは感じない。

 まずは水辺を探さなければならない。

 絶壁の出口で見たところ、ざっくりいって右手側10キロメートルほど先に川が見えたので、そちらに向かうことにした。


「ヴィゼル、ここからは森の中での移動になる。なんか、異変に気づいたらすぐに知らせろよ!」


 パタパタ前方を飛んでいる小さき黒龍にお願いをする。


「ぴぃ!」


 わかったと言うかのように一声鳴き、ヴィゼルはそのまま背中のリュックの上に舞い降り後ろを警戒する。

 俺は、周りの物音に注意しながら一路水辺を目指して森の中を進む。

 1時間近く歩いたところ、前方10メートル先に茶色いものが動くのが見えた。

 なんだろうと思ってゆっくり近づくと猪だ。

 体長は1メートルくらいあり、木の根元にあるきのこを無心に食べていて、まったくこちらに気づいていない。

 俺は洋弓を取り出し、イノシシに向かって矢を放つ。


 ヒューン、ドッ


 矢は見事イノシシの尻に深々と刺さった。

 しかし、イノシシはグルリと向きを変えて尻に刺さった矢のことなど関係無いかのようにダッシュで突っ込んでくる。


「くっ、まじか!」


 俺はもう一本矢をつがえて、放つ。


 ドッ


 今度は鼻のあたりに見事命中するが、それでもお構いなしに突っ込んでくる。

 あっという間に目の前にイノシシが迫ってきたので、慌てて洋弓を投げ捨て剣を抜く。


「うわっ!?」


 ものすごいスピードで突っ込んできたイノシシを間一髪左によけて難を逃れる。

 イノシシは急に止まれないみたいで、そのまま結構な距離進んで、向きを変えてまた突っ込んできた。

 今度は、剣を水平に持って迎え撃つ。

 突進してくるイノシシをひらりひらりと二、三度右左と避けていると、タイミングをつかんできた。


 そして、四度目の時にイノシシを直前で避けると同時に、イノシシの前に水平にした剣を出して振りぬく。


 スパァーン


 イノシシは鼻の少し上のあたりから、綺麗に上下に真っ二つにされて3メートル先でパタンと倒れて絶命した。

 なんとかイノシシに勝利したが、冷や汗がたらたら出た。

 俺は上下に分断されたイノシシを見る。

 綺麗に骨ごと真っ二つにされている。

 ゾンビの時からよく切れる剣だと思っていたが、心底切れ味に感心する。

 たいして力は入れていないが、豆腐を切るかのような感じだ。

 やはり龍に刺さっていた大剣が変化(?)したであろう、この剣は特別なのだろう。

 すぐに、前後に刺さった矢を抜く。

 そして、なぜ2本も矢が刺さったのに、まったく関係ないかのように突進してきたのか調べることにした。

 ナイフを使って、矢のあたりを切り裂いてみる。

 結果わかったことは、鼻も尻のあたりも両方とも筋肉部位だった。

 両方共内臓などの主要器官にはまったくダメージが届いてなかった。

 つまり、行動不能にさせるにはそれなりの臓器にダメージを与えないとダメなのだろうと結論に至る。

 腹のあたりをナイフで割いて、内臓の位置を確認すると、前足よりやや後方の横から狙えば心臓っぽいものを突き刺すことが出来ることがわかった。

 あらかた原因がわかったので、せっかくとったイノシシ肉を焼いて食べることにした。

 それにしても人間いざとなったら何でもできるもんだ。

 イノシシの解体なんて初めてやるが、気持ち悪いなんて言ってられない。

 とにかくやらなければ死ぬだけだ。

 自分が持っている知識をフルに思い出し、何とかしようと頑張る。

 うまく解体できなかったが、とりあえず食べる部分を塊として切り分けることは出来た。

 周囲から枯れ木を集める。

 そして、周りの木に火が燃え移らないように、地面の落ち葉を除去して浅い穴を掘り、大きめの石を数個円状に並べて釜もどきをつくる。

 その中に木の枝を入れて、100円ライターで枯れた落ち葉に火をつける。

 その頃にはもう周りは薄暗くなっていた。

 俺は、肉の塊を適当な大きさに切り分ける。

 リュックから小さなフライパンと塩コショウを取り出し、フライパンにイノシシの肉を入れる。


 ジュージュー


 フライパンの中では、イノシシの肉の脂肪が熱で溶けて、肉の焼けるいい匂いがする。

 俺は塩コショウをぱっぱとふりかけて、焼けた肉をナイフで一口大に切り分けて口に頬張る。


 「おっ、意外にうめぇ!!」


 臭みがあると思っていたが、意外に臭くなく、塩コショウがきいて非常に美味い。

 肉は数日おいたほうが熟成されて美味しいというが、今の俺にとってはまったく関係なかった。

 ウィゼルは焼いた肉は好きではない様子で、すでにイノシシそのものにそのままかぶりついて貪り食っていた。

 結構な量を焼いて食ったが、全然イノシシ肉は減っていなかった。

 そのまま捨てるのももったいないので、すぐに傷みそうな内臓系を除去し、頭を落として皮をはぐ。

 持ち歩くのは重くて無理なので、3キロほど切り分けて、近くにあった大きな葉っぱに包む。

 そして、それをリュックに入れ、残りは枯れ木の中に隠すことにした。


(うーん、多分食われるだろうなぁ)


 

 半分諦めつつ、一応取り出しにくいように、枯れ木の中に尖った枝を返しのように置いたりしてあれこれ細工をしておく。

 その日の夜は、その作業を終えた後、俺は焚き火の前でヴィゼルと交代しながら野宿することになった。


 ピピピピピ


 ソーラー式の腕時計が交代の時間を知らせる。

 近くの木の上で周囲を警戒していたヴィゼルが、パタパタ飛んで戻ってくる。

 さすが黒龍の子供、言葉は喋れないが、説明せずとも時計という物が理解できていた。

 ただ、時計自体はあまり役に立たないことがわかった。

 どうもこの世界の一日は24時間ではなく、27時間前後のようだ。

 この世界に来て3日目に判明した。

 理由は簡単で、龍の出口から見える空の様子からざっくり時計を合わせたところ、日の出・日の入り時間が常にずれることに気づいたからだ。

 なので、今では腕時計はアラーム機能としてしか使っていない。

 正直、強引に呼び出されて以来、困ったことの連続だった。

 しかし、なんとかやってこれているのは、この小さい黒龍のお陰だ。

 元々原因はこいつにあるのだが、かっこいいボディと愛嬌のある行動に正直癒されている自分がいた。

 手の中で丸まって休む小さな黒龍の背中を軽く撫でると、フルフルと気持ちよさそうに身震いしている。

 次第に、規則的な呼吸音が聞こえてきて寝ていることが分かる。

 こいつ自身も俺がいないと危険であることを正確に理解しているのだろう。

 俺はその寝姿から、この小さな黒龍に信頼されていることを実感する。

 そんな事を思いながら、ふと天空を見上げる。

 ほとんど木の枝で遮られて夜空は見えづらいが、木々の隙間から月の3倍の大きさはあろうかという衛星が、3つ空を浮かんでいるのが見える。


「…… どう考えても地球じゃねぇな」


 俺はそれを見ながら、はぁ… と長いため息をついたのであった。


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