第06話 洞窟探検
ヴィゼルは天井の方を向いて、クイックイッと顔を穴に向けて指し示す。
(ああ…、やっぱり)
なんとなく、わかっていたが、しょうがない。
ヴィゼルは親龍と一緒に移動していたのだから、それ意外しらないのだ。
「俺は、空を飛べない。わかるか?」
俺は手をパタパタとした後、体の前で両手を使って大きくバッテンを作る。
ヴィゼルはコクコクとうなずいて理解したことを示す。
「だから、これから横穴を通って出口を探すことにする。お前もついてこい。いいな!」
ヴィゼルはちょっと嫌な顔(?)をしたが、仕方ないと諦めてパタパタと飛んで、背中のリュックの上に乗る。
「あと、敵を察知したら知らせろよ!」
俺は、顔を限界まで後ろに回してヴィゼルに指示する。
ヴィゼルはわかったと言う合図なのか、俺の後頭部をコツコツと口で突いた。
俺は洞窟を出るために、横穴に突入を開始した。
横穴内部は、ところどころに生えているコケがぼんやり光を放っていて真っ暗闇という感じではない。
「異世界さまさまか? まぁ、真っ暗闇でないから良いけど…」
俺は横穴に入る際に、手に持っていた懐中電灯を消して、ヘルメットに取り付けたヘッドライトをつける。
ヘッドライトのお陰でうすぼんやりの状態から、かなり明るくなる。
意を決して一歩一歩踏み入れる。
横穴は高さが3メートル横幅が3メートル近くあり、蛇行していて先を壁が邪魔して見えづらい。
そのまま、1時間ほど特に何も無く順調に進む。
ヴィゼルは時折パタパタと俺の横を飛び、疲れたらリュック上や、肩に乗って休む事を繰り返している。
ズッズッズッ
横穴に入って結構進んだところ、曲がり角の先から何か変な引きずる様な音が聞こえる。
肩に乗ったヴィゼルと顔をあわせて、俺は人差し指を口にあてヴィゼルに静かにするように合図する。
ヴィゼルは小首を傾け、意味わからんといった様子だ。
「(静かにしてろってことだよ!)」
小声でそう言うと、ヴィゼルは頭を低く下げた。
足音を立てないように静かに進むと、徐々にすえた酸っぱい嫌な臭いが立ち込める。
俺は手に入れた青い鞘の剣を抜いて、前方に注意しながら、ゆっくり進むとそいつはいた!
そいつは俺に対して背中を向けて、片足を引きずるようにして移動している。
リュックを下ろして、その上に乗っていたヴィゼルに小声で言い聞かせる。
「お前はここで、待っていろよ。俺が片付けてくるから」
「ぴぃ!」
ヴィゼルはわかったと一声鳴いて、リュックの上に乗って待機する。
そいつは俺のヘッドライトの明かりに気づいて振り返る。
(うぅわぁ、きったねぇ・・・)
顔が半分崩れたいわゆるゾンビがいた。
「うぅぅぅぅ、おぉぅぉぅ、おぅぉうぉううぉうっぉ・・・・」
そいつは意味不明な事を呻きながらゆっくりと俺に近づいてくる。
ただ、どう考えても動きが遅い。
正直走って横を通り過ぎてもなんなく抜けれそうだ。
とはいえ、不意にのしかかられたら危険だし、ホントかウソかわからないが、映画ではゾンビに噛まれるとゾンビになる(?)らしいので取り敢えず倒すことにした。
俺はトットコ走って、ゾンビの後ろに回り込み、肩口から袈裟懸けに剣を振って切り倒す。
まるで豆腐を切るかのように綺麗に斜めに刃が通り、上半身が崩れ落ちる。
そのあと、上半身のゾンビは片腕だけで地面をズルズルと這って近づいてくる。
トドメとばかりに頭に何度か剣を突き刺すと、しばらくして完全に動かなくなった。
初めて魔物を討伐したが、正直あまり嬉しい気持ちにはなれなかった。
それより、あまりに臭いので、すぐにでも場所を移動したかった。
ただ一応確認のため、来ている服のポケットを探ると、小さな袋がありコインらしき物を見つけた。
それを回収し剣についた汚れを、装備作成時に潰した作業服の切れ端で綺麗に拭って、その場を立ち去った。
その後、5度ゾンビに遭遇したが、なんなく倒していった。
意外なことに、ありえない状況における自分の順応性にびっくりだ。
まさに、バイオ○ザートチックなことが現実に起きているのに、自分自身あまり動揺していない。
もしかしたら、ヴィゼルとつながっているということの影響なのかもしれない。
そんなことを考えながら歩みを進める。
ありがたいことに、ずーっと通路は一本道で迷うことはなかった。
そのまま進んでいると、洞窟の天井に穴が開いて部分的に青空の見える空間にでた。
遠くの方に人影らしき物が複数動いているのが見える。
俺はヘッドライトを消して、リュックから折りたたみ式のオペラグラスを取り出す。
それを使って、動くものを確認する。
(ん? 子供? いや違うなぁ。剣を持っている。不細工な顔しているな)
子鬼という表現が適切な感じがする。
いわゆる、ゴブリンというやつか?
ヴィゼルも俺のヘルメットの上に乗っかって前方を見ているようだ。
俺はそいつらに見つからないように、点在する岩の影に隠れながら徐々に近づいていく。
20メートルの距離に近づいて、はっきりわかった。
これまた汚い身なりで、布切れ1枚を羽織った3匹の醜悪なゴブリンがたむろしている。
手にはそれぞれ、ナイフ、ショートソード、手斧を持っている。
俺は岩の上に音を立てないように登り、リュックを降ろし担いでいた洋弓と矢を手にもつ。
「お前は少し離れて飛んでいろ」
そうヴィゼルにいうと、頭の上に乗っていたヴィゼルはパタパタと飛んで後方に移動する。
大きな岩が邪魔をしてゴブリンたちの姿が見えたり、見えなかったりする。
(石でも投げて、ひきつけるか?)
俺は、近くにあった拳大の石を持って、その三匹に向かって投げると同時に、矢をつがえる。
投げた石が大きく弧をえがいて、一匹のゴブリンに頭に大当たりしてズッコける。
(ナイスショット!)
俺は心の中でグッジョブと叫んだ。
コケて倒れたゴブリン以外の2匹はあたりをきょろきょろ見回し、俺を見つけるなり鬼の形相で近づいてくる。
(子鬼が鬼の形相とはこれいかに?)
自分自身にツッコミ(?)を入れつつ、
俺は一番近いゴブリンの動きを予測しながら弓を射る。
バシュッ
1矢目は流石に20メートル近くの距離があり、動く物体には簡単に当たらない。
2矢目をつがえて、再度射ると、マグレだが見事脳天にぶっすり命中して、倒れて動かなくなった。
3矢目をつがえて、狙いを定める。
もうゴブリンは5メートルの距離にいる。
バシュッ
見事胴体に矢が突き刺さり、そのまま矢の勢いで後方に吹っ飛び、これまた動かなくなった。
最後に、石に当たったゴブリンが岩を登って、もう間近に迫ってきた。
矢をつがえる時間がないので、洋弓をその場に置いて剣を抜く。
俺とゴブリンは剣を持って互いの距離を保ちつつ円状に移動する。
すると不意にゴブリンが剣を両手に持って突っ込んできた。
カン
渇いた音がする。
腹部の辺りに当たったゴブリンの剣は、龍鱗鎧に阻まれ貫くことは出来なかった。
(やべーやべー、あっぶねぇ!)
俺は内心大慌てな状態だったが、思いのほか自作鎧がきちんと機能してくれたことに安堵する。
また、俺とゴブリン間で一定の距離ができ、緊張の状態が続くかと思いきや、
ゴォオォォォォォオオオオオ
側面から火炎放射器のような強力な炎が噴射されて、ゴブリンは火だるまになった。
その瞬間、俺は大きく踏み込んで剣を水平に横薙ぎすると、火だるまのゴブリンは綺麗に胴体を上下に分離されて絶命した。