第04話 探索
俺は懐中電灯の明かりを頼りに、研究棟をでて洞窟内を探索することにした。
一応、研究室にあった金属バットを手に持ち、同期の研究室仲間が遊びのため持ってきたスケボー用の肘・膝のプロテクターを身につけた。
最後に、実験室用の簡易ヘルメットをかぶり、折りたたみナイフをポケットに入れ、背中に空のリュックを背負う。
まずは、昨日死んだ黒龍の亡骸を調査することにした。
黒龍の体調は頭の先から尻尾の先まで、ざっと20メートル近くある。
四本足で背中に巨大なコウモリの様な膜状の羽がついており、体は握りこぶし大の黒鱗で覆われていた。
翼を広げれば、中型の飛行機と同じサイズだ。
俺はその鱗の一枚をつかんで、はがしてみる。
力いっぱい引っ張ってみると案外簡単に抜け落ちた。
それにしても非常に軽い。
扇の形をしていて材質は薄いプラ板のような手触りと軽さで、皮膚呼吸の為なのか、ランダムな位置に小さな穴が開いている。
俺は鱗の両端を持って力を加えてみると、少ししなる。
しかし、一定量しなった後はどれだけ力を加えても、折れたり曲がったりしなかった。
俺は強度を調べるため、段差のある岩の上に鱗を乗せて、片足で踏んで固定し、突き出した反対側を思いっきり逆の足で踏みつけたが、全然割れなかった。
(こいつは使えそうだな)
俺は黒龍の鱗をドンドン抜いて、背中のリュックに入れていく。
結構な量の鱗を採取したところ、黒龍の首あたりの1メートル四方の鱗がなくなって下地が見える。
鱗の下の皮膚を触ると、硬い岩のようだ。
折りたたみナイフで突き刺してみるが、全然刃が通らなかった。
その後、グルッと黒龍の周りを回って見る。
よく見ると、背中には無数の銀色の矢が刺さっている。
また、右前足と尻尾の先端が切断されて欠損している。
腹部を見ると、巨大な剣が柄近くまで深くつき刺さって、その周囲が紫色に変色している。
(この大剣が致命傷か?)
俺は大剣に手をかけて思いっきり力を入れて引きぬこうとしたが、まったくビクともしない。
(うーん、後で実験室からワイヤーとをジャッキをもってくるか)
大剣を引き抜くことを諦めて、今度は洞窟内を見て回ることにした。
懐中電灯であたりを照らすと、平均すると30メートルくらいの高さにゴツゴツとした岩の天井がある。
天井を照らしていた光をスライドさせていくと、天井の一部に大きな空洞があった。
俺は走ってその空洞の下に向かう。
空洞の下から見上げると、空洞の先には星空が見えた。
(ここから出入りをしているのか)
高さにすると、自分の立っている位置から50メートル先に外への出口がある。
とはいえ、空でも飛べなければそこから出ることは不可能だ。
仕方がないので俺は今度は洞窟の岩壁沿いに歩いてみる。
グルッと一周回ったとことで、この洞窟の空間の大きさは、サッカーコート1面くらいの大きさであることがわかった。
そして、人が1人通れるサイズの横穴を2箇所見つけた。
横穴を調べようと思い、中に入ってみる。
ズッズッズッ
ギャッギャッギャッ
横穴の前方の遠くで引きずる様な音と、奇怪な鳴き声が聞こえてきた。
その音を聞くと急に俺は恐ろしくなり、その先に進む勇気が無くなったので取り敢えず研究棟に戻ることにした。
研究室に戻ると、小さい黒龍が思いっきり体当たりしてきた。
「ぴーーぃ!」
1人置いていくなと言っているようだ。
「悪かった。ごめんごめん」
俺は小さい黒龍にあやまると、わかればよろしいと言う感じで首を上下にふる。
餌をやったお陰か、小さな黒龍とはかなり打ち解けてきた。
手のひらに乗せて、まじまじ見るとやはり龍だけにかっこいい。
親龍をそのまま小さくしたようなフォルムをしている。
黒光りしたボディと繊細なディティールは、フィギュアにしたら絶対に売れる!
俺は手乗り龍をうっとり眺めていると、
くーきゅるきゅるきゅる
小さな黒龍から、またかわいい腹の虫が鳴いた。
翼をたたんで、首を伸ばして上目遣いで懇願してくる。
「もうはらへったのか」
しょうがないので、冷蔵庫の中からチーズとハムを取り出し適当なサイズに切り分けて皿に盛る。
ミネラルウォーターをコップに入れて、2つを小さな黒龍に出してやった。
小さな黒龍は美味そうに食べはじめる。
そのあと、自分の食事のために、やかんに水を入れてカセットコンロでお湯を沸かして、カップラーメンを作った。
なんとか腹が満たされたところで、実験室に行きワイヤーロープとジャッキを探し、再度黒龍の死骸に向かった。
今度は肩に小さな黒龍が乗ってついてきた。
小さな黒龍は亡骸に来ると、パタパタと飛んで親龍の頭に乗って自らの顔をスリスリしている。
俺はその様子を横目にしながら、腹に突き刺さっている大剣の柄にワイヤーを巻きつけ、ワイヤーの反対側を石柱で固定し、間にジャッキをつける。
ジャッキのハンドルを回すと、徐々にワイヤーがピーンと張られていく。
どんどん、ジャッキの締め付けを高めていくと、ワイヤーがギリギリ軋み始める。
かなりの力が加わっているが、それでもなかなか大剣は腹から抜けない。
(これ以上やるとワイヤーが切れるか? どうする?)