第03話 進路
「ピィピィピィー」
ヴィゼルと呼ばれる小さな黒龍は母龍?の顔にしがみついてずーっと泣いている。
「おおぃ、お前は喋れるのか?」
俺は小さな黒龍に向かって聞くが、
小さな黒龍は完全に無視しして泣き続けている。
「ちょっと、無視すんな! 大体泣きたいのはこっちだよ。いきなりこんなところに呼び出されてありえねぇよ。くそ!?」
そう言うと、俺は小さな黒龍のところに行って、両手で捕まえる。
かぷ
「いってぇ!? こいつ噛みやがった。なにすんだ」
小さな黒龍はパタパタと飛んでまた母龍の顔にしがみついている。
俺は噛まれた部分をみると、手には完全に歯型ついて、血がにじみ出ている。
「勝手にしろ!」
俺はそう言うと、取り敢えず研究室に戻ることにした。
外から見る限り、どうやら研究棟まるごと移動してきたみたいだ。
広い岩の洞窟に、場違いな鉄筋コンクリート2階建ての建物が立っている。
あれだけ大きく揺れたが、崩落や大きなひび割れのようなものはなく、建物自体は大丈夫のようだ。
俺は考えることに疲れたので、研究室に常備している寝袋を取り出し、長椅子のソファーに寝っ転がって寝ることにした。
つんつんつんつん
「・・・んん、痛っ、いてーよ」
頭を突くものがいる。
かぷ
「痛ってー」
何かに唇を噛まれた。
「なんだ、なんだよ」
俺はソファから起きると、目の前に小さな黒龍がパタパタ飛んでいる。
「・・・はぁ、夢じゃねぇのか」
目の前に存在する空想上の生き物が、夢から一気に現実に戻す。
くーきゅるきゅるきゅる
目の間の未知なる生き物から、変な音が聞こえてきた。
「なんだ、腹が減っているのか?」
小さな黒龍はコクコク細長い首を上下にふる。
「親が死んでも腹はへるってか」
俺はそう言いつつ、研究室に備え付けの冷蔵庫を開けて、中身を確認する。
もちろん冷蔵庫に電気は通ってないが、正直大したものは入っていない。
ほとんど、酒のツマミになりそうなものばかりだ。
チーズ、生ハム、サラミ、ナッツ、ワインにビールに炭酸ジュースが数本あるだけだ。
ちょっとした宴会ができそうだ。
取り敢えず、生ハムとサラミを取り出し、適当に切って皿に乗せて小さな黒龍の前に出してみた。
小さな黒龍は、自分の体と同じくらいのサイズの生ハムを、旨そうにパクパク食べ始めた。
俺は、その間に建物の中を見まわることにした。
昨日はいきなり色んな事が起きて、そこまで頭が回らなかった。
研究棟は2階建てで、全部で16部屋ある。
各部屋を順番に見て回る。
どうやら、一緒に飛ばされてきた人はいないようだ。
取り敢えず、各研究室にあった冷蔵庫の中身や保存食を物色していって、すべてかき集めてきた。
カップラーメン 23個
ペットボトル飲料数 12本
スーパーの弁当 3個
おつまみ類 5袋
ビール 21本
ワイン 2本
炭酸ジュース 32本
俺はすべての食料を自分の研究室に持ち運んだ。
「取り敢えず、今すぐ餓死する心配はなさそうだな」
俺はそう言うと、食料を前にして安堵する。
「ピィピィ」
小さな黒龍は食事を終えて、パタパタを飛んで来て、俺の頭の上にドカッと乗っかる。
俺はその小さな生き物を頭の上から両手で抱えてゆっくり下ろすと、あぐらをかいてソファの上に座り、黒龍を膝の上にのせる。
「これからどうするかなぁ・・・」
俺は膝の上で丸まっている小さな黒龍を眺めながら、今後どうするか思案していた。