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第01話 転送

「疲れたなぁ」


 俺こと、田辺敦は研究室で脆性材の破壊実験データの整理をしていた。

 部屋には俺しかいない。

 他の研究室の仲間は、早々卒論を仕上げて就職も決まり街に繰り出してエンジョイしている。

 そんな中、俺一人教授の指示で居残りだ。

 大学院に進む道を選んでしまったから仕方がない。

 膨大な実験データを黙々とエクセルに入力していく。

 データ入力が終わったら、その結果を元に数値シミュレーションで再現しなければならない。

 そのためのプログラミング作業が待っている。

 先は長いので、取り敢えず一服休憩を入れることにした。

 俺は机の上のマイマグカップと買い置きしていたカップラーメンを持って、給湯室に向かう。

 やかんに水を入れて、コンロに火をつけふと顔をあげ壁を見る。


「あー、もうクリスマスイブかぁ」


 壁にかけてあった日めくりカレンダーを見ると12月24日になっていた。

 今年も彼女を作れず、男1人で大学の研究室でデータ整理の作業とは悲しくなる。


 ぴーーーーー


 やかんから蒸気が立ち上り、沸騰したことを知らせる。


「うぁっ、熱っち!」


 カップラーメンにお湯を注いだ時に、誤って蓋にお湯がかかってはねて手の甲にかかった。

 急いで洗面台に行き、蛇口から水をどーっと出して手の甲を冷やす。

 開いている手で、戸棚からコーヒーのビンを取り出し、スプーン1杯分のインスタントコーヒーをカップに入れ、お湯を注ぐ。

 蛇口を閉めて、やけどを確認するが大したことはなかった。

 俺は、カップラーメンとコーヒーを持って、また研究室に戻り、2つを机の上に置く。

 ラーメンが出来るのを待っているあいだ、研究室のブラインドを上げて、外を見るとチラチラを雪が降っている。


「どおりで寒いはずだ」


 俺はひとりごとを言いつつ、エアコンの温度を2℃上げた。


 ブォーーーン

 カタカタカタカタ


 エアコンの音とは別な音が建物全体からし始めた。


「ん、また地震か?」


 近年、震度2程度の小さな揺れはしょっちゅう起きる。

 研究室は2階建てで、かなり老朽化しているのでちょっとの揺れでも大げさに振動する。

 初めて研究室に入ったときは、ヤバイと思って何度も走って外に逃げたが、外では全然揺れていなかった。

 今では、もう慣れたもので、ある程度の大きさの地震が来ることが初期振動の感じでわかるようになってきた。


 ガタガタガタガタ


 また、建物が小刻みに揺れる


「おおっ、今回はデカイかもしれん」


 いつにもなく、大きな初期振動を感じて、俺はコーヒーをすすりながらPCからネットを見て震源地を調べる。


「あれ、まだ速報がでてないなぁ」


 ガタガタガタガタガタガタ、


 ゴトゴトゴトゴトゴト、


 ドドドドドド


「ん、んんん、これヤバくねぇか」


 振動がどんどん大きくなってくる。


 ドーン


 ガチャン


 ロッカーの上に山積みにされていた雑誌や、花が刺してない空の花瓶が地面に落ちて盛大に割れる。


「うぉおおおお、やべー」


 建物全体がゆっさ、ゆっさとわかるくらい揺れ始めた。

 立っているのもやっとな状況だ。

 明らかに判断が遅れた俺は仕方なく、自分の机の下に入って縮こまる。


「くそ、崩れるなよ・・・」


 俺は机の下で祈りつつ地震をやり過ごす。

 そうすると、今度はまばゆい光が建物の外から差し込んできた。


「なななななんだ・・・」


 一瞬大きな揺れがドーンと来たかと思った瞬間、視界が強い光で真っ白になった。

 次の瞬間、揺れも光も嘘のように無くなった。

 部屋の中は真っ暗闇だ。

 俺は急いで机の下から這い出て、手探りで災害用に設置された懐中電灯を取り出し、あたりを照らす。

 あちこち足の踏み場のない状態の研究室を抜け出し、急いで建物の外に出た。


「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁああああああ」


 外に出て懐中電灯であたりを照らすと、なぜかそこは巨大な洞窟の中だった。

 俺はその時は気づいていなかったが、暗闇の中にいた巨大な黒い影にある2つの光る目が、俺を見ていた。

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