サンタクロースと天使の子
クリスマス用に書いていた短編です。大幅遅刻すみません。もうクリスマス終わってました。
スノードームって知ってるか、と三田は言う。今夜はそれだ、と。
スノードームっすか、と黒臼も言った。
「それって、超雪降るってことっすか」
「そうらしいぞ。知らんけど」
煙草を出してくわえる三田に、「三田さんってテキトーなこと言うおっさんっすね」と黒臼は言う。返事はなかった。
「じゃあさっさと配りましょうよ」
「テメーさっきテキトーなおっさんつったろ」
「無視するんじゃなかったんすか」
「火がつかねぇこれ。ライター買ってこい」
嫌っす、と言いながら黒臼は白くて大きな袋を担ぐ。この中身を配達するのが彼らの仕事だ。
彼らは今、赤い特徴的な服を着こんで立っている。街へ出れば何人も同じような格好の人々を見た。しかし人々と彼らの違いは、偽物か本物かだ。
「しっかしサンタクロースも楽じゃないっすよね」
「お前、サンタが楽だと思ってこの業界来たのかよ。辛い仕事としては一位二位を争うだろ」
「こんな仕事、クリスマスに一緒に過ごす誰かがいないやつしかやらないですよね」
「自虐ネタか」
「まあ僕は、仕事に理解がある彼女と明日パーティするんですけど」
「そうか、喧嘩売ってんのか」
いけすかねーガキだぜ、と言いながら三田も大きな袋を担ごうとする。が、なぜだか三田は顔をしかめた。
「重……? なんだこの袋。何が入ってんだ?」
一度袋から手を離し、三田は袋をまじまじと見つめる。プッ、と吹き出したのは黒臼だ。
「ちょっ、三田さん。力落ちたんじゃないですか? 老化?」
「うるせーよ。持てないことはないけどな、プレゼントの重みじゃないっていうか」
「そんなこと言ってー。いいんですよ三田さん、いつでも引退して」
言いながら黒臼は例の袋を前から抱き上げてみる。むにゅっとした感触。「きゃっ」という楽しげな声。
すぐさま黒臼は袋から手を離し、一メートル距離をとった。
「みっみっっみ」
「今、声がしたよな」
「三田さん! 今この袋から子供の声が!」
「それ言ったろ、俺が」
「なんかむにゅっとしましたし!」
すると三田は、なんの迷いもなく袋を縛っているリボンを解き始めた。「心の準備をさせろ!」と黒臼が叫ぶ。
するするとリボンが解かれ、三田が「おっ」という顔をした。
「もう、三田さんってば繊細な心をひと欠片も持ってないんだから」
恐る恐る黒臼が近づいてきて、袋の中身を見た。「おっ」という顔をする。
袋の中身には、満面の笑みで三田たちを見上げる女の子が入っていた。
「女の子だ」
「まるで生きてるみてーだな」
「生きてますよこれ」
「生きてたらマズイだろ」
こんにちは、と黒臼が言ってみる。こんにちは、と女の子が返してきた。
腕を組み、三田が眉をひそめる。
「恐らく三田さん、『妹が欲しい』なんて無垢な少年の手紙に書いてあって」
「そうだとしてもお前、人間なんて運んだことあるか?」
「ないっす。三田さんにないなら僕にあるわけないじゃないすか」
ちょっと待ってろ、と言いながら三田は携帯電話を取り出してすたすたとどこかへ歩いていく。
その間に黒臼は袋から少女を抱き上げてみた。抵抗はされなかったが、なんだかいけない事をしている気分になる。
いくつか質問をするも、少女たちは全て素直に答えた。
「おい」
「はうぃ!」
「なに慌ててんだよ」
別に、と言って黒臼は少女を慌てて降ろす。
「まあなんだ。上のミスっぽいぞ。願い事の集計とプレゼント調達は分業されてるだろ?」
「そうっすね」
「願い事の集計の時点で、無理のある願いは弾かれるんだが、その時に弾き忘れたらしいんだ。そんで調達係に『いくらかかっても経費で落とすから全部調達してこい』と」
「言ったら女の子をどこからか調達してきたわけっすね。やばいなそれ」
どうしますか? と黒臼が尋ねる。返すよ、と三田は淡白に言った。
ぽかんと口をあけて驚くのは、少女だ。
「かえるの?」
「悪いなぁこんなところまで。今戻るからな」
「え、やだ」
少女はそのまま仰向けに寝転がり、力いっぱいに手足をばたつかせ始めた。
「やだやだ! やだ! かえりたくない! 新しいおうち行く!」
今度は三田たちがぽかんとするしかなかった。
尚も少女は泣きながら手足をばたつかせる。やがて黒臼が三田を伺い見て言った。
「運んであげましょうよ。プレゼントなんだし、本人もこう言ってるし。需要と供給が合致してるなら、ミスだろうといいじゃないすか」
「需要と供給の合致ねぇ」
三田は頭の後ろを掻きながら少女をじっと見つめる。
「そう上手く行くか?」
言いながらも三田は着ている上着を脱いで少女に着せた。サンタクロース用の赤いコートだ。
「ソリに三人も乗るといいが」
「乗らなかったら三田さん降りてくださいよ。Yシャツ姿で不法侵入なんて即通報だから」
「うるせぇお前が降りろ」
♪rin rin rin rin rin rin rin♪
愛くるしいトナカイが存外力強く足を運ぶのを、少女がキャッキャと言いながら見ている。
「そうだ、メリーちゃんって言うらしいっすよ。ね、メリーちゃん」
「うん! メリーの名前メリー!」
「二回自己紹介された気分だ」
先程までの暴れっぷりとは対照的に、メリーはずっとにこにこしている。
そうだ、と黒臼が笑顔で口を開いた。
「僕らの名前、言ってないよね」
「おい、その子はプレゼントだぞ」
「いいじゃないですか。僕は黒臼って言うんだ。こっちの恐い人は三田さんだよ」
え、とメリーは目を丸くする。
「こわくないよ、ミタ。優しいよ。あったかいよ」
ギュッと赤いコートを握りながらメリーが言う。三田はサンタ帽を目深に被った。
「僕は?」
「くろーすも好きー」
「おほほ」
よくわからない声を発するくらいには嬉しかったらしい。力強くガッツポーズして、三田のことをバシバシ叩く。
「この聖なる夜に今一番変態に近いのは、お前だろうな」
「うるせーっすよ」
そうこうしているうちに、三田はソリを止めた。彼らはこの街で、プレゼントを配達する。
「んじゃ、メリーはここで待ってろよ」
「えー、待たせるんですか? こんなに寒いのに。凍死しちまいますよ」
「あー……それもそうだよなぁ。でも連れてくのもどうかと」
結局、絶対に三田たちのそばを離れないことを約束してメリーも連れて行くことにした。大喜びのメリーを一緒に連れていると、三田たちが不審人物に見えないというのも理由の一つである。
クリスマスの明るさはまだあるものの、夜の静けさが訪れた街。まず、仄かな灯りの漏れる喫茶店でメリーに待っているよう告げる。
「すぐ帰ってくるから待ってるんだよ」
「マスター、お代はここに置いておく。ココアでも飲ませてやってくれ」
不安そうな顔のメリーを置いて、三田と黒臼は仕事をしに行ってしまった。
少ししょんぼりしながら、メリーはココアをすする。温かい甘さが体中に広がった。
店の奥で「いてっ」と声がする。メリーには高すぎる椅子からなんとか降りて、声のする方に近づいてみた。
「どうしたの?」
「ああお嬢さん。大丈夫だよ、ありがとう」
見れば店主の親指からは少し血が出ていた。痛そう、と思いながらメリーは近づいて、店主の大きな手を自分の小さな手で包む。
そっと離すと、傷は綺麗に消えていた。
「一体……どうなっているんだ」
目を白黒させる店主に、「ココアありがとう」と言ってメリーは背を向ける。店主が追いかけた時には、もうメリーは外に出てしまっていた。
♪rin rin rin rin rin rin rin♪
「あ、この袋もう終わりっすよ」
袋をたたんで、黒臼は嬉しそうに言う。仕事も今日はすんなり終わりそうだ。
おう、と言いながら三田は背伸びをした。その時、
「お仕事おわった?」
にひひ、と得意げなメリーが立っていた。
驚いてしばらく声の出ない三田と黒臼だったが、ちょっと呆れ気味にメリーの頭をなでる。
「待ってろって言ったんだけどな」
「まあまあ。子供にはちょっとキツい待ち時間だったんですよ」
「どうやって俺たちの場所がわかったんだ?」
「超能力だったりして」
そう言って黒臼はメリーを抱き上げる。メリーは嬉しそうな笑い声を立てた。
それから一旦ソリに戻る途中である。
暖かそうな格好の少年が、あちらへこちらへと駆け回っているのを見た。こんな夜に、異様な光景である。
「これが欲しい! あれも欲しい!」
物陰に身を隠しながら、黒臼が「あの子供、さっきから全部買ってもらってますよ。僕らなんかいらないですね」と呟く。そうだな、と言いながら三田は煙草をくわえた。いつのまにか入手していたライターも取り出す。
不意に、駆け回っていた少年がつまずいて転んだ。膝をすりむいたらしい。グァングァンと泣き出す。
すると、今まで黙っていたメリーがいきなり走り出してしまった。止めたが、もう遅い。少年の元に駆け寄ったメリーは、少年の膝に触れてにんまり笑った。
メリーが手をどけると、少年の膝の傷は綺麗に消えていた。
三田も黒臼もそれを見て、あんぐりと口を開ける。
不意に少年が顔をあげ、メリーを指さして叫んだ。
「この子ほしい!」
とっさに三田がメリーを担ぎ上げ、全力で走り出す。「置いていかないでくださいよ」と黒臼もついてきた。
なんとかソリに乗り込み、トナカイを走らせて三田は一息つく。
「なんだ今のは」
「あの子の怪我、治りましたよね。メリーちゃんがやったの?」
そんなわけねーだろ、と三田は震えた声で言う。それと対照的なほど明るい声で、メリーが「そうだよ」と言った。
「メリーね、おけがなおせるからミタとくろーすがけがしたらすぐ言ってね!」
三田も黒臼も、ただ黙った。トナカイとソリについている大きめな鈴だけがシャンシャンと言う。
「……とりあえずこの子を届けましょう。さっきの子供が追いかけてきそうな気配もするし」
それは困るな、と三田は心ここにあらずな顔で言う。
雪が降り始めていた。まだ粉雪ほどだが、積もりそうだ。
しばらく人気のない雪道を走っていると、やがて目的地が見えてきた。ソリを止め、静かに降りる。黒臼がメリーの手を取って歩いた。
「フツーの家っすね。貧乏でもなけりゃ裕福でもないって感じの」
「……そうだな」
ひたひたと歩いていき、プレゼントの事情を考えて今回は玄関からお邪魔することにした。
チャイムを鳴らすと、しばらくして父親らしき人物が扉を開けた。
「どちら様?」
三人を見て、不審そうな顔をする。
「サンタクロースという者です」
「ふざけないでください」
「お宅のぼっちゃんへのプレゼントを持ってきました。『妹』です」
男の視線がメリーに注がれる。それから男は一度奥に引っ込んで、誰かを呼んだ。今度は母親らしき人物が現れる。
彼女にも事情を説明すると、当惑の表情をされた。
「確かにあの子、妹が欲しいって言っていたけど、本当に連れてこられてもねぇ」
「でも、プレゼントなんですよ」
「子供がいくらかかると思ってるの? 犬や猫じゃないのよ。申し訳ないけど、うちでは面倒見られないわ。あの子にはよく言っておくから」
えっ、と呟いて呆然とする黒臼は、尚も何か言おうとする。それをなだめて、三田が軽く頭を下げた。
「お騒がせしてすみません。良いクリスマスを」
良いクリスマスを、と夫婦は返した。
その家から少し離れた建物の陰で、三田はまた煙草をくわえていた。
「どうして引き下がっちゃうんですか。気分悪くないですか、あの家」
「悪くねーよ。正しいだろ」
むしろ、と言って三田は続けた。
「犬や猫のように扱われなかったのは、あの子にとって幸運だったんだ」
そうかもしれないけど、と言いながら黒臼はメリーを見る。先程からスンスンいいながら座り込んだままだ。
「元気を出しなよメリーちゃん」
「かえりたくない」
真っ赤に腫らした目でメリーは黒臼を見る。思わず黒臼は目をそらしてしまった。深く煙を吐き出しながら、三田は空を見る。雪は降り続けていた。
「あ! やっと見つけた!」
その場の空気に不釣り合いなほど明るい声。見覚えのある少年だ。
「あの子が欲しいんだ、ぼく」
執事やらメイドやらわからない人達がぞろぞろと出てくる。「もしかしてやばいんじゃないですか」と黒臼がつぶやいた。
また三田がメリーを担ぎ上げ、全力で走り出す。もちろん黒臼も走って建物の中に入り込んだ。
「マジで追いかけてきたのかよ。近頃の坊主は粘り強いぜ」
「あのガキがしつこいだけですよ。きっと、欲しいものは全部手に入れてきたんだ」
走っている最中、いきなりメリーが暴れ始めた。
「おいこら。メリー、大人しくしてろ」
それでもメリーは三田の腕の中で手足をじたばたさせる。
「やだ! あの子、メリーのことほしいって言ってた。メリー、あの子のになる」
あんな危ない子供のところになんて、と黒臼は思う。それこそ犬や猫のように扱われてしまうだろう。
走りながら、三田が叫んだ。
「あんな小僧のとこに行くくらいなら、俺んとこに来い」
メリーが動きを止め、三田のことをじっと見る。黒臼も思わず三田を見つめた。
「ほんと……?」
「家も狭いしメシも不味いし十二月以外トナカイの世話しかやることねーし、おっさんだしいつ死ぬかわかんねーけど、それでもいいならうちに来い」
目尻に涙をためたまま、メリーは満面の笑みになる。
「行くっ!」
すっかり上機嫌で大人しくなったメリーを降ろして、三田は腰をさする。
「うわ三田さんおじさんっぽい」
「おじさんなんだから仕方ねーだろ」
今度は黒臼がメリーの手を引いて歩いた。
「いたぞ! あそこだ!」
少年たちが走ってくる。チッ、と三田が舌打ちした。
「聞いてくれ。俺たちこの子をあんたらにやれねーんだ。当たり前だよな?」
「いくらで売ってくれる?」
「売る売らないの話じゃないんだよバーカ」
お前は黙ってろ、と三田は黒臼を睨む。少年が勝気な目で黒臼と三田を指さした。
「あいつらはいらない」
大人に対してなんて口の聞き方だ、と黒臼が嘆いた。その時である。メリーの後ろから大きく腕を開いて近づいてきていた男が、メリーを後ろから抱き上げた。そのまま走り去ろうとする。
「うわああああメリーちゃああん」と叫びながら、勢い良く走っていった黒臼が、勢いはそのままに男を掴まえた。
不意に、銃声が鳴る。
時が止まったような静けさの後に、黒臼が膝をついた。
「こ、いつ……!」
撃ちやがった、と心の中で毒づきながら三田は黒臼を背負う。黒臼は「痛いっす三田さん」と弱々しく言った。
その時、耳をつんざくような泣き声が聞こえた。メリーだ。その場の全員が耳を塞がなければならないほどの泣き声だ。メリーを抱いていた男が手を離し、三田は素早くメリーを回収する。
まだ全員が耳をふさいでいるうちに、三田はどうにか走って誰もいない部屋に逃げ込んだ。
「おい黒臼、しっかりしろ」
「三田さ……っ……どう、か……彼女に愛していると、伝えてくださ……」
「しっかりしろ。お前、治ってんぞ」
「マジか」
パッと起き上がった黒臼は、自分の体を点検して「マジだ」と驚いたように言った。治した張本人と思われるメリーは、まだグスグス鼻を鳴らしている。
「本当にこの子が……?」
「わからん。もしかしたら偶然が重なって奇跡のように見えているだけかもしれん」
ありがとう、と黒臼は言う。メリーはコクコクうなづいた。
「さて、どうしましょうか三田さん」
「とりあえず屋上に行こう」
「屋上っすか? 逃げ道ないじゃないっすか」
「電話が繋がらねーんだよ。屋上行って警察を呼ぶ。お前はメリーと待ってろ」
え、と黒臼がにわかに不安な顔をした。
「三田さん一人で行くんですか? 危ないっすよ」
「大丈夫だ。お前がチキンじゃないってことはよくわかったから、とりあえず待ってろ。もしかしたら体に異常があるかもしれねーし。そんでメリーのことを守るんだよ」
「でも、」
「でもじゃねーよ。お前、俺のこと大好きか」
「そうなんですよ。僕、三田さんのこと大好きなんです。一人で行かないでください」
ちょっと吐きそうな顔をしながら、三田は「ありがとな」と言う。表情と言葉が一致していない。
結局、三人で屋上を目指すことにする。
慎重に見つからないように屋上の扉を開けると、そこには少年たちが満面の笑みで待っていた。
「ほら言ったろ? あの子は怪我を治せるんだ!」
ああ、と三田がこめかみを押さえる。存外頭のいい子供だったらしい。
「どうしますか三田さん。とりあえずあのガキぶっ飛ばしますか? さっきは不意をつかれましたけど! 僕けっこう強いっすよ!」
どうだか、と三田は苦笑する。
「どちらにせよサンタ服で暴力振るうなよ。やるんならそれ脱いでやれ」
「難しいこと言うなぁ三田さんって」
じゃあどうしろって言うんですか、と黒臼は不機嫌そうに眉をひそめる。三田はちょっと天を仰いで、笑った。
「なあ坊主、サンタクロースって信じてるか?」
「何言ってるの? いるわけないじゃん。必要もないし。欲しいものは、全部お金で買える」
そうか、と呟いて三田はいきなりメリーをぎゅっと抱きしめて黒臼の腕を強く引っ張った。
「悪いな小僧。サンタクロースは、信じている子供達の元にしか行かないんだ」
そのまま屋上のへりを蹴って、飛び降りる。黒臼の悲鳴が響いた。
ガスン、なんて音を立てて三人は着地する。思っていたより柔らかい感触に、黒臼が目を白黒させる。
「なんだ……? 雪? というか、」
ソリ?
積もった雪と何も入っていない大きな布の袋がクッションになったらしい。
トナカイが返事をするように大きく前足を出した。
三田といえば、メリーの下敷きになっている。ぺしぺしと心配そうな顔のメリーに頬を叩かれ、ようやく目を開けた。
「ねえ三田さん」
「おう」
「僕らのソリって、飛ぶんでしたっけ」
シャンシャンと鳴る鈴。トナカイは宙を踊るように駆ける。周りには何もない。青に似た夜空があるだけだ。
「トナカイもソリも、飛ぶわけねーだろ」
ケラケラと三田は笑う。「クリスマスは別としてな」なんて付け足して。
あの建物が小さく見える。少年が空飛ぶソリを指さして、目を輝かせた。
「サンタだ! サンタクロースだ!」
「人を指さすクセを直さないと、来年もプレゼント運んでやんねーぞ」と黒臼が大声で言う。
「そんな口悪ぃサンタいねーよ」と三田がたしなめ、「三田さんには言われたくないです」と黒臼が言い返した。
「しっかしこのソリはいつ降りるんだ?」
「おりたいの?」
そうメリーが尋ねた瞬間、ソリはグンと急降下し、悲鳴を上げる間もなく地面に着地した。トナカイがすました顔で地面を走り始める。
「……今日、いろんな意味で僕ら天使に近づいてましたね」
「天使といるからか」
そう言って三田はメリーの頭をなでる。メリーはくすぐったそうに笑った。
「本当にその子と住むんですか?」
「お前も遊びに来いよ」
「家知らないんですけど」
「教えたくねー」
ケチだなぁ、と黒臼はにやにやする。そんなことを言ったって、律儀に紙に書いて教えてくれるのが三田という男だと知っている。
「じゃあまた。メリーちゃんも近いうちに会おうね! マシュマロとか持っていくね!」
「マシュマロはお前が好きなだけだろ。彼女と愛し合ってこい馬鹿野郎」
大きく手を振りながら、黒臼は去っていく。残された三田は、メリーに手を伸ばした。
「行くか」
この上なく嬉しそうな顔をして、メリーはその手を取る。
「うん!」
雪道に二人分の足跡が、寄り添うように続いていった。
いびつなトリオ。毎年一緒にお仕事してるといいな←