こんな夢を観た「怪談をする」
桑田孝夫と志茂田ともるが遊びに来ている。
「ふうーん、けっこう片してるじゃねえか」桑田は、辺りをきょろきょろと見回しながら言う。
「部屋をきれいにしておくと、お金が貯まる、などと昔から言いますねぇ、むぅにぃ君」感心なことだというように、志茂田もうなずいた。
「そうなの? あいにく、うちじゃこんなものしか出ないけどね」
わたしは、缶コーヒーとエクレアを載せたトレーをテーブルに置きながら言う。
ネットで話題になっている「巷の噂話」をきっかけに、桑田がこんなことを言い出した。
「そう言えば、おれらの小学校って、終戦直後は死体置き場だったらしいぜ」
志茂田も人差し指をぶんぶんと振りながら、
「そうそう、わたしも祖母から聞かされましたよ。それこそ、山のように積み上げられていたそうですね。夏場だったから、たちまち腐って、町内を異臭が漂ったといいます」
そんな怖ろしい話、今の今まで知らなかった。
「その死体はどうしたんだっけ?」桑田が聞いた。
「油を撒いて燃やしたんですよ、桑田君。骨はまだ、校舎の下に埋まったままだそうですよ」
いつの間にか怪談大会になっていた。
「残業で終電ぎりぎりになっちまったんだけどよ」何度も聞いた、桑田の恐怖体験だ。「駅からうちまでの間に、小さな墓地があるだろ? その前を通り過ぎたとき、いきなり肩をつかまれてな、そのまま後ろにずでんっと転けちまったんだ。振り返ったが、誰もいやしねえ。後にも先にも、あんな怖ろしい目に遭ったのは初めてだぜ」
続いて志茂田が、持ち前の落ち着いた口調で語り出す。
「明治の初め、とある農家での話ですよ。夫婦には娘がいたのですが、流行病にかかり、わずか2歳で亡くしてしまいましてね。葬るとき、生まれ変わってもわかるように、足の裏に墨で子供の名前を書いたのですよ。せめてもの思いだったんでしょうねぇ……」
わたしと桑田はごくりと唾を飲んだ。
「数年ばかり経ちまして、飼っている牛に、仔が生まれましてね。まるで実の子のように可愛がったといいます。けれど、不運は続くものですねぇ。ちょうど2年目に、ぽっくりと死んでしまいました。奇しくも、その日は娘の命日だったといいます。その時、夫婦は初めて目にしたのですよ、牛の足の裏を――」
わたしの背中を、ゲジゲジの群が走り抜けていった。桑田も顔色がない。
「さて、むぅにぃ君。次はあなたの番ですよ。どんな話を聞かせて貰えるんでしょうねぇ」
わたしは困ってしまった。恐怖体験どころか、そもそも怖い話などあまり知らないのだ。
「ほら、何かねえのか。人魂を見たとか、UFOにさらわれたとかよ」桑田までもが無茶を言う。
他に思い浮かばないので、子供の頃に見た夢を話すことにした。
「ばかばかしい夢だけど、いい?」わたしは一応、確認する。
「話してみ、どうせ夢なんだし」と桑田。
「どうぞ、どうぞ。ささ、お話しください」
わたしは話しはじめた。
壁も天井も、そして床までも真っ白い部屋にわたしは立っていた。
真正面に窓があるらしく、ぼんやりと光が差している。けれど、パーティションで区切られていて、カーテンが閉まっているのだ。
カーテンの前まで行き、手をかける。
その時、頭の中ではっきりと声が聞こえた。
「開けてはならない」と。
どうしようかと躊躇したが、勇気を振り絞って、カーテンを引く。
凄まじい叫び声がわたしの耳を貫いた。自分自身の声だった。
「ねっ、全然怖くなかったでしょ?」話し終えて、わたしは2人を見た。
桑田も志茂田も、口を半開きにして、まるで凍りついたかのような表情をしている。
「お、おれ、帰るよ……」やっとの事で桑田が口を開く。
「わたしも、これでおいとまさせていただきますね」志茂田までもが、よろよろと立ち上がる。
「どうしたの? ねえ、ねえったら」わたしは落ち着かなくなった。
玄関を出る時、桑田は振り返りもせず、こう言った。
「お前……それ、夢じゃねえよ」




