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こんな夢を観た

こんな夢を観た「怪談をする」

作者: 夢野彼方
掲載日:2014/06/30

 桑田孝夫と志茂田ともるが遊びに来ている。

「ふうーん、けっこう片してるじゃねえか」桑田は、辺りをきょろきょろと見回しながら言う。

「部屋をきれいにしておくと、お金が貯まる、などと昔から言いますねぇ、むぅにぃ君」感心なことだというように、志茂田もうなずいた。

「そうなの? あいにく、うちじゃこんなものしか出ないけどね」

 わたしは、缶コーヒーとエクレアを載せたトレーをテーブルに置きながら言う。

 

 ネットで話題になっている「巷の噂話」をきっかけに、桑田がこんなことを言い出した。

「そう言えば、おれらの小学校って、終戦直後は死体置き場だったらしいぜ」

 志茂田も人差し指をぶんぶんと振りながら、

「そうそう、わたしも祖母から聞かされましたよ。それこそ、山のように積み上げられていたそうですね。夏場だったから、たちまち腐って、町内を異臭が漂ったといいます」

 そんな怖ろしい話、今の今まで知らなかった。


「その死体はどうしたんだっけ?」桑田が聞いた。

「油を撒いて燃やしたんですよ、桑田君。骨はまだ、校舎の下に埋まったままだそうですよ」


 いつの間にか怪談大会になっていた。

「残業で終電ぎりぎりになっちまったんだけどよ」何度も聞いた、桑田の恐怖体験だ。「駅からうちまでの間に、小さな墓地があるだろ? その前を通り過ぎたとき、いきなり肩をつかまれてな、そのまま後ろにずでんっと転けちまったんだ。振り返ったが、誰もいやしねえ。後にも先にも、あんな怖ろしい目に遭ったのは初めてだぜ」


 続いて志茂田が、持ち前の落ち着いた口調で語り出す。

「明治の初め、とある農家での話ですよ。夫婦には娘がいたのですが、流行病にかかり、わずか2歳で亡くしてしまいましてね。葬るとき、生まれ変わってもわかるように、足の裏に墨で子供の名前を書いたのですよ。せめてもの思いだったんでしょうねぇ……」

 わたしと桑田はごくりと唾を飲んだ。


「数年ばかり経ちまして、飼っている牛に、仔が生まれましてね。まるで実の子のように可愛がったといいます。けれど、不運は続くものですねぇ。ちょうど2年目に、ぽっくりと死んでしまいました。奇しくも、その日は娘の命日だったといいます。その時、夫婦は初めて目にしたのですよ、牛の足の裏を――」

 わたしの背中を、ゲジゲジの群が走り抜けていった。桑田も顔色がない。


「さて、むぅにぃ君。次はあなたの番ですよ。どんな話を聞かせて貰えるんでしょうねぇ」

 わたしは困ってしまった。恐怖体験どころか、そもそも怖い話などあまり知らないのだ。

「ほら、何かねえのか。人魂を見たとか、UFOにさらわれたとかよ」桑田までもが無茶を言う。

 他に思い浮かばないので、子供の頃に見た夢を話すことにした。


「ばかばかしい夢だけど、いい?」わたしは一応、確認する。

「話してみ、どうせ夢なんだし」と桑田。

「どうぞ、どうぞ。ささ、お話しください」

 わたしは話しはじめた。


 壁も天井も、そして床までも真っ白い部屋にわたしは立っていた。

 真正面に窓があるらしく、ぼんやりと光が差している。けれど、パーティションで区切られていて、カーテンが閉まっているのだ。

 カーテンの前まで行き、手をかける。

 その時、頭の中ではっきりと声が聞こえた。

「開けてはならない」と。

 どうしようかと躊躇したが、勇気を振り絞って、カーテンを引く。

 凄まじい叫び声がわたしの耳を貫いた。自分自身の声だった。


「ねっ、全然怖くなかったでしょ?」話し終えて、わたしは2人を見た。

 桑田も志茂田も、口を半開きにして、まるで凍りついたかのような表情をしている。

「お、おれ、帰るよ……」やっとの事で桑田が口を開く。

「わたしも、これでおいとまさせていただきますね」志茂田までもが、よろよろと立ち上がる。

「どうしたの? ねえ、ねえったら」わたしは落ち着かなくなった。


 玄関を出る時、桑田は振り返りもせず、こう言った。

「お前……それ、夢じゃねえよ」 

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