9、破壊の過去、守護の今
※八話を7/23に読んだ方は、夜に劇的Before→Afterしたため九話の前に八話を読むことをお薦めします。 どうもスイマセンでした。
一人の少年がいた。
本来優しかった少年は、いつのまにか野獣のような瞳で人を拒絶していた。
必然的に、少年の周りから次々人が去っていった。
そんな少年に一人の少女が近づいてきた。
少年と幼馴染みの少女は、少年の剣幕に怯えもせずに、その目の前に立つ。
パチンッ
「アンタ…ふざけんじゃないわよ!」
その言葉と同時に、少年の驚いた顔の左頬には、少女の手形が残っていた…
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
僕は一人で暗い夜道を、自宅に向かって歩いてた。
教師or警察に見つかったら補導される時間だ。
「…やっぱ、二年も実戦から離れてると疲れるわ」
体は毎日鍛えて(強制的)いても『朔望月相』は精神的、肉体的に相当負担をかける。
あっ、『朔望月相』って言うのは『新月』とか言われる僕の別名の総称のことだ。
四谷財閥に世話になっていた頃は、政財界や学界や魔界、武道や極道や六道…いろんな所でお世話になったため、各界で『新月』みたいな別名が勝手につけられてる。
ついでに『新月』は、二年前の事件で裏の世間に存在がバレたから、隠密のなのに一番多く呼ばれている別名になってる。
まあ、いつもの僕がそんな完璧(異質)人間な訳じゃない。
隠密の頃の名残で、口調変えたり、眼鏡掛けたりすることで、各別名の能力(?)のスイッチが入るのだ。
…今、僕のこと
「イメチェンで自分が変わったように感じるイカれた野郎だ」
って思った人。
まだ僕、髪縛ってますから、すぐに闇討ち出来ますよ♪
又、
「じゃあ、いつもはやっぱりチキンなんだな」
って思った人。
…まぎれもない事実です。
…話を戻します。
そんなこんなで俺の周りで『朔望月相』を全部知ってる人は、サキたちの父親であり四谷財閥の現総取締役、四谷源蔵とレイぐらいだろ。
元職場のトップが知っていてもおかしくないけど、レイが知っていたことに驚いた。
さすがレイの情報網は迅速かつ正確、さらに凶悪。
前に、レイに喧嘩を売ってきた不良系上級生は、彼の耳打ち一つでパシリになってた。
アイツを敵に回したら、個人情報とプライベートが地球の裏側まで広まるだろ。
……まあ、今回の情報も迅速だったおかげで、この事件が世間に広まることはない。
後でなにか奢ってあげよ…
ニャ〜
説明で忙しかった僕は、その鳴き声を聞いて前方を見る
すると、一つ先の蛍光灯の下で黒猫が座っていた。
…その先の闇から誰かが近づいてくる。
意識を集中して気配を探る。
敵意があれば…逃げればいい。
この気配は…
「………サキか?」
猫の手前で歩みを止めたのは、間違えなくサキだった。
その顔は…完全に怒ってるなコリャ。
殺意=敵意ってことで…
「待ちなさい!」
回れ右して逃げようした僕は、右腕をサキに捕まれた。
諦めた僕は、サキの方へ振り返…
パチンッ
「アンタ…ふざけんじゃないわよ!」
振り返りざま、僕の左頬に衝撃が走り、その後ヒリヒリと痛んだ。
…久しぶりにサキに向き合った。
165ぐらいの身長は昔より大きくなってるけど小さく見える。
首ぐらいまでだった栗色のポニーテールは、腰まで伸びてた。
姉と似てスタイルいい体に、雪のように白く細い手足。
その手足に、さっき縛られた部分の後が残っているのが…無性にムカつく。
そして昔から変わらのない、強気な性格が現れたクッキリした容姿。
その強い意志が宿った黒い瞳は…やけに潤んでいた。
「二年前…アンタが私達を助けたって本当…?」
「あぁ」
「あの時、死にそう…だったって…」
「医者はそう言ってた」
「なんで…アンタが助けに来んのよ?」
「気分的に行っただけ」
「パパに何させられてたの?」
「いろいろ」
「強いのに…いつも逃げてばっかなのよ…」
「それは僕がチキンだか…」
「…なんで私に反撃しないの!? なんで、立ち向かいもしないで、私に背中ばっかり見せんのよ!?」
「………サキ、下がって」
一方的な会話を中断し、僕はサキに背を向け戦闘態勢に入る。
「ったく、よく生き残ってたな…ハゲ野郎」
俺の目の先には、ボロボロになったスキンヘッドがいた。
「…調子に乗るな! 俺はお前を殺すんだよ!!」
スキンヘッドは理性を失ったように突っ込んでくる。
その手には、短刀が握られていた。
猪突猛進な攻撃は簡単に避けられる。
だけど…
今日は、こんな役回りが多いな…
まっ、たまにはいいけどね。
スキンヘッドの短刀が、左腕に突き刺さる。
…熱い。
根元まで刺さった短刀は、焼けるような痛みを腕全体に与える。
「カケル!?」
サキが呼んでるみたいだけど、それは後回し。
俺は目を閉じ、『気配』を一つに凝縮する。
手足は、もう存在さえしないイメージ。
「クソハゲ…お前に俺の本気を見せてやる。その目が節穴じゃねぇならよく見ときな」
俺は凝縮した気配を爆発させた。
―――――――――――――――
空気が重い…
背筋が凍るような圧力なのに、心は灼熱で焼かれるように悲鳴を上げてる。
首が締め上げられるように、呼吸が苦しい。
今まで感じたことない、絶対的なプレッシャー。
そのプレッシャーは、カケルから来ていた。
(こ…これが…あのカ…ケル?)
いつも見ていたカケルから、心から恐怖している自分が信じられない。
私は力なくその場に座り込む。
立ち上がりたくても、足が震えて力が入らない。
私は、カケル背中を見るので精一杯だった。
「…って、このハゲ一瞬で気絶しやがった」
どこか抜けたカケルの声で、体が軽くなる。
さっきまでのプレッシャーは、嘘のように消えていた。
だけど、足と心は折れたように動いてくれず、しばらくは立てない。
「…サキ、これが僕が逃げる理由だ」
いつのまにか、カケルは目の前に立っていた。
「僕は不器用で弱い。そのくせ、大切なものが多い欲張りだ」
「だから、大切なものから離れようとした。だけど、お前達はそれを許してくれなかった」
「特にお前は、よく追っ掛けてくるし…さっきみたいに泣きそうになりながらビンタされたこともあった。『ふざけんじゃないわよ』ってね」
「…そん時に、俺はお前等だけは守ると決めた」
「二年前、一度は諦めた…けど、大切なものが傷つくのを見過ごせなかった」
「僕の力は、大切なものを守るためだけにある」
「この力でお前等傷つけないために、背中向けて」
「まあ、お前からはいつも逃げて背中見せてるけどな…って、サキ…どうした?」
私は、カケルの言葉を聞くことしか出来なかった。
声を出したら、カケルにバレる。
カケルの方がずっと辛いはずなのに…こんな情けないとこ見せらんないよ…
「怒らした? ゴメンな、襲い掛かんないでくれよ。お互い疲れてるんだし」
怒ってなんかない。
私は、背中を向けてばっかりの弱い彼が嫌いだった。
でも…私の見てなかった正面は、苦しみながらも私たちを守ってくれてた。
「…じゃあ、そろそろレイ達が来るから、気をつけて帰りな」
「……!? ちょっと…」
私が涙を気にせず顔を上げた時には、さっきまでいたカケルの姿はもうなかった。
私は、レイ達が来るまでの間、止まらない嗚咽を一人、繰り返していた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
世界には表となる光の世界と、裏となる闇の世界があった
…冷たく…重く…絶望の闇世界
その中では、人は醜く、我欲に溺れ、闇に侵されていた
そして…ある光の世界の小学生は、闇の世界に両親を殺された
両親の代わりに少年の心に刻まれたのは、ドス黒い憎悪…
その心が闇の世界と同調するのに時間は掛からなかった
そして、両親を殺した闇の住人は壊れた
自分達が傷つけた、一人の少年の心に宿った『朔望月相』という闇によって…
復讐を終え、自分を見失い破壊を続ける少年は、ある男に拾われた
それから、自分の力を破壊しか使えない少年は、男の元で守ることを学んだ
少年は誓った
「周りに居てくれる人全員を、どんな手を使ってでも守り抜く」と
その時に闇の世界にいた少年は、大切なものを手に抜け出した
それから少年は、挫折を繰り返しながらも守り続けた。
それが少年のたった一つ、命をかけた誓いだから…
カケル「…将軍様の最終兵器なんぞに負けてられるかぁ!!!」
ヒカル「カケルに兵器は無意味みたいやな…」
作者〔兵器が効かないんなら〕 ゴゴゴゴゴゴ…
カケル「ん? 空からなにか降ってきてる?」
ヒカル「ヤバそうやな…作者さん、俺は逃げさせてもらえるん?」
作者〔モチ!!〕
カケル「!? 裏切り者ぉ!!」