8、最強の出前。〜Chicken or Cat〜
ヒカルは、頭に『?』が浮かびそうな顔をしている。
ちょっと説明が足りなかったか…
「カケルは瞬間移動していない。…しいて言うなら、忍者の『分身の術』だ」
…ダメだ。頭上の『?』が増えた。
読者には悪いが長文で説明するしかあるまい…
「カケルは人の気配を敏感に感じ取り、自分の気配を操れる。瞬間移動してるように見えるのは、気配を操ってるかららしい」
ここからは本人の説明を使わせていただく。
「移動する寸前、強烈な気配を放ち、分身のようなものを作る。そして気配を消して移動することで、次に現われた時に瞬間移動しているように感じるらしい。…まぁ、その移動速度も人知を超えているがな」
俺達のように、遠くで監視するように見ていても見失うのだ。
移動中の気配は『無』と言えるだろう。
…異様な身のこなし。
闇夜に光る金色の瞳。
カケルの動きに合わせ、動物の尾のように動く、一本に縛られた後ろ髪…
その姿からは、誰しもチキンを想像出来ないだろう。
「カケルの戦った者に『その姿、あるのに見えぬ新月の如し』と言った者がいた。さらに『新月の敵には不幸(敗北)が待っている』とも言われている」
そう、それはまるで不幸を呼び込む『黒猫』
だが、大体の人が『新月の黒猫』の本当の意味を知らない。
月は形を変えるのだから…
「…せやかて、あんな人数で…それも拳銃持ってんのに、無傷はありえへんやろ?」
いきなり口を開いたヒカル。
その声は少し震えていた。
だか、そこまで心配する必要はあるまい。
彼は…
「なぁヒカル、忘れてないか? カケルがいつもなにに狙われ、なにを避けてるか」
「………!? なるほど!!」
大声で叫んだところを見ると、すべてが分かったようだ。
「分かったならよく見とけ、最後を見逃すぞ」
「リョーカイ!」
俺とヒカルは、視線をカケルのいる方へと戻した。
―――――――――――――――
「右だ、右ぃ! クハッ!」
「クソッ、また消えた!…ブッ」
「ヤツに当たらないなら人質を…カッ!?」
敵三、沈黙。残存八…
って、確認する必要ねぇのに…癖だな。
「死ねえぇぇぇ!!」
チッ、油断して気配がばれた…
…でも、死ねと言われて死ぬほど、俺は重症鬱病患者じゃねえよ。
「グヴァ!!」
多勢相手にはやっぱ裏拳だな〜♪
「どっ、どうして弾が当たらねぇ!?」
二度ほど寝かせていたはずのスキンヘッドが、俺に背中を向けて叫んでいる。
おっと、そろそろ時間だな…
人質を取られないように、サキの前に移動する。
「つったく、下手な鉄砲は数射っても当たんねぇんだな」
そう言いながら、気配を少し強くする。
バラバラな方向を向いていた七人が、一斉にこっちを振り向いた。
「俺に普通の弾は当たらねぇよ」
なぜなら俺は…
「俺を仕留めたいなら、サキみたいにフィンファン○ルでも用意しな! あれなら四割弱で俺を殺せる」
…あの時は、中学の校舎が犠牲になったなぁ。
死者、負傷者共にゼロだったのは俺だけを狙ってたからだろう。
「…………無茶だろ!! その嬢ちゃんはニュータイプかよ!?」
おぉ〜! ノリいいねスキンヘッド!
いいツッコミするほど、認めたくないのはわかるけど…
「…こいつとその姉は、姉妹揃って自由乃打撃の操縦者級の力を持っている」
サキは、本当に嫌いなヤツにしか発動しないみたいだけどな。
例えば俺とか、俺とか、俺とか…
ついでにそのフィンファン○ルは、アヤさんが学校警備のために使っているそうだ。
後ろの様子を見る。
黒猫を膝に乗せたまま動かないが、意識はあるようだ。
そして、さっきまでの話は聞こえてないようだった。
フゥ、命拾いしたぜ…
…おっ、やっと来たか。
「ふざけたこと言ってんじゃねぇ!!」
大声で叫んだスキンヘッドが懲りもせずに俺に銃口を向ける。
これを避ければ相手の武器は……!?
パンッ
俺の記憶が正しければ、前にも似たようなことがあったな…
俺はそこを動かなかった。
―――――――――――――――
パンッ
「えっ…」
さっきまで、銃声が聞こえるたびに消えていたカケルの姿が、消えずに目の前にあった。
私がいつも追い掛けてる背中が…
でも、いつもより大きな背中がそこにあった。
「…ったく…当たんねぇって言ってんじゃねえか」
カケルの声からは、余裕が滲み出てた。
今まで、私の膝に乗っていた猫がカケルの足に擦り寄る。
「ったく、誘拐までして丁重に接待してくれたお前等に、俺から特別デリバリーのプレゼントだ」
カケルの声と同時に、左右からライトみたいな光が満ちて、眩しくなった私は目を瞑った。
そして、聞こえてきた声は…
「四谷親衛隊No.124、田中!! 肉体派親衛隊員を連れ、精鋭92名到着!!」
目を瞑ってるから見えないけど、その声は確かにクラスメートの田中くんだった。
「四谷親衛隊一丁っ! …って遅かったじゃねぇか、田中」
カケルが呼んだみたい。
今朝は派手に喧嘩してたのに。
「すまない…ってカケルか? いつもと雰囲気が違うな」
「気にするな。そんなことよりも、今は目の前の敵が先だろ?」
田中くんは、うむと唸って頷いたみたい。
「奴らの武器は俺が全部無力化しといた。サキを襲われたお前等の怒り…存分に叩きこめ!!」
「我等、四谷親衛隊の名に賭け、四谷さんの敵を孅滅せん!!」
「オオオオオォォォォォォォォォォ!!!」×91
その低重音の声に空気が震え、地面が揺らぐ。
その声は左右から迫ってきて、私の正面でぶつかり合った
「…サキ、ゴメンな。もう大丈夫だから…」
「えっ! カケル?」
その声を聞いて、私が急いで目を開けた時には、ぼんやりと映る田中くん達にボコボコにされてるタコ達と、目の前の黒い猫。
私は眩しさに目を痛ませながら、ゆっくりと立ち上がって、どこにあるのか分からない出口に向かって歩きだした。
あの背中を追うために…
―――――――――――――――
…カケルはいつも、俺の予想を超えた行動をとってくれる。
まさか、敵対する親衛隊の力を借りるとは…
だが、サキのことになれば神さえ恐れぬ最強の部隊だ。
上手いこと利用して、カケルは戦線離脱したようだ。
「さて、大体終わったことやし、そろそろ帰ろうや」
ヒカルはあくびをしながら伸びをする。
「なぁ、レイ?」
「なんだ?」
俺は着信した携帯を見ながら、ヒカルの問いに耳を傾けた。
「チキンのカケル、黒猫のカケル…どっちがホンマのカケルなん?」
ヒカルの声は、異様な真剣味を帯びていた。
ヒカルは嘘が嫌いだ。
チキンのカケルが『偽り』だったとしたら、ヒカルはカケルを半殺しにするだろう。
だけど、『そんなことか』と俺は思う。
「それは俺にも分からない。だが『カケルはカケル。それ以上でもそれ以下でもない』…」
四谷姉は黒猫のカケルを知った時、はっきりとそう言っていた。
「…お前がどう思うか分からない。だが、俺はそう思ってる」
俺の言葉を聞いたヒカルは、大きなため息を吐いて
「……右に同じくやで」
と、暗闇でも分かる明るい顔で笑っていた。
「では、カケルからの指令だ。サキを追うぞ」
「指令?」
俺はヒカルにさっき届いたメールを見せる。
「…ここにいること教えたん?」
「そんな記憶はない…120m離れても存在がバレるとは…」
そのメールの内容は
『閲覧料は二人合わせて二万円。
それがイヤなら、警察に連絡。その後、サキが痴漢及び親衛隊等に襲われないよう監視・護衛をすること』
だった。
このメールを見たヒカルの反応は
「…一人一万は高いやろ」
だった。
カケル「あぁ、今日は空が綺麗だ…昼間なのに流れ星が見えるよ」
M.Y氏[核弾頭ミサイルという名の流れ星がな!]
カケル「…って、作者ぁ! どう考えたってYebisu Mikiのイニシャルだろうがぁ!! てか………!!!!!!」
ズボーン♪
M.Y氏[…綺麗なキノコ雲だ]