3、昼は安全地帯へ逃避
この作者は必要とあれば、主人公をにも容赦はしません♪
僕、伊達 駆は走っています。
そりゃもう全力で。
『廊下を走るな!』というポスターなんて、見てない見てない!
そんなもの気にしてたら…って早速殺気!
チュン
「危なっ!!」
間一髪、立ち止まったおかげで『あれ』に当たらずにすんだ。
右を向くと窓ガラスに小さな穴、左を向くとコンクリの壁にも穴、そしてコンクリに埋まってるのは『あれ』という名の7.62ミリ口径の鉛玉♪
アハハ、ここってどこの紛争地帯だっけ…
※※※※※※※※※※※※※※※
僕は田口さんの『必殺・広辞苑の[大当たり]の次の項目は[大穴]チョップ(僕&ヒカル命名)』を受けた後は、何の問題もなく午前の授業を寝てッ…しっかり授業を受けていた僕は、昼休みに突入していた。
あぁ、食べにくい。
ただ弁当を食べるだけなのに、箸に挟まれた卵焼きに穴が開きそうなほどの目線が注がれてる。
あぁ、とてつもなく食べにくい。
その目線の持ち主、ヒカルの潤んだ瞳が僕に訴えかけて来るんだもの。
威力は某金融業者のCMのチワワ並に殺人的だ。
「お前、今日の昼飯は?」
「……これ」
ヒカルの手にはカラになった『10秒メシ』のゼリーがあった。
食べ盛りの高校生には足りないよなぁ。
レイは購買に行ってるしなぁ。しょうがないなぁ。
「………食べる?」
「…いいん?」
「うん、僕少食だから」
「マジで!! ありがとぉ!」
その言葉を待っていたかのように、ヒカルは早業で僕の箸から卵焼きをパクリと食べた。
「…うわっ、メッチャ美味い! こんな美味い卵焼き今まで食ったことないわぁ! さすがカケル、料理上手いなぁ」
さっきまでの悲しそうな表情が、天使のほほ笑みに変わった。
んん、こいつの笑顔はいつみてもいいなぁ。
僕はこの笑顔でお腹いっぱいだよ。
でも…
「ほめてくれるのは嬉しいけど、自分で箸持って食べよ。クラスメートにBLだとかオカマだとか、噂されるのはお互い嫌でしょ?」
正直クラスメートの目線が『僕がヒカルに手作り弁当を食べさせてる』という勘違いを含んでいた。
痛いくらいに…
「分かった♪」
そういうと、ヒカルは右手を出してくる。
完全にご機嫌になっているヒカルに僕は箸をわた…
パンッ
あらら
なんかいきなりお箸が短くなった気がするなぁ。か、確実に砕け散ってるねぇ、うん
「なぁカケル、これって…?」
目の前で起こったことに目を丸くするヒカルに、僕はいざという時の予備の割り箸を渡す。
「あぁ、ずいぶん腕を上げたみたいだね」
そして僕は廊下側の窓の先を見る。
「鬼ごっこの次は射的ですか? 場所を考えてほしいな、生徒会長?」
僕の目線の先には隣の北棟の屋上があり、そこには[スナイパーカヤ・ビントブカ・ドラグノフ]、通称SVDを構えたサキがいた。
あ! 忘れてたけど、彼女はこの戌神高等学校の生徒会長をやってる。
ついでに僕とレイとは腐れ縁の部類に入る生徒会長様だ。
一年生の生徒会長なんて有り得ないけど、目の前にいるんだからしょうがない。
「てか、作者ぁ! 学校名とか諸々の細かい設定をここで説明させるなよ! 付け焼き刃なのがバレバレ…!」
バキューン♪
殺気を感じた僕は、なんとか横に跳んだおかげで、ふざけた効果音の凶弾を避けらた。
「この作者、機嫌損ねると主人公でも殺す気やから気ぃ付けや…この漬物ウマッ」
短期連載コメディーの主人公殺すかフツー!!
てか、このままだとクラスメートに流れ弾が…
地獄絵図が想像出来た僕は、気ままに弁当を食ってるヒカルの言葉に不満を感じながら、みんなに被害のかからないように教室の外へ走りだした。
※※※※※※※※※※※※※※※
ハイッ、ここまでが長い回想です。
回想中、走ってました。走り続けました。
そのおかげで今は安全地帯にいます。
「おつかれ。ゆっくりしてって」
僕の目の前にはいい薫りの紅茶とコーヒー、お茶菓子が運ばれてきた。
それを運んできたのは、白衣を着た女性だ。
「四谷先生すいません。いつもお世話になっちゃって」
僕はコーヒーを受け取って、清潔そうな白いベットに座る。
そう、今僕がいるのは保健室、そして僕の隣に座っているのは…
「いいの。妹、迷惑かけてる」
気付いた方もいるでしょうが、この方は保健教師の四谷彩[よつや アヤ]。
そう、四谷先生はサキのお姉さんなのです!
…そしてサキは、お姉さんのいるこの保健室を攻撃してこないのです!!
「…うん、四谷先生の入れるコーヒーは美味い!」
「ありがと。だけど先生やめて、アヤって呼んで」
「いや、昔はそうよんでたけどやっぱり先生だし…」
「……………」
四谷先生が無言で僕の左胸部、いわゆる心臓部にスナイパーライフルが当ててる=ゼロ距離=回避不可…
「すいません! でも、さん付けで許してください!」
「…分かった」
四谷…アヤさんはしぶしぶ承諾してくれた。
なんで姉妹揃ってドラグノフを?
四谷家はスナイパーブームか?
そんなアヤさんは肩まである赤みのおびた髪の左側前髪をのばして片目が隠れているため、『虎柄のチャンチャンコを着た妖怪少年』を思い出させる。
だけど、さすが大人の女性。出る所は出て引っ込む所は引っ込んでる。『風呂好きな目玉が父親の少年』とは訳が違う。
さすがまだ2……
「かーくん、ダメ」
「…はい」
歳を言いそうになったのは悪かった、こめかみに銃口向けるのと『かーくん』はちょっと…
「かーくんはかーくん、それ以上でもそれ以下でもない」
「ちょっと格好いいセリフ…って、人の心読まないでください」
こんな無口で不思議で少し強引だけど、とってもいい人だ。
こうやって、僕を助けてくれるからありがたい。
…いつも世話になってる分、少しぐらいの妥協はしよう。
「…分かりました。だけど、友達の前では名字でお願いします」
「分かった」
僕は銃口が降ろされるのを横目に見ながら、ぬるくなったコーヒーを飲み干した。
おっと、そろそろ午後の授業が始まる。
コーヒーを飲み切った僕は、座っていたベットから腰を浮かす。
同時に眉間に何か、黒く光りした細長いものが突き付けられる。
「まだ来たばっかり。かーくん、まだここにいる」
「で、でも授業が」
「関係ない」
「…はい」
午後は安全地帯(?)で過ごすことになりそうだ…
ヒカル・「なぁなぁ」
カケル・「なんだ?」
ヒカル・「なんかアヤさんの描写俺等よりも細くねぇ?」
カケル・「作者のお気に入りなんだろ、あの作者はえこひいきする最悪な人だか…!」
ドキューン♪