2、授業中に逃走願望
「おーいカケル。生きとるか?」
「…なんとか存在出来ている」
僕は教室の自分の席に無事到着することに成功。
でも、田中との一騎打ちは見事惨敗。
もうすこしで僕が緑色に光って『光速の世界』を感じられたのに…
「…心が少年のマンガ好きか、水曜日の夕方七時にアニメ見とる人しかわからんネタ持ち出すな」
…気にするな! とにかく僕は一度捕まった。
だけど、田中が隙を見せた瞬間に全速力で逃げ出す事が出来た。
で、今この机に俯せてるんです。
「まあ色々あったみたいやけど、よぉあん中から逃げ出せたな。俺やったら100%無理やな」
先程から、突っ込みを入れながら目の前で話している小野田光[おのだ ヒカル]は愉快そうに笑っていた。
彼は短く刈り込んだ茶髪が特徴的で、同じ小学校で中学で別れたのだが高校で再会した、馴染みの友達の一人だ。
こいつの笑顔は老若男女に好感を持たれる必殺的な技で、ある意味凶器である。
「…見てたんなら助けてくれ」
「スマンスマン、つい見とるのがおもろくてな」
…とてつもなく殴りたい!
が、僕の善意がヒカルの無邪気な笑顔を殴る事を許さなかった。
ヒカルは僕の葛藤も知らずに喋りだす。
「それにしてもカケル、昔はメッチャ駆け足遅かったのになんでそんなに早くなったん?」
そう、昔はヒカルよりもよっぽど遅かった。
でも、今は勝てる自身がある。
「お前は知らぬだろうが、カケルは中学でも酷い目に遭っていた。それ故だ」
いきなり会話に割り込んできた聞き慣れた声を聞いて、僕は振り返りざまに声をかける。
「レイ、いきなり人の背後に表れるな、気味悪い」
「すまぬ、いつもの癖が出てしまった」
メガネを掛けたツンツン頭の和泉玲[いずみ レイ]がそこにいた。
彼は小中高すべて一緒の腐れ縁であり。また、僕とサキの戦い(一方的)の歴史を見てきた数少ない友人でもある。
人の背後をとるのが癖という、暗殺者的なちょっと危ない所もある。
「酷い目っちゅうのはなに?」
僕の中学時代を知らないヒカルは、興味深そうにレイの話に耳を傾けてる。
レイは僕の隣、自分の席に座ってヒカルの知らない僕の過去を話始めた。
「小学校の頃から始まった、カケルに対するサキの攻撃は中学入学時ぐらいから酷くなり、その頃からカケルは生きる為に逃げ足が早くなっていた」
あぁ、その頃の話をされると今でも泣きたくなってくるよ……
レイはメガネのブリッジを上げながら、再び口を開く。
「まさに狩るもの、狩られるもの関係だった。しかし、あれからサキの攻撃はある程度緩和されている」
そうそう、あの頃は追い掛けられてる時は本当に狩られると思ったよ。
出来ることなら緩和じゃなくて、今すぐ完全に止めてほしい。
ヒカルは僕の小学校の頃を知っているため、その話に納得したようだ。
いや、ちょっと否定してほしかった……
僕の思いを知らないまま、ヒカルはレイを質問攻めにする。
「大変やったんやなぁ。で、『あれ』ってなんのことや?」
「あぁ、それはな…」
レイが話そうとした時、サキとは違う殺気を感じた。
その瞬間、僕らの頭に何かが振り下ろされた。
「イッテッ!」←僕
「ヴファ!?」←ヒカル
「………ッ!」←レイ
僕は二人が悶えている中、僕らにこの痛みを与えた人物を見上げた。
それは鬼の形相で、危険な鈍器を手にしていた。
「ゴラァ! 授業中になにベラベラ喋ってんだ!」
……目の前には国語教師の田口さんが分厚い漢字辞書を持って立っていました。
「「「………スイマセン」」」
クラスメートが笑いを堪える教室、僕はここから今すぐ逃げ出したかった…
この小説の主人公は親(作者)に似て相当ヘタレですので、短い間ですがそのヘタレッぷりに呆れてください。