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訪問は常識的にお願いします

 誰かに呼ばれた様な気がして、重たい瞼を頑張って持ち上げてみると――体が半分透き通った中年男性が僕の顔をじっと覗き込んでいた。


「……柊さん?」


 ひょろりとした体格に、無造作に整えられた髪。顎に無精髭を生やした彼の名前は、ひいらぎ 洋平ようへい

 自分の意思で幽体離脱出来る体質(というか特技?)を生かし、浮気調査や行方不明になったペットの捜索を専門に請け負っている探偵だ。


「どうしたんですか、こんな夜中に。それも『幽体』の状態で来るなんて」


 時刻は、午前3時を少しまわった頃。普段の起床時刻より3時間程早く起こされたことに憤りを感じつつ、僕こと篠原しのはら 和也かずやの元に来た理由を尋ねる。

 すると、柊さんは顔の前で両手を合わせると、


「悪い、和也! 俺を助けに来てくれ!」


 何とも言えない表情で、僕に頼んできた。


******


 それから10分後。就寝中の家族に気が付かれないよう、そっと家を抜けだした僕は、柊さんの自宅兼事務所が入っているビルへ来ていた。

 階段で2階へと登り、柊さんはドアをすり抜けて入室。僕は預かっている合鍵を使って『柊探偵事務所』内へ足を踏み入れた。

 ソファやテーブルが置かれた応接スペースを通り抜け、給湯室とトイレがある通路を覗き込むと、柊さんが説明した通りの状況になっていた。


(本当に、何をやっているんだか)


 自然とため息をついてしまう。


 人が2人並んで歩くには若干狭い通路の手前に位置しているのが、給湯室。その奥にあるトイレのドアを塞ぐようにして、大きな段ボールが置かれていた。

 大きさは通路の幅よりも、若干小さい。柊さん曰く、夕方に届いた荷物で、邪魔にならないよう通路奥の壁に立てかけるようにして置いていたらしい。

 しかし、柊さんがトイレのドアを閉めた衝撃がきっかけで、段ボールは壁から離れ、床に着地。その結果――


「おーい、早く出してくれ」


 トイレに閉じ込められ、僕に助けを求めてきた次第らしい。


「はいはい、ちょっと待ってください」


 僕は段ボールをずるずると引きずり、ドアの前からどかす。トイレから出てきた柊さんは、大きく伸びをした後、


「本当に助かった。ありがとう。和也がいなかったら、俺は死んでいたかもしれない」


 真顔でそう言い、深々と頭を下げてきた。それに対して僕は、


「どういたしまして。――感謝の気持ちは、今度焼肉とか奢ってもらえれば十分ですから」


 平日の真夜中に、どうしようもない理由で他人を起こして、肉体労働させたのだから。お礼を要求するのは当然の権利ですよね。そんな思いを込めながら、僕は微笑んでみせる。


「……。駅前の牛■で勘弁してくれ」

「僕は良いですよ」


 柊さんから言質を取ったので、早々に帰ることにしよう。今日もこれから、仕事なのだから。僕は柊さんに「おやすみなさい」と挨拶をして、事務所を後にした。



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