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最後の手段

「逃がさないよ」


ラストはマルクスを追って、通路から身を乗り出した。

その瞬間、針が目の前に迫っていた。


しかしラストは事前に前に構えていたナイフでそれをはじき返した。


〔来るとわかってなかったら、絶対に食らっていただろうね〕


マルクスはラストが自分を追って通路から飛んでくることを予想して、事前にそこに針を投げていたのだ。

それをラストは読んでいた。


下を見ると先に着地したマルクスがナイフや針を構えてこちらを見据えている。

ラストが下りてくるのを待ち構えているんだ。


〔本当は飛び降りるのをあきらめるべきなんだろうけど〕


そう言って、ラストはあえて通路から飛び降りた。


マルクスは少し驚いた様子だったものの、空中で自由に身動きが取れない状況を見逃すはずもなく。

容赦なく手に構えていた武器をこちらに投擲してくる。


しかしラストは身体をくねらせながら、器用に躱していく。

さらに、どうしても避けられないものは右手に持ったナイフ、左手に付けた腕時計、腰ベルトの金具部分などで受ける。

要は生身で食らわなければいいのだ。

とは言っても、ラストの動体視力と計算能力あってこそなんだがな。


空中ではとらえられないと考えたのか、マルクスは投擲による攻撃をやめラストの着地位置に移動する。

着地狩りをするつもりか。

ラストはそれを見て、かかと落としの姿勢を空中でとる。

飛び降りの位置エネルギーが足された技だ。

食らったらひとたまりもないだろう。


しかし、マルクスはそれを見てニヤリと笑い、ここで針を投擲してくる。

すべて読んだうえでの作戦だったんだろう。

しかし、こういう読み合いはラストのほうが一段上手だ!


ラストはかかと落としの姿勢から、後ろ周りに一回転し針を躱して着地。

見事に躱して見せたラストに面食らったマルクスの両腕をつかむことに成功した。


「さあ、やっと捕まえたよ」


マルクスは腕を振りほどこうとするが、ラストはビクともしない。

パワーでは完全にラストのほうが上だ。


「無駄だよ。100%の僕のパワーに対抗できるのはせいぜい留美ちゃんとクオンくらいなもんさ」


「どうやらそのようだね」


マルクスは負けを悟ったのか抵抗をやめ、半笑いで返す。


「じゃあ約束通り、部屋から出てきてくれるかな?」


「そうだね、僕が勝負に負けたらという約束だからね。でも――」


ラストは同意する様子を見せたマルクスに安心してつかむ手の力を緩めた。

しかしその瞬間、マルクスが両腕を素早く引き、器用にラストの拘束から抜け出した。

そして同時に後ろへ大きく跳躍。


「僕はまだ負けていないよ!」


跳躍したマルクスを追うためラストは前へ出ようとするが、針を投げてけん制される。

マルクスは着地後、片手でバク転を繰り返しながらラストと距離をとる。

その間も空いたほうの手で針を投げてくるので、不用意には近づかない。


20メートルほど離れたところで、マルクスはバク転をやめ針でもナイフでもないものを取り出した。

遠くでよく見えないが、何か新しい武器か?


それのキャップらしきものを取り外したと思ったら、マルクスはそれをなんと自分の太ももに突き刺した!


突き刺したものをマルクスが投げ捨てる。


それを脇目で確認すると、注射器だった。


視線をマルクスに戻す……とそこにマルクスの姿はなかった。


なんだと!?


そして、真横から何かが迫ってきていた。

ラストは視界の端に映るそれをほとんど勘で避ける。


視線を合わせると、それはマルクスのドロップキックだった。


馬鹿な。


マルクスの動きは速いとは言え、見失うほどではなかった。

でも今の動きは、留美以上にスピード出てるぞ。


ラストのいたところを通り過ぎて行ったマルクスは、着地した後すぐにこちらに飛び込んでくる。

切り返しの速度も速い。


これはまぐれではないと確信する。


スピード対決は分が悪いとみて、あえて正面から受けて立つ。

マルクスがおそらく毒付きのナイフを持ち、こちらに切りかかる。


先ほどと同じようにラストはマルクスの手首をつかむ。


しかし、今回のは軽々とは受け止められない。

じりじりと押される。


「これでも、キミといい勝負か。これは最後の手段だったんだけど」


スピードもパワーも先ほどとは段違い。

一体何をした?


これほどまでに瞬間的な強化。

さすがに今まで手を抜いていたとかではないだろう。


考えられるのは直前に打った注射。

相手は毒や薬品の扱いに優れている。

そうなると該当する答えがひとつ、思い浮かぶ。

マルクスのやつ、ドーピングしやがった。

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