「銃」対「針」
「留美ちゃん!」
ラストはすぐに留美のもとに駆け寄ろうとする。
しかし、すかさず先ほどと同じ針がラストを襲ってくる。
ラストは前に進もうとしたのを一気にブレーキをかけ、後ろにジャンプしマルクスと距離をとった。
「大丈夫だよ。殺しはしないさ。3日くらい目を覚まさないかもしれないけどね」
以前、マルクスに戦いを挑んだ奴らも昏睡状態になっているんだったか。
それにしても、このマルクスという男。
中性的な見た目からは想像できないくらい狡猾で容赦がない。
留美への攻撃も完全な不意打ち。
しかも毒使い。
〔見たところ、中~近距離戦闘を得意とするタイプかな。それなら〕
ラストはマルコスから視線を外さないようにしながら、腰ベルトに用意しておいた戦闘用ナイフを左手に、拳銃を右手に構える。
その瞬間マルコスは、こちらに向かって一気に距離を詰めてきた。
ラストの予想通り、そちらは得意ではないようだな。
ラストは引き金を引き、数発発砲する。
しかし、マルコスは足を止めずに真っすぐこちらに向かってくる。
何たる胆力。
ラストに当てる気がないのも気付いているのか。
ならばと今度は急所には当たらないようにしながら発砲を始めた。
装填しているのはゴム弾。
貫通はしないが、当たれば痛いし怪我もする。
マルコスはこちらが狙いをつけ始めたことにも気づいたのか、急に飛び上がり天井に張り付く。
そこから次は壁に、次は地面に、また天井にと縦横無尽に動き回りながらも確実に近づいてくる。
身体能力も戦闘員上位レベルだ。
さらには自分の腰ベルトから何かを投擲してきた。
針じゃない。
もっと大きい。
しかしこれは余裕で姿勢を変えることで避ける。
目で追ってみれば、少し小さめのナイフ。
投擲用のナイフか。
これも毒塗ってあるんだろうなあ。
その投擲用ナイフを見た視界の端に何かが映る。
とっさにラストはそれを左手のナイフで弾き飛ばした。
針だ。
ナイフがおとりで、こっちが本命だったか。
この状況でそんな罠を仕込みながら攻撃してくるとは。
2人の距離が近づいていく。
しかし近づきすぎれば銃撃を受けることは免れない。
マルクスはあるところから近づけないくなっていた。
しかしこっちも銃撃をやめると近づかれる。
そしてその均衡はすぐに崩れた。
「あ、やば」
ラストが引き金を引いても弾が出てこない。
簡単な話だ。
弾切れ。
そりゃあれだけ撃ったらな。
ここぞとばかりに、天井に張り付いていたマルクスがこちらに向けて跳躍してきた。
その手には毒がたっぷり塗っているであろうナイフを持っている。
「なんてね」
発砲音。
続けてドシュッという鈍い音。
弾切れは嘘。
こちらの弾切れを待っていたマルクスに最後の1発を当てるための演技だ。
見事、ラストの銃弾はマルクスの左肩をとらえていた。
弾切れを見せたタイミングもラストが意図していたものだ。
ちょうどマルクスが天井に張り付いたところで見せることで、回避のできない空中へ誘い込んだのだ。
やはり頭の回転ではラストのほうが一枚上手だったな。
マルクスは左肩に被弾して空中で減速し、ここまでは跳躍が届かなかった。
しかし。
マルクスはそのまま間髪入れずこちらに突進してきた。
嘘だろ。
いくらゴム弾とはいえ、まともに食らったら骨折しててもおかしくないダメージがあるはずだ。
それなのにすぐに立て直してくるとは。
さっきも威嚇射撃を一切ものともせずに突っ込んできたし、こいつまともじゃないぞ。
〔今はホントに弾切れなんだよねぇ〕
そう。
さっきのは最後の1発だったから拳銃にはもう弾が残ってない。
一応弾倉は持っているが、マルクスはもうすぐそこまで迫っている。
もう間に合わない!
〔まぁ、普通ならね〕
そう俺に言ってラストは左手に持っていたナイフを上に投げる。
何やってんだ。
マルクスと近接戦闘になったらそれは絶対必要だろ。
ラストはナイフの投げた左手をすぐに腰のポーチに突っ込み、弾倉を自分の目の前に放り投げた。
次に、銃から空になった弾倉を取り外し、目の前に投げた新しい弾倉をキャッチ。
すぐに銃に装填する。
そして最後に、上に投げていたナイフをノールックで受け止めた。
ああ、なるほど。
普通なら弾倉外してから新しい弾倉を出して装填ってところを、弾倉の用意と外すのを同時にすることで時間短縮ができるってことね。
ラストの計算能力あってのものなんだけど。
まぁこれで重要なのは、マルクスがこちらに来る前に装填が間に合った、っていうことだ。
ラストはすぐに銃を構えて引き金を引く。
マルクスはこの装填速度に目を見開いて驚いた様子だったが、ラストが銃弾を発射する直前に通路から外へ飛び出していった。
さすがに不利とみて、この場から離脱したか。
本人は鬼ごっこはしないとは言っていたが、本当とは限らない。
マルクスは素早いし、実際そうなったら厄介そうだ。
ラストはすぐにマルクスと同じく、廊下から外へ身を乗り出した。




