強さの正体
「ところで、そのマルクス……だったか? その人の能力は何なんだ?」
俺の質問に対し、留美は首を横に振る。
「残念ながら非公開情報よ。基本的に非戦闘員の能力は重要機密の扱いになっているわ」
「そうか……絶対に能力が強さに関係しているんだろうけどな」
これじゃ対策の取りようがないぞ。
「まぁ、私とラストなら勝てないってことはないでしょ。今日装備を整えて、明日決行しましょう」
「明日ぁ!?」
あまりに急な展開なので、声が裏返ってしまった。
「いやいや、もうちょっと準備期間を設けたほうが……」
俺は慌てて留美の説得を試みる。
「どうせ対策の取りようもないんだったら、早いほうがいいでしょ。万が一ダメだったら、その反省を踏まえてもう一回挑めばいいんだし」
「そんなゲームみたいなこと言うけどよ。ダメだった時に命があればいいな」
「万が一って言ってるでしょ。いえ、もう『億が一』くらいね」
そんな自信満々に言ってくれちゃってー。
そんなこと言うやつから脱落していくっていうのはよくある話なんだぞ。
確かに留美に限ってそんなことは起こらないだろうけど。
「そうあることを祈るよ。それで、明日のいつやるんだ?」
「そうねえ……24時間後、14時にしましょう。アオの部屋に集合ね」
24時間。
前に聞いた、100%を出力する条件を満たすためか。
別に手を抜いてやろうってわけじゃないんだ。
俺たちが全力でやれば負けないという確信があるだけで。
今聞いて思ったが、そもそも男子寮なんだからあそこには男しか住んでいない。
つまり最初にあった時点でマルクスが男なのは分かっていたんだな。
「了解」
「それじゃ、装備を見に行きましょ」
俺たちはクオンに連れられて武器庫に言った。
そして次の日。
現在13時50分。
ピンポーンと、俺の部屋のチャイムが鳴った。
「はいはい」
俺が扉の覗き穴を見ると、留美が立っていた。
どうやら迎えに来たみたいだな。
俺は特に何も考えずに扉を開けた。
「準備は大体でき――いっ!?」
俺が扉を開けた瞬間、胸ぐらをつかまれる。
そしてそのまま、後ろに投げ飛ばされた。
留美の後ろ、つまりは外である。
「ひっ!」
訳も分からず外に放り出された俺は、ほとんど声を出すこともできずただ落下する……と思われた。
俺は完全に外に放り出される前に、廊下の手すりをつかみギリギリ落下を免れた。
「あのさぁ、留美ちゃん。僕を呼び出すためとはいえ、あまりにも強引すぎやしないかい?」
ラストはやれやれとつぶやきながら手すりをよじ登る。
今までにも何も言わずに殴りかかってくるとかあったけど、今回は下手したら死んでるからね。
ここ4階だし。
「それだけアンタを信頼してるってことよ。これでだめなら、今日だって勝てないだろうし」
「それはそうだね。僕たちは準備完了だよ。そっちも?」
「ええ。だから迎えに来たんでしょ」
俺たちは昨日選んだ装備に身を包んでいた。
いつもは制服の下に拳銃を隠すように仕込んでいるんだが、今回は隠す必要がない。
だから今は腰ベルトにホルダーを付けてそこに銃を格納している。
服は意外にも制服。
というのもこの制服、実は防刃素材で作られているらしいのだ。
ただ、動きやすさ優先で作られているから、全く刃物が効かないってわけではないらしいが。
今回の制限、刃渡り15センチ以内の刃物くらいなら有効だろう。
本当は守れていない、首や手首をガードする防具があったほうがいいんだろうが、ラストや留美は精密かつ素早い動きを軸とした戦い方をする。
だから、下手に動きを制限しかねない防具はつけられないのだ。
「それで、作戦は?」
「相手に反撃の隙を与えないわ。私がメインで攻撃するから、攻撃と攻撃の間を埋めるようにサポートしてほしいの。ラストならできるでしょ」
「案外慎重なんだね。てっきり、2人で同時攻撃して確実につぶしに行くのかと思ったけど」
「それも悪くない手だけど、2人で同時に攻撃しているとどこかで両方の攻撃がやむタイミングができるかもしれないでしょ。そこで何か嫌なことをされるかもしれないじゃない。相手の能力が分からない以上、何もさせないに越したことはないのよ」
「なるほどね」
留美はそういうことも考えながら戦うんだな。
それも彼女を世界最強したらめている要因のひとつなのかもしれないな。
「それじゃ、そろそろ行きましょうか」
マルクスの部屋は2階。
ここは4階なので階段を2人で降りる。
「ラスト、腕時計なんてつけてるの? 邪魔にならない?」
「これは耐久性で有名な時計なんだよ。もしかしたら手首を守ってくれるかもしれないじゃないか」
そんな会話をしながらマルクスの部屋にたどり着いた。
留美が扉の前に立ち、ラストがその1歩後ろで待機する。
留美はほとんど躊躇なく、インターホンを押す。
しばらくすると、部屋の中で足音がして、扉のほうに近づいてくる。
「はいはい、どなたですか」
警戒なく、扉を開けて出てきたのは金髪碧眼の少女のようにも見える少年。
間違いない。
写真で見た、マルクスだ。
マルクスはシャツの上から白衣を羽織っていた。
医者か何かなのか?
部屋から薬品みたいな匂いするし。
「ハロー、マルクス。私は門寺留美。あなたに模擬戦を申し込みに来たわ」
すると、マルクスは少しその青い目を見開き、留美をまじまじと見つめる。
「へぇ、キミがルミか。まさかランキング1位が来るとは思ってもいなかったよ。あの2人を懲らしめたらもう誰も挑んでこないだろうと思っていたんだけどね」
あの2人っていうのは、前回マルクスに挑んで病院送りにされたっていう2人か。
マルクスは一応、ある程度の情報は持っているらしいな。
留美がランキング1位なのは知っているみたいだし。
「それで、後ろのキミは知らない顔だね。新入りかな? ……いや、一度だけここで会ったね。あの時とは雰囲気が違うようだけど」
「僕はラスト。今はそう名乗っているんだ。本当の名前は空色光輝っていうんだけどね」
「ソラシキ……それじゃあキミ、いきなり3位になった新人か」
おっと、こちらの情報もあったみたいだな。
顔までは知らなかったみたいだけど。
「まさか1位と3位が手を組んでやってくるとはね。さすがにボクにもお手上げかもね」
言葉の割には余裕綽々に見えるがな。
「あら、じゃあ降参して出てきてくれる?」
「うーん、戦ってもいいんだけど、制限時間10分っていう条件を追加してもいいかな。10分間ボクが倒されなかったらボクの勝ちってことで」
「逃げ回ったりするんじゃないの」
「それじゃあ、ただの鬼ごっこじゃないか。ちゃんと戦うさ」
「分かったわ。その条件で戦いましょう」
時間制限10分っていうのは短いようで超長いぞ。
普通の模擬戦は3分だったから、3回戦やってもお釣りがくるくらいだ。
俺たち相手にそれだけ粘る自信があるってことか?
「じゃあ、ちょっと武装してくるから待っててね」
そう言ってマルクスは一度扉を閉めた。
「案外簡単に受けてくれたね」
「まぁ、自分で提示した条件だしね。降参もしないみたいだし」
「むしろそこが気持ち悪いんだけどね、僕は。1位と3位を同時に相手にするのに躊躇がないなんてさ。警戒したほうがいいかもよ」
わかってる、と留美は相槌を打つ。
「戦いが始まったと同時に100%で行くわ。そっちも準備できてる?」
「こっちはもうすでに100%だよ」
そして3分後、再び扉が開いた。
「やぁ、おまたせ」
マルクスはさっきの真っ白の白衣から打って変わって、真っ黒の外套を羽織っていた。
中にさっきはなかったベルトを装備しているのが見える。
おそらく、銃を格納するためのものだろう。
「開始のタイミングはボクが決めていいかい?」
「どうぞ」
そうだねぇ、と言いながら彼は腕時計を確認する。
「じゃあ、14時になったらスタートだ」
ラストも時間の確認のため腕時計を確認する。
この時計は電波時計じゃないが、俺は時間を修正するのが趣味みたいなもので、頻繁に時間を合わせている。
1秒の狂いもない……のだが。
腕時計は今秒針がてっぺんに到達し、14時になった。
14時って今じゃないか。
そっちの時計が狂っているんじゃないのか、そう指摘しようとしたたとき……留美が倒れた。
「なに!?」
そして、それと同時にマルクスがこちらに何かを投擲してきた。
ラストはとっさに腕時計の金属のベルトでそれを受ける。
すると金属音がして、それは跳ね返された。
ラストの動体視力で確認できたそれは、針だった。
そして、留美のほうを確認すると、留美の手の甲にも針が刺さっている。
留美の手に刺さった針、薬品の匂い、白衣。
これらの情報からラストはマルクスの攻撃の正体を導き出す。
〔もっと早くに気付くべきだった〕
ああ、俺も気付けたはずだ。
〔マルクスは毒使いだ!〕




