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任務

「そういえば――」


 いつもの夕方の修行中、師匠が手を止めて口を開く。


「私、来週から任務に就くことになりました。1週間ほどこの島から離れます」


「任務か。どんな内容なんだ?」


 以前、留美がこの島から脱出する方法についてチラッと話していたが、この任務っていうのがその方法だ。

 任務の依頼者は様々。

 施設内や島の外の限られたこの施設の存在を知っているところが依頼を出す。

 依頼にはポイントが割り振られていて、見事ポイントを100ポイント貯めたらこの島から解放されるということらしい。

 俺はまだ敬遠しているがな。


「護衛ですよ。私は個人で受けていますしあまり攻撃性の高いことはしたくないので、大体同じような任務ですね」


 まぁ、師匠らしいっちゃ師匠らしいが。

 

「ちなみにポイントは?」


「1ポイントです」


「しょっぱ」


 そう。

 ちゃんと脱出手段が用意されているのはいいんだが、ポイントを貯めるハードルが高いのだ。

 これをクリアできないようでは、島の外に放り出せるほど信用できないってことなんだろうけど。


「光輝さんは任務には行かないんですか?」


「そろそろ始めようかな。簡単なやつから」


 


 次の日、俺は任務を受けてみる話を留美とクオンにした。

 さすがにひとりは不安だからな。

 最初くらいは手伝ってもらおう。


「ちょうどよかったわ。ひとついい案件を抑えておいたのよ」


 そう言って留美が自分の端末を取り出す。

 留美が見せてくれた画面には任務の内容が記されていた。


「ポイントは1人3ポイント。定員二人。内容はある人物を寮から引きずり出すこと」


 ちょっと待て。

 確か師匠の護衛任務は1週間で1ポイントじゃなかったか。

 あまりに破格すぎる。

 嫌な予感がしてきた。


「引きずり出す?」


「うん。依頼はこの施設から。どうもここに連れてこられたはいいけど、寮に引きこもって出てこないらしいのよ」


 まぁ、そうなるのも無理はないわな。

 俺だってそうなっていたかもしれない。


「でも意外だな。そうならとっくに強硬手段に出ていると思ったけど」


「まぁ、ターゲットは非戦闘員だから。よっぽど問題行動を起こさない限り無茶はできないわよ」


「俺たちが引きずり出すっていうのは無茶な行動に入らないの?」


「どうも本人は全く外に出る気がないわけじゃないみたいなのよ。条件を提示してきたの」


「条件?」


「いたってシンプル。『自分に模擬戦で勝つこと』」


「待て待て。相手は非戦闘員じゃなかったのか?」


「非戦闘員としてここに連れてこられたみたいだけど、実力は上位の戦闘員レベルっていう話を聞いてるわ」


 つまり、頭がよくてさらに強いってこと?

 なんか厄介そうだな。


 俺は、自分の身体を改造していくマッドサイエンティスト的なものを想像する。


「おいおい……で、それに俺を連れて行こうとしているわけ?」


「そう。私とあなたとでね」


「クオンは?」


「私は遠慮しておくわ。そういう荒っぽいのは引き受けない主義なの」


 クオンは肩をすくめて首を横に振る。


「大丈夫よ。念のために100%が使えるようにしてから行くわ。それに、ラストに手伝ってもらうわよ」


「それはそれで別の方向で心配になってくるな。それで、相手の情報は?」


「あら、引き受けてくれるの?」


「相手の情報による」


 俺がそう言うと、留美は端末を操作して俺に画面を見せる。


「この人が今回のターゲット、マルクス・シェーファーよ」


「この人……!!」


 留美が見せてくれた画面には顔写真が表示されていた。


「あら、美人ね」


 クオンはその写真を見て呑気にそんな感想をつぶやく。


「会ったことあるの?」


 俺の反応を見て、留美が俺の顔を覗き込む。


「ああ、寮で一回だけ。名前的に男……だよな?」


 いつだったか、ここに来たばかりのころに遭遇したんだ。

 誰もいないはずの時間帯だったから遭遇するのはおかしいと思っていたが、引きこもりだったわけね。


「ええ、男よ。ホント、もったいないわよね。嫉妬しちゃうくらい、美人なのに」


 そんなことを言っているけど、留美はめちゃくちゃ可愛いと思うけど。

 おとなしくしていればな。


「アオ、なんか失礼なこと考えてない?」


 鋭い!


「い、いや……留美は美人っていうよりは可愛いって方向だからな」


 こういう時は下手な嘘はつかないほうがいい。

 本当のことだけを言って、核心に触れないようにするのだ。


「か、可愛い?」


 留美が少し顔を赤くして聞き返してくる。

 ほう……留美のやつ、あまり褒められなれてないな。

 ならもっと褒めてやろう。


「おう。超可愛いと思うぞ」


「そ、そう……ありがと」


 なんかここまでやっておいてなんだが、照れくさくなってきたな。

 次なんて言えばいいんだ?

 

 留美は顔を真っ赤にして黙りこくっているし、俺も次に続ける言葉が見つからない。

 そうしてしばらく、二人の間に沈黙が流れた。


「あらあら……」


 その沈黙を破ったのはクオンだった。

 クオンは口に手を当てているが、めちゃめちゃニヤニヤしているのがわかる。


「それで? 任務の話じゃなかったのかしら?」


 クオンがこう言うと、留美はハッとした顔をして一つ咳払いをする。


「コホン。さっきも言ったけど、定員は二人よ。それは本人が指定しているみたい。逆にいえば、二人なら勝てると思っているということね」


 よかった、話が戻った。

 クオンナイスだ。

 俺が悪いんだけども。


「でもさすがに、2対1なら俺たち以外でも勝てるんじゃないか?」


 2対1っていうのはよっぽどの戦力差がないと戦えないぞ。

 例えば仮に、俺が留美の50%と同等の強さだったとする。

 で、100%の留美に俺が二人がかりで挑んだら…………

 ちょっと例えが悪かったな。


 本当は勝てるていで話すつもりだったんだが、全く勝てるビジョンが湧かなかった。

 まぁ俺が言いたかったのは、2対1で勝つのは大変だということだ。


「実は少し前に、ランキング8位と10位が二人で挑んだみたいなんだけど、今病院で昏睡状態よ」


「マジか……」


 そうなると間違いなくそいつらより上位。

 俺たちがその二の舞になる可能性も捨てきれない。


「武装はありのルールよ。使用制限はあるけどね」


「武装?」


 なんか物騒なワードが出てきたな。

 武装だけに。


〔……〕


 俺がラストの顔を見れたなら、白い目で見られているんだろうなっていうのは容易に想像できた。


「要は、武器も防具も装着していいってこと。武器には縛りがあるけどね」


「非戦闘員でありながら、これだけ立ち回れるっていうのにはそこが関係ありそうね。例えば、普段は武器の管理をしているメイユイちゃんだって、銃の扱いは達人レベルだって聞いたわ」


「ああ、そうなんだ」


 前に俺の銃を見繕ってくれた人だな。

 そういえばあれ以来俺の銃触ってないな。

 もしかしたら今回、使わないといけなくなるかもしれないから、また練習しに行かないとな。

 

「それで、武器の縛りって?」


「例えば刃物なら、刃渡り15センチ以上のものを使用するのは禁止。銃なら実弾の使用は禁止よ。ゴム弾を使うことになるわ」


「でもあれだよな。刃渡りが15センチ未満でも人は殺せるし、ゴム弾でも内臓破裂を起こしたりするって聞いたことあるけど」


「それで死ぬようならそれまでよ。わかってるでしょ、ここがそういうところだって」


「ああ、そうだったな」


 最近筋トレしかしていなかったから忘れかけていたが、ここは命の保証がされていないのだ。

 久しぶりだなそういうの。

 模擬戦トーナメント以来か。


 命がかかってくるとなるとこちらも手を抜けない。

 万全の対策を積んでいかないとな。


 俺は次の戦いに向けて気を引き締めるのだった。

 

 まぁ、戦うのは主にラストなんだけどな。


〔締まらないなぁ〕


 そんな嘆きが俺の頭の中に響いた。

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