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弟子入り

 次の日の午後、俺はクオンと留美に頼んで、ある用事を終わらせた後、集合住宅の一室を訪れていた。

 場所はその辺の情報に詳しそうなルナ先輩に電話で聞いた。


 ドアチャイムを鳴らすと、見覚えのある女性が顔を出した。

 彼女は俺の顔を見て少し困ったような顔をする。

 なので俺はさっそく彼女に声をかけた。


「こんにちは、俺は空色光輝っていいます」


 それを聞いた瞬間彼女は驚いた表情をする。

 まぁ、当然だろう。

 俺が話したのは中国語。

 彼女の母国語だ。

 彼女はずっとラストが気にかけていた、技の達人。

 その彼女に接触するため、前回と同じ方法で言語を修得してきた。

 まぁ、そのために監視を2人に手伝ってもらったんだけど。

 

 それにしても綺麗な人だな。

 背は少し高くて、サラサラの黒髪。

 思っていたよりも頼りなさそうな、おどおどとした印象だ。

 とても昨日、素晴らしい技を披露していたのと同一人物とは思えない。


 今回、彼女と接触しているのは俺。

 ラストに女性と接触させるとろくなことにならないからな。


「シェンリーさん、ですよね?」


 彼女の名前もルナ先輩から聞いている。

 日本だったら、個人情報がどうのこうので教えられないだろうが、ここは個人情報を守る法律は適用されないし、そもそも悪用のしようがない。


「あなたは……この前の?」


 俺に中国語が通じるのがわかったようで、彼女は慎重に言葉を選びながら話す。

 どうやら昨日ラストが話しかけたのは覚えてくれていたらしいな。

 

「そんなに丁寧に話さなくて大丈夫。日常会話には困らないレベルで修得してきたんで」


 俺は、それを証明するように少し早口で話す。

 

 彼女はそれを聞いて、さらに驚いたようだ。

 まぁ、そうだよな。

 たった一日で言語習得してきたら。


 ていうか、俺がラストを使うというリスクを冒してまで中国語を修得したのはこんな自慢話をするためではない。

 さっさと本題に入ろう。

 

 俺はシェンリーさんに向かって、深く頭を下げた。


「俺を弟子にしてください」


 そう、俺は今回彼女に弟子入りを志願するために来た。 

 ラストが賞賛していたその技術を学ぶためにだ。

 最初はラストがこの話をし始めたのだが、俺もラストの話を聞いているうちに、彼女の技にとても興味を持った。

 未来を見ているのではないかと疑うほどの攻撃予測。

 それに、


「え……弟子ですか?」


「そう。前の試合であなたの試合に感動したんだ。どうかその技を教えてほしい」


「そ、そんな。私なんかまだ修行中の身なので、教えることなんてできません……」


 彼女は手を顔の前でぶんぶんと振って全力で否定する。


「いや、とてもそんな風に見えなかったけど」


「いいえ。私に技を教えてくれた師匠は私よりもはるかに強いです。私は実戦経験を積んで、さらに技の完成度をあげるために、この土地にやってきたんです」


 なるほどな。

 理由としては留美に近いか。

 

「それに、たしかあなたは私よりも勝ち進んでいたはずです。それなのに私から教えを乞うんですか?」


「俺が強いのは単に身体能力だよ。でも、あなたが強いのはその極められた技だ。だから、俺はもっと強くなれるはずなんだ」


 ちなみに忘れないようにもう一度言っておくが、これはラストが言っていることを、俺が復唱しているだけである。

 決して、俺が志高く強くなりたいと思っているわけではない。

 

「お願いします、弟子にしてください」


 俺は改めて、彼女に頭を下げて懇願する。


 彼女は思案顔でしばらくしばらく黙り込んでしまった。

 俺は緊張の面持ちで彼女の返答を待った。


「だ、だったら……」


 彼女が再び口を開いたのはそれから30秒ほど経ってからだった。

 

「その……私のお友達になってもらえませんか?」


「へ?」


 予想外の言葉に俺はキョトンとしてしまう。

 

「私、英語が出来なくて、ここに来てから誰ともコミュニケーションが取れていないんです。だから、うれしかったんです。ちゃんと話ができる人がいて」


 確かに。

 ここでの共通言語は英語だが、世界人口のうち英語を話すのは4分の1ほど。

 俺もここに来てから英語を修得したし、今まで接触してきた人が英語を話せるのも偶然と言っていい。

 むしろシェンリーさんがのような状態の人は結構いるのではないだろうか。


「どうですか? 私のお友達になってくれますか」


 彼女は上目遣いに俺の返答を待つ。

 美人にそんな仕草を至近距離でされたもんで、ドキッとしてしまう。


「もちろん。俺からお願いしたいくらいだ」


 俺が笑顔で手を差し出すと、彼女はその手を強く握った。


「ありがとう! これからお願いしますね、光輝さん」

 

 彼女は本当にうれしそうに目を輝かせる。

 

 いや、そこまで感動しなくても。

 それに、友達認定したとたんに距離感が近くなったような気がする。

 それだけ寂しい思いをしていたんだろうか。

 だとしたら俺も彼女を大切な友人として接してあげたい。

 

「こちらこそよろしく。それで……弟子にしてくれる話は」


「残念ですけど、弟子を取るつもりはありません。さっきも言いましたけど、私はまだ未熟なので」


 やっぱりそうか。

 話している感じ、彼女がその技術にとても真剣に取り組んでいることが伝わってきた。

 それだけに、彼女から教えてもらいたかったのだが。


「でも……友達として、一緒に高めあっていくっていう相手は欲しいと思います。だから、一緒に頑張っていきましょう?」


 彼女はそんなお願いをしてきた。

 なるほど、師匠と弟子の関係ではなく、あくまで友達として対等な関係でか。

 こちらとしてもそちらのほうがやりやすいだろうからありがたい話だ。

 

「ありがとう、シェンリーさん……あの、もうひとつお願いなんだけど、師匠って呼んでいいかな?」


「え、いやそれは……」


 その言葉に彼女はとても慌ててしまう。


「もちろん、友達として接するよ。ただそうやって呼びたいっていうだけだから。あだ名みたいなものだと思ってくれていい」


「まぁ、そういうことなら……構いません」


「ありがとう、師匠」


「う……なんか、照れくさいですね」


 えへへ、と彼女は居心地悪そうにはにかむ。

 可愛い。


「それで、いつから始めましょうか? 2人でやるとなると場所の確保も必要ですよね。私一人の時は、この広い土地を使っていましたけど、最初から教えるとなるとちゃんとしたスペースがあるほうがいいと思います」


「ああ、それは任せて。考えがあるから。用意出来たら連絡するよ」


 その後俺たちは連絡先を交換して別れた。




 次の日俺は事務局を訪れていた。

 目的は、師匠と修行するためのスペースを確保するためだ。

 そして、割とあっさりトレーニングルームを確保することができた。

 留美がランキング上位の特典として使用許可をもらったと言っていたから、俺も使えるんじゃないと思ったが、正解だったな。

 不本意にも俺はランキング3位になってしまったわけだし。


 その日から俺は、昼から3時間は留美やクオンと、そのあとの3時間は師匠と一緒にトレーニングをするというスケジュールで過ごした。


 留美やクオンと一緒にやるトレーニングは筋トレが中心。

 腕と肩、腹筋と背筋、下半身というふうに身体を3部位に分けて、3日間順番に鍛えていく。

 筋肉は筋肉痛になっている間に成長していくので、順番に各部位を休ませながら鍛えるのがいいらしい。

 さらに効率よく筋肉を育てるため、プロテインの摂取も始めた。

 見せるための筋肉と使う筋肉は違うといわれがちだが、そうではないらしい。

 結局、見せるための筋肉を作るのに筋トレをしているわけだから、それは使える筋肉なんだそうだ。


 そうやって筋トレを続けて1か月、バーベルは60キロが上がるようになった。

 

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