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鍛錬

 その日の午後、自由時間ということで俺たちはトレーニングルームに集まった。

 トレーニングルームというくらいなのでそこにはランニングマシンやらバーベルやらが置いてあった。

 俺たち以外誰もいないのでクオンに聞いてみると、どうやらトレーニングルームはたくさんあるらしくそのうちのひとつをチームで貸し切っているらしい。

 とはいえ、ランキング上位の数少ない特典でもあるみたいだが。

 俺たちは最初にそれぞれ筋トレ装置を使ってトレーニングを始めた。

 ラストの説明によると、俺が鍛えることでラストにもその恩恵があるらしい。

 実際、模擬戦決勝戦で俺の身体に筋力がついたことでラストの性能が向上したからな。

 こういう装置を使った筋トレっていうのはやったことがなかったので、門寺さんとクオンに使い方を教わりながらやっていく。


「なによ、これぐらいも上げられないの?」


 門寺さんがこう言うのも無理はない。

 試しにこれくらいと言われてバーベル50㎏に挑戦したがこれが上がらない。

 おかしいな。

 自分の体重より軽いからこれくらいなら上がると思ったんだが。

 たしかに腕立て伏せと違って、これは重さがそのまま負荷になるから簡単じゃないのは分かるけど。

 さすがにちょっと悔しいな。


「クオン、あと5㎏軽くしといて」


 そういって門寺さんは俺からバーベルを取り上げた。

 片手で。

 うそーん。

 しかも結構軽そうに、ヒョイっと持ち上げたのだ。

 そしてあろうことかその50㎏のバーベルをクオンに向かって下から放り投げる。

 嘘だろ、と一気に肝が冷えるが、投げられたクオンもそのバーベルに動じることなく、軽々と受け止める。


「わかったわ」


 クオンはこちらにウインクしておもりを付け替え始める。

 ふとその脇を見ると、クオンのバーベルがある。

 明らかに俺のものと大きさが違うおもりが4つもついている。


「ちなみにクオン、それ何㎏なの?」


「200㎏よ」


 200!?

 さっきのやつの4倍とか上げられるイメージが全くわかないんだけど。

 俺の驚いた表情を見て、クオンが付け加える。


「そんなに驚くほどじゃないわよ。200㎏なんて私の体重より軽いんだから。試したことないけどこれの3,4倍くらいなら上げられるような気がするわ」

 クオンの体重は200㎏より重いらしい。

 それだけクオンが筋肉の塊ということだな。

 それだけでも驚きの情報だが、クオンにとって200㎏はそんなに重くないというね。

 なんだかそこまで言われると200㎏が軽く思えてくるから困る。


「ちなみに、ランキング1位の門寺さんは?」


 俺が顔を引きつらせながら聞くと、彼女は大きなため息をわざとらしくしてから、ゆっくりと話し始める。


「あのね、単純な筋力で私がクオンより上なわけないじゃない。体格差を考えなさい。私にパワーがあるように見えるのは、うまく攻撃にスピードを利用しているからよ。単純な筋力なんて、クオンの半分ほどしかないと思うわ」


 その細い体でクオンの半分あれば充分だと思う。

 あとそれから、と門寺さんは眉をひそめる。


「その『門寺さん』っていうのやめない? 何というか、うっとうしいのよ。名前でいいのよ、名前で」


「名前かぁ……名前ねぇ……」


 うーん、本人から頼まれてもそれは難しいものがある。

 日本ではよっぽど親しい関係でなければ名前で呼び合うことはないからな。

 特に男女ではなおのこと。


「何をためらうことがあるのよ。あなただってクオンのこと呼び捨てにするでしょ。それにラストは初対面で名前で呼んできたわよ。ただ『ちゃん』をつけるのはいただけないけど。もしも今後一瞬たりとも無駄にできない場面がやってきたとして、『門寺さん』なんて呼んでたら時間のロスでしょ。『留美』でいいのよ」


「そうなんだけどさ。やっぱり恥ずかしいというか……」


「名前で呼ぶと思うからいけないんじゃない? 私はルミちゃんを呼ぶときはニックネームのつもりで呼んでいるわよ」


 なるほどその感覚は分かる。

 俺もクオンを呼ぶときはそっちに近い。


「じゃあお互いにそうするようにすればいいのね。あなたのことは何て呼ぼうかしら。光輝……でもいいけど、もう一捻りほしいのよね」


 そこから門寺さんは日本語にもどって考え事を始めた。

 そこまで真剣に考えてくれなくてもいいのに。


「空色……空の色……青……決めたわ。あなたのこと『アオ』って呼ぶわね」


 この瞬間、頭に何かがよぎった。

 なんだ、この感じ?

 何かを思い出しそうな……


〔はは、君とネーミングセンスはいい勝負じゃない?〕


 ここでラストが突然そんなことを言う。

 今まで黙っていたのに、なんでそんなに反応するんだ。

 まだ俺がラストって名前を付けたのが気に入らないのか。

 そのせいでさっきまでの違和感がなくなってしまった。

 なんだったんだろう。


「分かったよ……留美。これでいいか?」


 さっきクオンが言っていたようにニックネームのような感覚で読んでみたら、結構恥ずかしさが軽減された。

 何回か呼んでいたら、微塵もそれはなくなるだろう。


「結構。それじゃまた再開しましょうか。クオン」


 門寺さん……留美は俺がそう呼んだのを満足そうに頷き、クオンに呼びかける。


「はいはい、できたわよ」


 そしてまた5㎏減らされたバーベル、つまり45㎏のものをボールのように放り投げてリレーする。


「あー、俺さっきは言ってなかったんだけど、今日は昨日の影響で筋肉痛がひどいんだ。また今度にしてくれない?」


 昨日の模擬戦は今までで一番身体を酷使している。

 当然筋肉痛も今までで一番ひどい。


「筋肉痛? ああ、普通は何日も続くんだっけ? 私、筋肉痛なんてここ最近なってないから忘れてたわ」


 まーた、そういうハイスペックな性能を公開してくれるんだから。

 ルナ先輩は留美のことを、俺と同じ上限無視タイプと言っていたがこれは様子が違うぞ。

 明らかに人間という枠を超えている。

 今度また詳細を聞いてみる必要があるな。


「じゃあ、どこかできる部位だけでもやっておきましょう。そもそも筋トレは身体の部位を3か4に分けて1日1部位ずつ順番に鍛えていくものだし。そうしたら筋肉痛の部位を分散できるでしょ」


 クオンがそんな俺に妥協案を出してくれた。

 しかしそれには一つ問題があって、


「それが……全身くまなく筋肉痛なんだ」


「まぁ!?」


 さすがのそれにはクオンも驚いた様子。

 仕方ないと言えば仕方ないのだ。

 普段はごく普通の身体能力しか持たない俺の身体を、突然変異だったり改造だったりで強化されている人間に勝てるほどにまで動かしているのだ。

 そのためには全身の筋肉を総動員させ、さらにそれを壊れる寸前まで動かさなければならない。

 その結果普通ではありえない全身筋肉痛という症状がでるのだ。


 結局、俺が筋トレに参加できないということで今日のところはお開きになった。

 留美もクオンも、筋トレはしてもしなくてもいいという姿勢らしい。

 なんか、筋トレっていうのはしっくりこないな。

 当然筋トレがメインなんだが、どうやら瞬発力を鍛えるトレーニングやら持久力をつけるトレーニングもしているらしい。

 英語で言えば全部まとめてトレーニングだが、日本語だと……訓練っていうのはなんか違うし……もっと『鍛える』っていうニュアンスがほしい。


〔それじゃあ『鍛錬』っていうのは?〕


 ラストがここで案を出してきた。

 なるほど。

 確かに鍛えるという意味を持つし、しっくりきた。


 次回の鍛錬はまた俺の筋肉痛が治ってからということになった。

 結局目標はバーベル100㎏ということになったが、本当に達成できるんだろうか。

 今のままだとそんな気配はないが。

 俺は留美のスパルタ教育を想像してしまって、大きなため息をついて帰路につくのだった。


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