ランキング更新
「痛っ……」
全身を鈍い痛みが走って、目が覚めた。
どうやら寝返りを打とうとしたらしいが、そこでいつもの激しい筋肉痛に襲われたようだ。
視界に広がる天井はどこかで見たことがあるような気がする。
はて、どこだったか?
「あ、目が覚めた?」
声をかけられてそっちを向くと、ルナ先輩がいた。
そうか、病棟に運ぶようにラストがクオンに頼んだんだったか。
「お世話になります……」
こういうときの挨拶ってこれでいいのか?
ていうか、今何時だ?
時間が分かれば、それに応じた挨拶ができるが。
辺りを見渡すと、あった。
時計が。
指しているのは7時。
ということは3時間くらい寝ていたのか?
それにしては、外が明るいような。
日本と緯度はほとんど一緒だと思っていたんだが。
「おはよう、コーキ君。朝まで寝るほど疲れていたようだね」
え、朝!?
確かに、それならこの明るさも納得できる。
それにしても15時間一度も目を覚ますことなく眠っていたのか。
ラストがあんなに表に出てきていたんだ、無理もないか。
「ええ、そりゃあもう大変でしたよ」
ルナ先輩は俺の能力についてもう知っているので、今日の模擬戦のことを詳細に話した。
「決勝まで残ったんだ。まぁ、休眠期間中だったとはいえ、ルミちゃんに勝っているならそれくらいは行くと思ったけど」
その言い方だとやっぱり門寺さんが頭一つ抜けて強いのか。
それで思い出したことがある。
「そういえば、ルナ先輩はクオンについて何か知っていますか?」
「クオン? ああ、いつも上位にいる人だね。彼のことは名前しか知らないかな。顔も見たことないと思う」
あれ、おかしいな。
「ここに俺を運んだのがクオンだと思うんですけど」
ラストはクオンに運ぶのを頼んだから、てっきりそのままクオンが運んできたものと思っていたが。
それとも、それがクオンだと知らないだけなのか。
「いや、ここの職員の救護班が連れてきたよ。担架に乗せて」
「……そうですか」
やはりクオンじゃないのか。
まぁ、救護班ってものがあるならそれに任せたほうがいいと思ったのだろう。
「上位といえば……」
ルナ先輩は自分の端末を取り出して何やら操作し始める。
しばらくして、嬉々とした笑顔をこちらに向けた。
なんだろう、嫌な予感がする。
「おめでとう、コーキ君! 見事3位にランクインだよ」
はい、悪い予感的中。
念のため俺はルナ先輩に端末の画像を見せてもらう。
順位は上から門寺さん、グレイ、そして俺になっていた。
確か元々3位はクオンだったな。
俺というかラストがクオンに勝ったから、俺が3位に食い込んだというわけか。
よく見ると4位がクオンだ。
つまり俺たちのチーム、1位、3位、4位で編成されているけどいいのか?
クオンは実力隠している疑いがあるし。
幸いだったのは、決勝まで残ったから2位にならなかったことくらいか。
やはりその順位の人に勝たないとその順位にはならないということか。
つまり2位になるにはグレイに勝つ必要がある。
その予定は今のところないが。
〔ええ~、せっかくだから目指せばいいのに〕
なんとなくわかっていたが、やはりまだラストとはつながっているらしい。
〔この頻度で僕が表に出るようになったら、ずっとつながりっぱなしになるかもね〕
そんな可能性もあるだろうな。
結局はラストは俺の一部なんだから仕方ないと割り切れる。
俺と意見が違うこともないし。
「ところでコーキ君、こんなところで休んでいていいの? 準備しないと講義に間に合わないよ」
時計を見ると時間は7時30分。
結構愚痴を聞いてもらったみたいだな。
確かに昨日着た服のままというわけにもいかないから、講義を受けるなら一度部屋に戻らないといけない。
しかしここから部屋までは結構あるから、急がないといけない。
「気分的には、もう休んでしまいたいくらいなんですが」
体のあちこちはひどい筋肉痛だし、昨日の模擬戦のせいで絶対に悪い目立ち方をする。
もうこれからのことを考えるだけで鬱だった。
「ダメだよ、ちゃんと出席しないと。一日くらいなら大丈夫だと思うけど、何回も繰り返すと反抗の兆しありとみなされて、きついペナルティが課されるんだから」
補習みたいなものか?
「例えば、どんな?」
「定番なのは隔離だね。地下に閉じ込めておくの。そうしたら反抗のしようがないでしょ?」
過激!
それで思い出したのは、昨日の朝に見た掲示物に書いてあった隔離棟の文字。
確かに武力を持った人間が反抗すればどんな被害が出るのかわからないから、それが一番確実かもしれないけど。
でも引きこもっていたくらいでそこまでされるのは。
〔いやでも、例えば反乱を起こすために準備している可能性があるとしたら、それも危険性があるかもしれないよ〕
言われてみればそうだな。
それにそんな過激なことをしたって、他所にはどうせわからなんだから倫理的にどうとか言われないし。
「だから、早く準備してきなさい。君も閉じ込められたくなかったらね」
「いや、でもルナ先輩が俺が今動ける状態じゃないと報告してくれれば……」
実際筋肉痛は今までにないくらいひどいものだし、昨日は意識を失って運ばれたわけだからと思って最後の抵抗を試みるが。
「もう大丈夫って報告しちゃいました。それにランキング3位が欠席したら威厳がないでしょ。ルミちゃんとそこそこいい勝負したなら、ちょっかい出してくるような人もいないよ。だから行ってらっしゃい」
俺は追い出されるようにして病室から出た。
そこから俺は、自転車置き場から自転車を一台引っ張り出し、筋肉痛にヒイヒイ言いながらなんとか部屋までたどり着いて、さっさとシャワーを浴びて着替える。
いつも通り空腹もひどいが、今回も点滴を打ってもらっているから、またラストの世話にならない限りは大丈夫だろう。
とりあえず、部屋にあった携帯保存食を口に放り込んで部屋を出る。
またヒイヒイ言いながら辿り着いたとき、ちょうど生徒がわらわらと入っていくところだった。
なんとか間に合ったな。
生徒たちの中にひときわ目立つ大きな影があった。
クオンだ。
俺はそのほうに駆け寄り、クオンの隣に立つ。
「おはよう、クオン」
クオンは俺が近づいていたのは気が付いていたようですぐに返事を返す。
「おはよう、コーキくん。昨日はごめんなさいね」
クオンがいきなり謝ってくるので、なんのこっちゃと首をひねっていると、クオンが続けて、
「ラスト君に病棟に運ぶように頼まれていたんだけど、ちょうど職員の人が近くにいたから頼んじゃったの」
ああ、そのことを言っているのか。
「気にしなくてもいいよ。俺だって同じ状況だったらそうするかもしれない」
まぁ、それは俺が一人でクオンを運べないからっていうのが大きいけど。
「ならよかったわ。そういえばコーキくん、ランキングが更新されているのって知ってる?」
「……さっき聞いた」
やっぱりその話題になるのか。
昨日模擬戦やったばかりだから、みんな確認するんだろう。
となると、俺の順位はもう結構広まっていると考えたほうがいい。
〔確かに結構視線を感じるよね。しかも好奇心や畏怖のこもった〕
さっきのルナ先輩が言っていたことは本当だったようだ。
これがランキング3位ってことか。
「昨日の試合はみんな観たり、その話を聞いたりしているはずだから、勝負を挑まれるってことはないと思うけど、あまり素の状態で下手なことはしないほうがいいわよ。でないと条件付きっていうことがばれちゃうから。なるべく私が近くにいるわ。あとでルミちゃんにも言っておくわね」
クオン、優しいなぁ。
その見た目とは反して。
俺が女だったらそのギャップに惚れてるかもね。
「あら、噂をすれば」
クオンがはっと後ろを向くので俺もそれにつられてそっちを見ると門寺さんがこちらに向かっていた。
そして、俺たち2人の間に入る。
こうして並び立ってみると彼女が小柄なのがよくわかる。
当然、クオンと比べると小さいし男にしては小柄な俺からでも少し見下ろすくらいだ。
その彼女が現在のランキング1位、世界最強なのだから恐ろしいものだと思う。
「さて、今日から新しいチームとしてやっていくわよ」
彼女が先頭に立ち、俺とクオンがそれに1歩下がってついていく。
俺の波乱の生活はまだまだ続く気配がした。




