正式決定
「それで、勝利報酬についてだけど」
「ああ、そうだったね」
一体何を要求されるんだ?
今まで俺が……ラストが門寺さんにした仕打ちはひどいものだったからなぁ。
何を言われても文句は言えない。
そもそもそういう条件だったが。
「じゃあ、これから毎日、私の特訓に付き合って。クオンは相手をしてくれないから」
「特訓に?」
正直拍子抜けした。
もうちょっと過激な内容にしてくるかと思っていたが。
〔いや、割と良くないかもねこれは〕
一方ラストは俺とは反対の印象を受けたようだ。
〔考えてみてよ。相手が必要な特訓ってことは、今日みたいな対戦形式の練習とかをしたいってことだよ〕
確かに対戦系のスポーツは筋トレなどの基礎を磨く必要もあるが、最終的に一番重要なのは経験である。
ましてや対戦系のスポーツなどではなく、本物の実戦の技術を磨くためにはそれはさらに重要になるだろう。
〔しかも、毎日ってことは僕らをここに拘束しておくってことだよ〕
つまり、俺たちが勝利報酬としていた、ここからの脱出からは一番遠い。
確かに良くないなこれは。
「あらルミちゃん、そんなので大丈夫なの?」
クオンも俺と同じことを思ったようだ。
「まぁね。ここまで私と戦える人材を放っておくのはもったいないから。ふあぁ…」
ここで門寺さんが大きなあくびをした。
「私、もう休むわ。じゃあまた明日」
「ええ、また明日」
「う、うん……」
そうして門寺さんは一足先に会場から出て行った。
「疲れたのね。そりゃ力を制限した状態であれだけ動いていたら無理もないけど」
門寺さんの背中を見送りながらクオンが口を開いた。
確か準備期間は20%の力しか出せないんだったか。
それで門寺さんはランキング2位まで倒している。
疲労もあって当然だろう。
「それなら最初から全開で行けばよかったのに」
「実力は隠すものよ。実際、今までの模擬戦もルミちゃんは決勝戦でグレイ君と当たったときにしか、100%を使っていないわ」
「今回のグレイ戦では使わなかったみたいだけど?」
「決勝戦で使いたいみたいね。なるべく能力を隠しておくために」
「それじゃおかしくない? 今日みたいに倒せばいいんだから」
今日の準決勝で、門寺さんはグレイをくだしている
やはりそこで使えばよかったのではないのだろうか。
「グレイ君との対戦前に言っていたのは、ラスト君に100%の力を見せておきたくなかったらしいわ。それに、今日みたいに無駄に試合が長引いて、結局そっちのほうが疲れちゃうから」
「なるほどね」
〔まぁ、確かにそうか。もしも僕が自分のスピードに見合った動体視力しか持っていなかったら、最初の一撃でやられていただろうね〕
ラストはクオンと会話しながら補足の説明を俺にする。
ラストは並外れた処理能力によって、目に映るものを超スローで見ることができる。
それが門寺さんにとって計算外だったわけか。
「まぁでも、こうして私がルミちゃんの能力について話してもいいって許可が出たってことは、正式にあなたをチームの一員にすることが決定したということね」
「それはありがたいね」
嘘です。
ぜんぜんありがたくありません。
なんで目の前の障害を越えるたびに、目的から遠ざかっていくのか。
でもしょうがないよね、越えなきゃ命が危ない。
会話がひと段落したところで、ラストはなんとなく出入り口のほうを見た。
ちょうどある人物がそこから出ていくところだった。
「ごめんクオン、またあとでね」
ラストはクオンに手を見せて別れをつげ、走って出入り口のほうへ向かった。
やはり決勝まで残っただけあって、皆注目しているのか視線を最初に登校したときよりも感じる。
だがそんなことを気にしている場合ではないらしい。
「ねぇ、ちょっと待ってよ」
ラストはさっきの人物の背中に声をかける。
声をかけられた彼女は恐る恐るといった感じで振り返った。
確か、ラストがやたらと気にしていた少女だ。
「実は君に頼みたいことがあるんだけど……」
ここでラストはしゃべるのをやめてしまう。
〔ああ、これは〕
〔うん、たぶん通じていないね〕
この島での公用語は英語だ。
しかし、すべての人が英語を話せるわけではない。
俺たちもつい最近覚えたばかりである。
今まで都合よく英語が話せる人とばかり出会ってきたが、そうでない人も少なからずいるだろう。
英語を話せないことを俺たちが察したのを気付いたのか、彼女は何か、英語でも日本語でもない言葉を残して去ってしまった。
ごめんなさいとでも言ったのだろうか。
〔あの発音、聞いたことあるな〕
〔たぶん、あの国の言葉だろうね〕
言葉を聞いた時、なんとなく言語の察しはついた。
問題はどう会話するかだな。
〔ところでお前、さっき何をお願いしようと思ったんだよ?〕
〔うん、彼女に弟子入りできないかなと思って〕
〔弟子入り?〕
〔だって彼女、身体能力じゃなくて、磨いた技でここにいるんだよ。たぶんそんな人はほかにいないと思うから、その分野に関しては彼女が世界で最も優れているということだ。そんな彼女から教えを受けられたら、もっと強くなれるとは思わない?〕
それは間違いなく、なるだろう。
だが問題はそこじゃない。
〔俺はそこまでして強くなろうとは思わないんだが〕
〔でも今回、僕より強い人がいるっていうのは分かったよね〕
〔ああ、そうだな〕
現状2人しかいないけど。
〔これから先、もしかしたらもっと増えるかもしれない。そしてその人は敵かもしれないんだよ?〕
まぁ、それも一理ある。
〔そもそもなんで俺が戦う前提なんだよ。門寺さんやクオンがいるだろ?〕
俺はただ平穏に今までのように平穏に暮らしたいだけだ。
戦いなどしなくてもそんなものは簡単に手に入る。
〔いやいや、自分の平穏は自分でつかみ取らないと。たとえ今の状態で日本に戻っても、たぶん普通の生活はできないよ? 思い出してみてよ、ここに来る直前までの出来事を〕
ここに来る前、俺はしつこいくらいに喧嘩を売られ、それをラストがすべて処理していた。
そのせいで俺はさらに目をつけられていき、最終的にここに来ることになったのである。
〔いや、それってお前のせいじゃん〕
それもそうなんだけど、とラストは笑い声を漏らす。
〔でも君がもっと強ければ、あんな奴ら相手に僕の力が必要なくなるんだよ? そうすれば僕としても安心できるし、君にとっても悪くない話だと思うけど?〕
なんというか、自分が事態を悪化させているのに気付いているのに、俺が弱いのが悪いっていう話になってない?
とはいえ、ラストが言っていることは間違ってはいない。
ラストのせいで不都合が起こるなら、俺がどうにかしないといけないのだ、本来は。
ラストは俺の一部なのだから。
〔僕はここで生き抜くために強くならないといけないし、君は帰ったあと平穏をつかむために強くならないといけない。やっぱり、強さは必要でしょ?〕
〔そうだな。この後はどうするんだ?〕
〔うん、それはもう考えてある。でも、今日は無理そうかな。そろそろ限界っぱい〕
限界?
なんのことだ?
と思ったが、心当たりはすぐに見つかった。
つい最近似たようなことがあったばかりだ。
「ラストく~ん? どこ行ってたの?」
ここでクオンがラストを追って通路まで出てきていた。
「やぁ、クオン。ちょうどいいところに。悪いんだけど、僕を病棟に運んでほしいんだ」
ラストは壁にもたれかかり、そのままへたり込んでしまう。
「どうしたの。気分でも悪いの?」
「じゃあ、よろしく」
クオンに説明する間もなく、意識を失った。




