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模擬戦(決勝2)

〔それにしてもまずいな〕


 仕切り直して早々、ラストがそんなことを言う。


〔ちょっと前にスピードを使うタイプには決定的な弱点があるって言ったの覚えてる?〕


〔ああ、クオンと話していたときか〕


〔あれって、結局今みたいな状況のことを言うんだよ。スピードに特化しているのに、スピードを超えられているというね〕


〔取柄を超えられたわけか。確かにそりゃダメだな〕


〔で、その状況をどうやってひっくり返すかっていう話なんだけど〕


〔そもそもひっくり返せるのかよ〕


 どうもさっきの流れだとそんなことができるようには思えないんだが。


〔幸い、僕はなんでもできるというのが取り柄だからね。この頭を使って〕


 自分で言いやがったとか思ったが、実際に英語を瞬時に修得できたのはこいつのおかげである。

 

〔具体的にどうするんだ? その頭を使って?〕


〔やってることは変わらないんだけど、やっぱり先読みだね。それもさっきよりももっと先を見通す〕


〔そんなことができるんならさっさと―――って来たぞ!!〕


 俺たちがの脳内会話を繰り広げている間に、門寺さんは攻めてきた。

 再開する、って言ったんだからそりゃ来るだろうけど。

 

〔そう簡単にできることじゃないんだよ、これは〕


 ラストは迫ってくる門寺さんに焦点を合わせ、集中力を高める。

 するとまた見える世界がゆっくりになった。


 さっきラストは相手が攻撃の姿勢をとってから先読みを始めていたが、今回はもっと早い段階、ただ走っているだけの状態から先読みを始めた。

 歩幅や加速具合から、とることができない行動を選択肢から消去していく。

 

 正面からの突き。

 狙いは腹。


 門寺さんが攻撃のため少しだけ腕を持ち上げた時点でラストは攻撃の種類を見極めた。

 ここで二人の距離は5メートルほど。

 すでにラストは門寺さんの視線からどの部位に攻撃してくるかまで読んでいた。


 だが、そんな未来予知にも等しい先読みの代償は大きい。

 現在身体を操作していない俺でさえも頭痛がする。

 脳をフル回転で使っているからだ。

 ラストも俺と会話する余裕すらない。

 

 つまり、この先読みは何回もすることはできない。

 ラストがここまでの先読みをしなかった理由がこれだ。

 そしてそれをしたということは勝機がラストには見えているということだ。

 いや、実際にはこれしか見えていない。

 つまりは賭けだ。


 ラストの読み通り、門寺さんは右腕で拳をつくって俺の腹をねらってきた。

 ここで防御や回避をするなら、今まで通り。

 さっきよりも先を見通した意味がない。

 ラストがこれをした理由はただひとつ。


 絶対に回避できないカウンターを考えるためだ!


 ラストはギリギリのタイミングでその攻撃を避け、その突き出された右の二の腕を軽く拳で叩いた。

 本来なら、門寺さんはその右腕を薙ぎ払って攻撃することもできただろう。

 しかし、その攻撃は来なかった。


 一瞬の交錯の後、二人はまた距離を取り静止する。

 門寺さんは右腕をだらんと垂れ下げていた。

 歯ぎしりしていかにも悔しそうな顔をこちらに向けていた。


〔ふぅ、何とか成功したかな〕


〔あんな感じなんだな。もっと手の込んだものかと思っていたが〕


〔まぁ、戦闘に組み込めるのはあんなものだよ。だから5分くらいしか効力がないかな。今回はそれで十分だけど〕


 これで圧倒的な劣勢はなくなった。

 反撃できることが証明された上に、門寺さんは右腕を封じられたからだ。


〔それにしても案外すんなりと決まったな。あんな速度を持っているなら、避けられそうなものだけど〕


〔ああ、ちゃんとそのあたりも読み通りだったよ〕


 ラストが言うには、門寺さんは動きの速度の割に反応速度があまり早くないらしい。

 少なくともラストほどは見えていない。

 そこに反撃のチャンスを見出したというわけだ。


 これでお互いに攻撃しづらくなった……はずだった。

 門寺さんが静止していたのはほんの少しの時間だけ。

 またまっすぐこちらへ突っ込んできた!


〔また、真っすぐ来るか。面白い!〕


 ラストもまた同じように選択肢を絞っていく。


 同じく腹への突き。

 今度は左腕で。


 今度も門寺さんが腕を動かしたところで結果が出る。

 次は左方向に避けてさっきと同じように左腕の自由を奪いにいく。


 だがここで、ラストの計算が狂った。

 腕が明らかに腹を狙う軌道ではない。


〔フェイントか? でも視線で攻撃を読んでいる以上、それには騙されない〕


 ラストは予定を変えず、左方向へステップ。

 

 しかしその瞬間、門寺さんはニヤリと口角を上げた。

 そして、その左腕は薙ぎ払いへ変更される。

 

〔まさか、誘導された!? たった一手で僕がどうやって攻撃の先読みをしたのか分かったのか!?〕


 もうこのタイミングでは回避ができない。

 攻撃のために前に構えていた腕を急遽防御のために正面でクロスさせる。

 

〔これはまずい!!〕


 ラストが嫌そうに叫ぶが、もうこの手しか残されていない。

 門寺さんの攻撃の衝撃が腕に伝わってくる。

 その瞬間、クロスしていた腕の上のほう、つまり右腕からゴリゴリッ、と嫌な音がする。


〔いっっってぇーーーー!!!〕

〔痛ーーーーーーーーー!!!〕


 今まで感じたことのない痛みで両方とも苦悶の叫びを上げる。

 

 痛みで頭がくらっとする中で何とかラストは攻撃を受け止め、フィールド内に着地することに成功する。

 しかし、その攻撃を受けた右腕は痛みでほとんど動かせなくなっていた。

 

〔痛い……いったい何をされたんだ?〕


〔感覚的にはあれだね、うまく入ったってやつ〕


 二の腕を叩いたときに痛いところにちょうど当たるやつか。

 

〔一回目の攻撃でそんなにうまくいくなんてどんな強運だよ〕


〔いや、もしかしたら……意図されたものかも〕


〔はぁ? そんなこと可能なのかよ?〕


〔だって、うまく入るのは筋肉の薄いところに当たるからでしょ? もしも彼女が人間の筋肉の位置を正確に把握できていたら〕


〔狙えるってわけか……〕


〔それにしても、こんな技があったなんてね。これじゃ僕の技の上位互換じゃないか〕


 確かに、ラストは神経を刺激して一定時間痺れさせる。

 対して門寺さんの技は痛みで動けなくさせる技だ。

 神経に働きかけることは一緒だが、痛みというのはそれだけで体力や精神力をすり減らす。

 かなり性質のわるい技だ。


 そういえば門寺さんとクレイとの対戦、最後の一手の前、ガードできそうなタイミングでグレイはしなかった。

 まさかあの時に、同じことを起こしていたのか?

 それなら納得がいく。


 ちなみに今は着地直後である。

 本来なら、門寺さんの着地狙いを警戒すべきなのだが、その必要はなかった。

 彼女が動かないのである。


 ラストはそれを不審に思って集中力を高めるが、本当に何もする気配がない。

 どういうつもりだ。


 さらに気味が悪いのは、余裕の笑みを浮かべているのだ。 

 まるでもう勝ったかのように。


 そして、門寺さんが動きの気配を見せたとき、ラストは何かを察した。


〔なるほどね……ほんとうにやってくれるな〕


 門寺さんはただ単に歩いていた。

 こちらに向かって。 

 迷いなく、笑みを浮かべたまま迫ってくる。

 どういうことだ?


〔動きが早いのは彼女、動きがよく視えているのはこっち。じゃあどうするかっていう話だよね〕


 俺が理解に苦しんでいると、ラストがヒントをくれる。


 それなら、相手より視えていないというディスアドバンテージをなるべく小さく……

 歩み寄ってくるということを踏まえると、つまり!?


〔なるほどな。確かに合理的だけど、よく考え付くよなぁ〕


 俺もこれには感心するしかない。


 ラストは門寺さんが歩み寄ってくるのにあわせて下がっていく。

 しかし、すぐにフィールドの端に追い込まれてしまう。


 そして門寺さんはラストの目の前1メートルの位置で立ち止まる。


 これから起こることは非常に簡単だ。

 要はガンマンの早撃ちと同じ。

 どんなにラストの反応速度が速くても、避けられない速度で攻撃すればいいだけのこと。

 

 さっきまでは門寺さんの攻撃の気配から動きを読み、先出しでガードやカウンターをしていた。

 しかしこの距離では攻撃の気配を感じ取ったところから動き始めたのでは間に合わない。

 かと言って、先制攻撃を仕掛けようにも、こちらが攻撃をしようとしたところで門寺さんが攻撃すれば彼女の攻撃のほうが早くこちらに届くだろう。

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