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模擬戦(決勝1)

「やっぱり決勝まで残ったわね」


 フィールド内に立つと、門寺さんが声をかけてきた。


「大事な賭けがあるからね。負けられないさ。そっちこそ、僕の言うことを聞いてくれるんでしょ、なんでも?」


 実際はもうお願いは決めてあるし、それ自体も門寺さんに損があるような内容ではないのだが、少しでも彼女の集中力を乱そうとラストが揺さぶる。

 何というか、卑怯臭いな。

 でも逆に言えばそういう小賢しい真似をしなければならない相手ということか。


〔まぁ、前回は出てきたばっかりで全力ではなかったとはいえ、いくらか攻撃を食らっちゃったからね〕


 たしかにあの時は初めてあざをつくってたんだっけか。

 

「なんでも、ね。それはまぁ、本当にあなたが勝てたらだけど」


 俺はこのとき、少し違和感を抱いた。

 だがそれが何なのかはわからない。

 

 そうこう話している間に、開始まで残り3秒。

 ラストは神経を集中させ始めた。

 そして、瞬きすら自由なタイミングでできないことが予想されるこの戦闘のために、ラストは2秒前に少し長めの瞬きをする。

 

 その目を閉じているとき、暗くなる視界に何か異様なものが映った、気がした。

 次にラストが目を開けたときには何も問題なかった。

 やはり気のせいだったか。

 

 まるで門寺さんの身体が膨らんだように見えたんだが。


 これはラストも同様らしい。

 俺とラスト、どちらも見たのなら真実のように思えるが、俺たちの感覚は共有。

 つまり見間違えるなら2人同時である。


 ラストは門寺さんをよく観察し、最初の動きを見極めようとする。

 それと平行して聴覚を集中し、観客が門寺さんの変化に気付いたか探る。

 しかし、観客たちに特に変わった様子はない。

 やはり気のせいか。


 開始1秒を切った。

 この時点でも門寺さんはどの部位にも力を入れていない。

 これは動く気がないようだ。

 ならば、こちらから動く!


 俺は開始の合図とともに飛び出した。


〔なに!?〕


 予想に反して門寺さんも動き出していた。


〔素振りもなしに動けるのか…って、あれ?〕


 俺たちはさらに驚くことになった。


 速いのだ、明らかに。

 門寺さんの動きが。

 おそらくこちらの倍速、こちらが一歩進む間に彼女は二歩進んでいる。

 かろうじてとらえられる速さではあるが、ラストが想定していたものとは比べ物にならなかった。


〔まったく、みんな予定どおりに動いてくれないんだから!〕


 ラストはイライラした様子で進行速度を緩める。

 このまま全速力で交錯すれば、明らかに門寺さんに分がある。

 ここは防御に徹するという考えだ。


〔まぁ、その防御も難しいんだけどね〕


 自分より早く動くものの攻撃をいなすには先読みしかない。 

 しかし当然、自分より早いもののほうが読みづらい。

 

 ラストは完全に動きを止め、どこから攻撃が来てもいいように腕を前に構える。

 そして門寺さんの視線を意識した瞬間、彼女の意図を感じ取った。


〔すべて分かった上でこれか!〕


 ラストは前に構えていた腕をおろす。

 

 そして門寺さんが目前に迫ったとき、彼女は何度も見たあの構えをしていた。

 前にそれを避けた2人は顎を上げて回避していた。

 

 しかしラストはこの薙ぎ払いを首を引くことで回避した。

 

 だが本番はここからだ。

 さっきのはあいさつみたいなものだろう。

 

 門寺さんはその勢いを殺さず、そのまま一回転。

 回し蹴りを繰り出してきた。

 

 だがラストはこれも読んでいた。

 ラストが首をを引いたのは後ろに飛んでいたからだ。

 顎が上がると飛びづらくなるからな。

 

 ラストはその蹴りもすんでのところで躱した。


 しかしまだ攻撃は終わらない。

 門寺さんはさらに一回転。

 こちらを向いたところで一気に距離を詰めてくる。

 

 ラストは着地と同時に今度は上に思い切り飛ぶ。

 こうすることで門寺さんを自分の下にくぐらせた。


 一方通り抜けてしまった門寺さんは、右足を前に出して摩擦力で減速。

 そのまま反対方向へさらに飛ぶ。


 そしてちょうど、降りてくるラストと、門寺さんが接触するタイミングとなる。

 今ラストは門寺さんに背を向けた状態。

 無防備だ。

 このまま攻撃を食らえば、おそらくビリヤードの玉みたいに門寺さんの攻撃をパワーをすべてもらって、場外どころか壁に叩きつけられる。


 ラストは空中で思い切り体をひねる。

 これにより何とか彼女の攻撃をとらえたラストは、彼女が攻撃のため突き出していた腕に手を添えた。

 そして無理な姿勢からあと少ししかない関節の可動域を総動員して、その腕を押す。

 こうすることによって、攻撃の軌道をそらし、自分の位置もずらす、二重の回避となった。


 こうしてすれ違うような形となった後、お互いに振り返り、向き合う。

 今度はそのまま突っ込んでくることはなかった。


「驚いた。ここまで長い間耐えたのはあなたが初めてよ」


 手数が多くなければ時間も長くなかった。

 しかし、ラストはかなり息を乱している。

 それだけ体力も気力も必要な攻防だった。

 しかし門寺さんのほうは平然としていた。


 体力回復の好機とばかりにラストは門寺さんとの会話に応じる。


「君に余裕があった訳が分かったよ。どうして前は本気を出さなかったの?」


 なるほど、さっきの違和感の正体はこれか。

 前回は彼女が負けたはずなのに、そのような警戒心が感じられなかったんだ。


「出さなかったというより、出せなかったのよ。あなたは割と早くに100%の力が出せるみたいだけど、私は準備期間が必要なの」


「準備期間?」


 確か、ラストも最初は8割くらいの力しか出せないんだったか。

 時間経過とウォーミングアップで100%に到達するんだよな。


「ええ。私が100%の力を出すには、20%の出力に抑えた状態で24時間過ごさないといけないの。それじゃないとせいぜい50%くらいしか出せないわ」


「なるほど、じゃあ僕が相手したのは50%の君だったわけか」


「いえ、昨日は午前中から準備期間に入っていたわよ」


「……」


〔20%!? 昨日相手したときも決して手を抜けない状態だったんだけど〕


 表には出さないが、ラストもこれには相当驚いていた。


〔まぁ、でもあれか。50%だったならもうちょっと余裕のある戦い方ができてるか〕


 こんな風にラストが結論を出すのに時間がかかっているから、混乱具合がうかがえる。


「でも、さっきまでそんなに速くはなかったと思ったんだけど?」


「そりゃそうよ。さっきスイッチ入れたから」


 ……つまり、今までの試合はすべて20%の出力で戦っていたということか。

 ランキング2位のグレイとかも含めて。

 

〔なるほど、ふたつの謎が解けた〕


 さっきの言葉を聞いてラストが何か気付いたようだ。


〔何がだ?〕


〔留美ちゃんとグレイの対戦の時、クオンと彼女が何か話していたでしょ?〕


〔ああ、このままでいくとか言ってたか〕


〔あれ、戦法、、つまり最初の一手のことだと思っていたんだけど〕


〔そうじゃないのか?〕


〔たぶん、本気を出すかどうかの話をしていたんだろうね。ランキング2位相手に本気を出さないという判断ができるあたり、彼女の恐ろしさを感じるね〕


 確かに恐ろしい話だ。

 あれ、待てよ……


〔それって、クオンが門寺さんの能力をちゃんと把握してたってことか?〕


〔まぁ、チームメイトだしね。事実僕らにも教えてくれたし。クオンはどうやら頭のいい人みたいだから、参謀的な役割も果たしているのかもね〕


〔確かにな。それで、2つ目は?〕


〔試合直前に彼女の体が大きくなったように見えたでしょ? あれたぶん見間違いじゃない〕


〔それどういう原理だよ〕


〔スイッチを入れたときに全身の筋肉が膨張したんだろうね。ほかの人が気づかなかいくらい一瞬だけどね。僕もできるよ、やってみようか? 美しくないけど〕


〔いや、遠慮しとく。自分のそんな姿は見たくない〕


「私の能力も教えてあげたし、そろそろ再開するわよ」


 残念ながら、休憩はここで終わりらしい。


〔さて、結局能力がわかっても何も対策できないことが分かったけど、死なない位程度に頑張ってみようか〕


 ラストはそう宣言して、また目の前の強敵に集中した。

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