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模擬戦(準決勝5)

 やっとラストの攻撃がクオンに直撃した、が。

 しかしクオンはどうにか腕でガードしていた。

 でもそんなことでは当然相殺できるわけ……


 !?


 手ごたえが明らかに小さい。

 まさかうまくやり過ごした!?


 しかし、クオンのほうをみると戸惑いの表情を浮かべていた。

 つまりクオンが何かしたというわけではないらしい。

 ということは、普通にラストが失敗しやがったのか!?

 この大事な局面で!


 俺も攻撃を受けたクオンでさえ失敗したと思ったが、そうでないと思っている人間が2人いた。

 そのうち1人はラストだった。


〔もらった!〕


 ラストは攻撃した腕を引っ込めて、もう片方の手を横に薙ぎ払う。

 そうか、さっきのはクオンの動揺を誘うフェイント。

 本命はこっちか。

 確かに今までどおり攻撃していたんじゃ攻撃はあたらない。

 これは虚を突いた良い作戦だ。

 しかも横に薙ぎ払うことで完全に退路を断った。

 しかし、この程度の動揺なら……


 クオンは反応が遅れたものの、ラストの攻撃を完全に補足した。

 

 このままではガードされる!

 

 作戦は失敗したと諦めかけたとき、クオンの表情にもう一度動揺が走った。

 そのせいでクオンの動きは再び停止する。

 そしてラストの攻撃は完全に避けられない距離に迫る。


 この状況、どこかで?


 そしてこの攻撃によって勝利となった。


「なんで……」


 ラストは試合終了と同時につぶやく。

 これは俺も驚くしかない。


 試合には勝った。

 しかし、それはラストの攻撃が当たったからではない。

 ラストの攻撃を後ろに回避したクオンが場外に出てしまったためだ。

 問題は、さっきの攻撃は絶対に避けられないはずだったことだ。


「参ったわ、せめて引き分けにしてやろうと思っていたのに。まさかそんな技を使うなんて」


 そんな俺たちの混乱に気づいているのかいないのか、クオンは話しかけてくる。


「よく言うよ。結局その1発しか当てさせてくれなかったのに」


「あら、私の攻撃は1発も当たらなかったわよ?」


「そうだっけ?」


 ラストは苦笑いをすることしかできない。


「そうよ。それにしても、本当にラスト君強いのね。次はルミちゃんと決勝戦よ。がんばってね」


 そう言い残して、クオンは去っていった。


 ここで休憩をはさむことが告げれらた。

 さすがに連戦しないか。


〔そういえばクオンが気になることを言ってたが、何のことだ?〕


〔あの技のこと?〕


〔それだ。俺にはお前が技というほど大げさなことをしたようには見えなかったんだが〕


〔まぁ、あれは技をした本人と受けた側にしかわからない細工みたいなものだからね〕


〔細工?〕


〔うん。あれは相手の神経を刺激して、少しの時間だけその部位の自由を奪う技なんだ〕


 それを聞いて思い出すのはさっきのクオンとの戦い、クオンが2回目の動揺を見せたとき。

 つまりあれは腕を動かそうとしたら動かなかったから、戸惑ってしまったのか。

 あの不発に見えた攻撃は仕込みだったというわけか。


〔まぁ、観客の中に一人だけその仕込みに気づいた人がいたけどね〕

 

 ラストはまた意味深なことを言ってくる。

 だが、


〔門寺さん、だな?〕


〔ご名答〕


 言われてみればこの技の症状、見たことがある。

 門寺さんと2回目の……事故があったときだ。

 確かあの時、門寺さんは体の自由がきかない状態に陥っていなかったか。


 でも今回のクオンに仕掛けたものよりもかなり効力が強かったような?


〔それは今回は戦闘中だったから、弱いのしか打ち込む余裕がなかったんだよ〕


〔でも門寺さんとも戦闘したんだろ?〕


〔そうだよ。それで、ちょっと弱ったところにダメ押しで強めのを〕


〔お前本当に最低だな〕 


 あと、大事なことがもうひとつ。

 クオンが2回目の動揺を見せて攻撃が決まりそうになったとき、俺は何かを思い出しかけた。

 何かがつながりそうな気がするんだが。


〔ちなみに僕はわかったよ。確信がないから教えられないけど〕


〔何だよ、教えろよ。どうせ言いふらすわけでもないんだから〕


 というか、今はラストが表に出ているからどうにもならないしな。


〔まぁまぁ。これも君が今後僕なしで生き抜くために必要な能力だと思って。ヒントは『すぐに分かる』かな〕


〔それって、もうじきヒントが分かるってことじゃなくて、答えがすぐに分かるってことだよな?〕


〔そうだよ。だからそんなに悩まなくてもいいと思うけどね。それより僕が気になるのは……〕


 ラストはさっきまでクオンと戦っていたフィールドに視線を落とす。

 木製の床が1箇所、黒く変色していた。


〔なんだこれ? こんなのさっきまであったか?〕


〔さぁ? なかったような気がするけど〕


 ラストがしゃがみこんで、その部分を触ってみる。


〔焦げてるね〕


〔焦げてる? 誰も火なんか使ってないのにか?〕


〔……〕


 俺の言葉に対して反応はなかった。

 なにやら考え込んでいるようだ。


「まさか……いや、でもそうだとしたら……」


〔何を独り言言ってんだ?〕


「つまり…………ふふ、フハハハ!」


 ついには笑い始めた。

 ラストはもうこちらに送る情報を完全に操作できるようになったようなので、何がそんなにおかしいのかわからない。


〔おい!〕


〔ああ、ごめんごめん〕


 俺がとうとう怒気を含んで呼びかけると、やっと返事が返ってくる。


〔ちょっと面白くてね。いや、違う意味では面白くないのか〕


〔どういうことだ?〕


〔初めてだったよ。手を抜かれたのは〕






 ラストが言うには、クオンはたった2回、それもほんの一瞬しか本気を出さなかったらしい。


〔当たると思った攻撃がよけられた2回だね。瞬間移動をしたかのようだったから、何か特殊な技でも使ったのかと疑ったけど、単純な話だったよ。ただ、僕が捉えられない速さで動いただけなんだから〕


〔じゃあこの焼け焦げた跡は?〕


〔摩擦熱だね。少しえぐれているし。超高速で移動したんだから、このくらいの跡はできるだろうね〕


〔なんでクオンはこんな面倒なことを?〕


〔知らないよ。本人に聞けばいいんじゃない? まぁルミちゃん曰く、自分のことについてはなにも話さないらしいから、教えてくれないと思うけど〕


 しかし、クオンが本気でなかったとすると、このランキングはあまり信用ならなくなってくるな。


〔その辺はあまり心配ないと思うけどね。試合を一通り見たけど、偽装している人はいなさそうだったし〕


〔でもクオンはしてたじゃん〕


〔あれは……クオンの偽装が完璧だったとしか言いようがないね。あの2か所以外は動きの速さは完全に固定されていたし、本気を出したのもほんのマバタキをするような間だったから。だからどんなに勘がよくても、実際に戦ってみなきゃまず気づかないはずだよ〕


〔でもそれっておかしくないか?〕


〔なんで?〕


〔だっているだろ? 勘がよさそうな人がここに〕


〔ルミちゃんだね?〕


〔ああ〕


 さっきも同じようなやり取りしたな。

 質問者と回答者が逆だけど。


〔たぶんだけど、クオンがルミちゃんとチームを組んだのは、2人が出会ってすぐじゃないのかな?〕


〔なんで突然チームの話……そうか、組み合わせか!〕


 チームのメンバー同士ではなかなか当たらないようにトーナメントが組まれるから、今まで2人しかいなかったチームは自動的に決勝でしか戦えない。

 でも準決勝あたりでさっきみたいに負けておけば、門寺さんと戦わずに済む。

 クオンの順位が3位なのもその辺が影響しているんだろう。


〔クオンは門寺さんを結構警戒していたということだな。失敗はお前と戦ってしまったことか〕


〔僕が今まで闘おうとしていなかったからね。僕の力を見るつもりで勝ち上がってきたんだろうけど、力を見たのはこちらも同じだったかな〕


〔それで、クオンは門寺さんより強いということか〕


 ここで、休憩時間は終了した。

 とうとう、問題の決勝戦である。

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