模擬戦(準決勝4)
〔さて、仕切り直しだ〕
そう言うとラストは一直線にクオンの方へ突っ込んでいく。
さすがに何も考えなしに突っ込んでいくのは危険じゃないだろうか。
さっきまでじっとしていたラストが突然動き始めたものだから、クオンは身構える。
大丈夫だクオン。
だってこいつ、何も考えてないもん。
クオンは攻撃するか防御するか一瞬考えたのち、攻撃を選択したらしい。
拳がこちらに迫ってくる。
……?
ここで気づいた。
クオンの動きがさっきよりもゆっくりに見える。
これはクオン自身が遅くなったのではないということは、周りを見ればわかる。
〔気付いた? 何も考えないというのはちょっと言いすぎかな。ただ先を読まないというだけさ。攻撃が来たら避けるし、隙があれば突く。目の前で起こっていることだけに集中するということだよ〕
〔さっきよりも集中力が上がって、さらにゆっくりに見えているということか〕
〔そういうこと。そりゃ、先を読むっていうのも有効な手段の一つではあるけど、それが生きてくるのは相手の身体能力が自分を凌駕している時だ。そうでないなら、ちゃんと見てからでも対応できる〕
集中しているのに解説に労力を割いているのはさすがというべきか。
クオンのほうが腕が長いので、突き出された腕は避けなければならない。
ラストはまるですり抜けるように、その腕を小さな動きで避けて通り過ぎ、こちらも拳を突き出した。
クオンはその拳を左半身を後ろに下げることでこれをやり過ごす。
結局攻撃はどちらも当たらず、ラストがクオンの左を通り抜けただけとなった。
二人の位置が反転し、ラストは右足で急ブレーキをかける。
さらにその足を軸にして反時計回りに回転。
左腕を後ろに向かって薙ぎ払う。
その先には当然クオンがいる。
クオンはその急な切り返しにも反応し、上体をラストから遠ざけることでこれを回避。
さらに上体を戻すついでに右腕に力をこめてこちらに向けてくる。
ラストは薙ぎ払いが回避された後、その力を使って重心を左に移動。
今度は右腕で拳を作った。
これがどうなるかというと、至近距離での衝突である。
二人の攻撃は距離が近いあまり不発となった。
しかし、クオンよりも射程の短いラストはクオンよりは有利な状況にある。
クオンの攻撃はラストの真横を通り過ぎただけだが、ラストはクオンの懐に飛び込んだ状態である。
ラストは攻撃が不発になると認識した瞬間、作っていた拳を広げる。
それを自分の頭の前に持っていき、クオンの胸に手を添える。
〔これだけ密着した状態だと、殴打の攻撃力は小さくなってしまうからね。でもこれなら――〕
ラストは一気にその手に力を込め、押す。
一体俺の身体のどこにそんな力があるのか知らないが、あの巨体のクオンが宙に浮いて飛んでいった。
もしかしたら場外に出るかと思ったが、場所が悪かった。
二人がフィールドの端にいるときにラストが突っ込んでいき、場所を反転、そこからクオンを吹き飛ばした。
つまり、ラストはクオンをフィールドの端から中央へ向かって吹き飛ばしたことになる。
それでもクオンが何とか着地し、静止したときには反対側の端まで到達していた。
しかも手を使って摩擦を増やし、ギリギリ止まったという感じだ。
中央付近から同じことをやっていたら、違う結果になっていただろう。
このクオンが空中に滞在し、しかも両手両足を地面につけた状態で着地しなければならないという状況を、ラストは見逃さなかった。
その飛んで行ったクオンを全力疾走で追いかける。
追いついたのはクオンが地面で静止したと同時。
その時にはラストはサッカーボールを蹴るかのようなフォームに入っていた。
しかしクオンはこれにすら対応してきた。
ラストが蹴り上げる直前に、その足首をつかみ力を柔軟に受け取る。
蹴り上げる力はそのまま立ち上がる力に変換され、ほぼ飛び上がるような形でクオンは高速で起き上がった。
さらにその力を消すことなく、そのまま腕を持ち上げることで今度はラストが宙に浮く。
ラストはすぐに自分の足をつかんでいる手首を狙って、反対の足を蹴り上げる。
クオンはとっさに足首を離した。
その蹴りは空振りになってしまったが、その力を使って宙返り。
クオンと対面する形となる。
しかしまだ空中。
今度はクオンがそれを見逃さない。
宙返りを終えてクオンをとらえたときには、クオンはこちらに向かってタックルを仕掛けていた。
ラストはクオンが自分に接触するより先に、クオンの方に向かって手を伸ばす。
そして、クオンの肩に触れた瞬間に力を込めて、その腕を支えに再上昇。
ちょうど跳び箱を越えるようにやり過ごした。
最後にクオンから手を放す直前に手首を回転させ、空中で横方向に半回転。
クオンから目をそらさないようにする。
クオンもこれに対してさっき俺がやったように急ブレーキもできたのかもしれないが、それをせずフィールド中央部まで走った後、旋回してこちらを向く。
「やるわねラスト君。でもその戦い方はちょっともったいないんじゃない? せっかく未来予知にも近い洞察力を持っているんだから、ちゃんと使わないと」
「そうは言いながら僕の動きについてきているクオンに言われたくないよ。それに、僕よりも未来予知をしている人がここに立っていたよ」
ここでまた、一旦休戦。
〔それにしても見積もり誤ったかな。確かに身体能力では僕のほうが上なんだけど、クオンは持ち前の動体視力で僕よりも早く動き始めているんだよね。だから割と互角の戦いになってる〕
〔クオンの言うようにやっぱり先読みしながら戦ったほうがいいんじゃないか?〕
〔なんだか思うように動かされているみたいで嫌なんだけどね。そうするしかないみたいだ。本当は決勝戦まで力を温存しておきたかったんだけど〕
俺は戦っているところを見たわけじゃないからどれほどのものだったかは知らないが、門寺さんは今までで唯一ラストを負傷させた人物だ。
ラストがその決勝戦に力を取っておきたいと考えるのは自然だろう。
しかし、トーナメントという性質上、ここで負けてしまっては話にならない。
しかもここのルールだと引き分けすら許されない。
〔ちょっと前に本気を出すって言ってなかったか?〕
〔本気だったさ。身体能力的には〕
ラストは今度は頭を使ってクオンの倒し方を考え始める。
まず最初にとどめの差し方を考え、その状態に達するための作戦を組み立てていく。
〔ま、こんなもんか〕
そうは言っても、ラストの先読みはそんなに万能じゃない。
実際はその直前になってみないと相手の動きなんてそんなに選択肢を絞れていない。
最終的にこうなったらいいな、くらいの感覚で考えているのだ。
結構時間がたってしまっているかと思っていたが、実際は1分くらいしか経っていなかったようだ。
しかも考えている時間と戦闘時間が意外と短く、ほとんどがクオンと話している時間だったりする。
残り時間は2分。
〔それだけあれば十分!〕
そう言ってラストはまたさっきと同じように飛び出していく。
そしてさっきと同じようにラストめがけて拳を突き出す。
クオンは当然、さっきと同じようにカウンター。
しかしそれもまたすり抜ける。
ここで、ラストは少しだけ走る速度を落とした。
クオンはまた左半身を下げてやり過ごそうとするが。
ここにきてラストがさっきとは違う動きをする。
そのまま直進するのではなく、少しだけ右方向に進路変更。
そのままクオンに突進する。
さっき速度を落としたのはこれをやりやすくするためである。
クオンはやむなくラストから離れることでそれをやり過ごそうとする。
しかし、ラストはまだ走っている途中だ。
ラストはクオンをしつこく追跡していく。
クオンが左右どちらかに回避しようとすると、その姿勢からラストがそれを察知し、軌道を修正する。
それをクオンが動体視力で察知して、結局後ろに下がるしかない。
これを何度も繰り返すことで、当然クオンはライン際に追い込まれた。
〔これでどうだ!〕
ここで初めて、ラストの拳がクオンに直撃した。




