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模擬戦(準決勝2)

 避けられたということを認識したのはその直後ではない。

 あれはもともと接触させるだけの技だから、さすがにラストの能力をもってしてもわからない。

 すぐにわかるのは対戦している2人だけだ。


 俺たちが攻撃を避けられたと認識したのは技の後、2人とも次のモーションに入ろうとした時だった。

 グレイはカウンター、門寺さんはそれの回避。

 食らえば何もできずに失神してしまうはずだから、カウンターと仕掛けたグレイはつまりあの技を避けたということになる。

 

「あれを避けちゃうのか」


 感嘆をこめて、ラストがつぶやく。


「あら、じゃあラスト君はあれをよけられないの?」


 その言葉を拾ったクオンが質問を投げかけてくる。


「……絶対にとは言わないけど、たぶん避けられる」


 でしょうね、とクオンは満足そうにうなずく。


「正直、避け方がわかっていればそこまで難しくないよ。たった1センチ顎を浮かせればいいんだ。ただし、留美ちゃんが軌道修正できないタイミングでね」


 しかし、そこが大きな問題だ。

 門寺さんがもう修正できないというタイミングは、おそらく接触手前10センチ。

 その間に1センチ動かせばいいと言えば簡単に聞こえるかもしれないが、体の構造上、どうしても首よりも指先のほうがスピードが出しやすい。

 しかも指先のほうはすでにトップスピード。

 首は初速度0だ。

 少なくとも反応速度は門寺さんと同程度でないと回避は難しいだろう。

 これこそ、彼女があの技ひとつで勝ち続けてきた理由である。

 あれを避けられる奴はほかにはいないと思っていたんだけどな。

 

 ここまでがラストの考察である。


 ちなみにラストとクオンが話している間、門寺さんとグレイは激しい攻撃の応酬をしている。

 これはクオンもなっていたことだから、もしかしたら上位ランカー同士の戦いはどうしてもこうなってしまうのかもしれない。

 ただ、この戦闘はクオンのものより一段と速い。

 それでもどちらも攻撃を直撃させられずにいた。

 なんというか、ドラマでやるような殺陣をさらに早送りにして見せられている気分だ。

 おそらくラストの視覚を使っていなければ、俺はひとつひとつの攻撃を全く認識できていないだろう。


 戦況はほぼ互角のようだ。

 2人の違いといえば、グレイは攻撃をすべて回避しているのに対し、門寺さんは少しガードを混ぜていることくらいか。

 つまり、すべてを回避できるぶん、グレイのほうがスピードが上ということになるのか。


〔いや、この場合はそういうわけでもないと思う〕


 俺の考察をラストが遮る。

 

〔なんでだ? グレイは全部攻撃を回避できるのに、門寺さんがガードを混ぜるしかないということはそういうことだろう?〕


〔それはガードをさせられているという発想からくるものでしょ? もし、ちゃんとガードすればノーダメージに抑えられるとしても君は攻撃を回避するかい?〕


〔……それならするかもしれないな。でも可能なのか? 例にもれずあの拳の攻撃力はとんでもないと思うぞ〕


〔コーキ。君はここが常識の通用しない世界だということをもう忘れたのかい? 目の前の光景をどう説明する?〕


 目の前の光景と言えば、門寺さんがグレイの攻撃をガードしている。

 それも涼しい顔で。

 

〔うん、納得した〕


〔それはよかった〕


〔つまりはグレイは全部回避して、門寺さんがガードもしているのは戦闘スタイルの違いがあるだけということか?〕


〔実はそうとも限らないんだよね〕


 せっかく結論が出たと思ったのに、それもまた否定されてしまった。


〔どういうことだよ〕


 ちょっとこれにはイラッとしてしまう。

 

〔戦闘スタイルの違いだけではなさそうということだよ。君は最初、門寺さんがガードせざるを得ないと考えていたけど、逆の可能性は考えられないかな?〕


〔逆?〕


〔うん。つまり、グレイが全部回避せざるを得ない状況に追い込まれているということだよ〕


 そうか。

 確かに言われてみれば、あの手数だとおそらく全部回避することのほうが困難。

 その困難な選択をするということは、その手しか残されていないということになる。


〔優勢なのは門寺さんのほうだということか〕


〔そういうこと〕


 試合が始まって2分経っても激しい応酬はまだ続いていた。

 あれを休みなくやれるとはどちらもとんでもないスタミナである。


 しかし、この拮抗はすぐに崩れた。 

 グレイが後ろに大きく飛んで距離を取ったのである。

 

 グレイは呼吸を乱し、肩を揺らしている状態。

 それに対して門寺さんは大きく息をしているものの、決して早くはない。

 ここにきてやっと明確な優劣が付き始めたな。


 攻撃の対処法の違いでスタミナ消費に差が出たからか。

 それとも元々のスタミナ量の差か。

 まぁ、攻撃を受け止めるのにどれだけの労力を要するのかはわからないが。


 この距離を取ったのは本当に一時的なもので、門寺さんが大きく前に飛んで接近。

 また応酬が始まった。


 しかし今度は拮抗しているとは言いにくい状態。

 徐々に門寺さんがグレイを圧倒し始めた。

 グレイは何度か門寺さんの攻撃をすんでのところで避けていたが、とうとう一発ガードしなければならなくなった。

 

 今までガードをしたがらなかったということは、あまり上手くないのかもと思っていたがそうでもなかった。

 胸の前で腕をクロスして構え、門寺さんの拳が腕に触れた瞬間から後ろに下がる。

 そうやって攻撃の相対速度を落とし、衝撃を軽減していた。

 

 だがまだ、門寺さんの攻撃は続く。

 反対の手で拳を作り、もう迫ってきている。

 狙う場所はそのガードの少し下、腹のあたり。

 そこならガードの位置をずらすだけで再び受け止められる、と思ったのだが。

 グレイはガードしなかった。

 

 見事に攻撃は直撃し、グレイはその場に倒れこんだ。

 審判が様子を確認して、門寺さんの勝利を宣告した。

 

 試合が終わり、グレイが担架で運ばれていくのを眺めていると、ラストが何やら考えている様子を見せる。

 いろんな思考が渦巻いていて内容はよくわからない。

 

〔どうしたんだ?〕


〔いや、気になることが2つほどあってね〕


〔ガードしなかったことと、なんだよ?〕


〔それはわかったんだね〕


〔さすがにな〕


 このひとつはラストでなくともわかる。

 あんな位置ならここにいる戦闘員誰でもできたはずだ。

 いくら疲弊していたとはいえ、さっきまで華麗な回避を見せていたグレイがガードできないとは思えない。


 そしてラストにはもうひとつ気になることがあったらしい。


〔もうひとつのほうは僕にもよくわからないんだよね。なにかおかしいと感じたけど、どこでそう感じたのかわからないんだ〕


〔そうか? 何かおかしなことが起きたようには見えなかったけどな〕


〔何かおかしなことが起きたなら、僕ももう少しわかりそうなものなんだけど……〕


「ラスト君」


 ここで声をかけられた。

 クオンだ。


「どうしたんだい、クオン?」


「どうしたんだい、じゃないわよ。準備して。私たちの試合が始まるわよ」


「そうだったね」


 ラストはクオンと一緒に軽くウォームアップをする。


「それで、どうだった? 2人の戦いは」


「すごかったね。まるで打ち合わせしたかのような応酬だったけど。あれを長時間やっても息が切れない留美ちゃんのスタミナには恐れ入ったよ」


〔正直、あれを僕もやれと言われたら、実現できるかは微妙なところなんだよね〕


 俺にだけそういうことを教えてくれる。

 スタミナでは門寺さんに勝てないかもしれないということか。


「あの子の肉体は努力の賜物なのよ。ルミちゃんが上限無視タイプっていうのは知っているかしら?」


「うん、人から聞いた」


「この上限無視っていうのはいわば火事場の馬鹿力のわけだけど、ルミちゃんはそれを意図的に発現できるのよ」


 まぁ、そこまでは俺もそうだからなんとなくわかる。

 俺の発動条件は少々受動的ではあるが。


「ルミちゃんはこれを何度も繰り返すことによって、肉体がそれに適応してきたの。だから今、あの子の筋肉の大部分は瞬発力と持久力という相反するはずの2つの要素を持った規格外のものよ」


 なるほど、よくわからないがなんかすごそうだな。

 

 この話をラストは熱心に聞いていた。

 いつものことだが、より一層機嫌もよくなったような気がする。

 いったい何を考えているのやら。


「いいの? そんなこと教えちゃって」


「どうせ、わかったって対策できないでしょ」


「そりゃそうだ」

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