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模擬戦(準決勝1)

「どうせ言ってなかったんでしょ? クオンがランキング3位だってこと」


 3位!!

 俺は驚愕と同時に納得する。

 なるほど、強いわけだ。

 つまりあれか。

 門寺さん、大剣使いの戦闘員ときて、クオンが並ぶわけか。

 

「やっぱり見かけだけじゃなかったんだ。ところで1位と3位が同じチームになっても大丈夫だったの?」


 ラストも俺と同じ感じか。

 驚くと同時に得心している。


「今のところトーナメントの組み合わせと自主練くらいにしか使わないから。それならむしろ順位が近いほうがいいでしょ。まぁ、クオンはあまり訓練に付き合ってくれないんだけど」


 自主練の『練』が練習ではなく訓練なのに引っかかったのは俺だけだろうか。


「それなら、僕がこれだけ勝ち上がっても問題ないわけだ」


「そういうことね。たとえバランスをとらないといけないとしても、あなたは新人だから文句はしばらく言われないでしょ」


「たしかにね」


「あら、何の話?」


 ここでクオンが帰ってきた。

 汗を拭いているクオンからものすごい熱を感じる。

 さほど近くにいるわけではない俺にまで伝わるくらい。

 あの運動量だもんな。


「このチームについての話だよ。そういえば、クオンと留美ちゃんはそういう経緯でチームを組んだの?」


 この質問を投げかけた瞬間、門寺さんが反応した。

 それを見てクオンは少し困ったような顔をする。


「あれ? 何かまずい質問だった?」


「いいえ。聞いても面白くない話よ。私こんなだから孤立しちゃってね。そんなときルミちゃんがチームに誘ってくれたの。それだけ」


 ふーん、と適当に返事をしながら門寺さんのほうに視線を移すと、目を見開いてクオンのほうを見つめていた。


〔ああ、そういうことか〕


 ラストが何やら得心していた。

 こういう種明かしみたいなとき、ラストは俺に思考を読まれないようにしてくる。

 だから何を理解したのかは聞いてみないとわからない。


〔何のことだ?〕


〔あの人当たりのいいクオンが孤立するなんて考えにくいと思わないかい?〕


〔ああ、確かに引っかかるものがあったけど、そこまでおかしくなかっただろ?〕


〔僕も門寺さんがいなければ気づかないところだったよ。クオンはかなり演技が上手だね〕


〔そういう雰囲気はあるよな。なんだかミステリアスな感じが。それで、何が『そういうこと』だったんだよ?〕


〔逆なんだよ。たぶん。孤立していたのは門寺さんのほうなんだ。彼女はあまりたくさん友達をたくさん作るタイプじゃなさそうだし、何よりランキング1位ともなると周りは敵ばかりだ〕


 確かにランキングが高くないメンバーたちは上位ランカー討伐のために共闘なんかもあり得るかもしれない。

 そういう意味では上位ランカーは孤立しやすいかもな。


〔で、それに気づいたクオンが留美ちゃんをチームに誘ったというわけ〕


〔そっちのほうが腑に落ちるな、確かに〕


 門寺さんに失礼ではあるが。


〔まぁ、クオンがいい人だっていうだけの話なんだけどね〕


 このあとラストはクオンにさっきの試合の感想を述べていると、すぐに順番が近づいてきた。

 軽くウォームアップした後、まるで遊びに行くかのような調子で試合に向かった。


 前の試合での宣言通り、ラストはあの技を使って相手を一瞬でノックアウト。

 今回は最初から本気ということで、ラストから動いていたが。

 ちゃんと隠ぺいのために、相手の脇を通り抜けながら技を放っていた。

 ギャラリーからはただ通り抜けただけにしか見えないように。


 これで3回戦は終了し、残りの人数は8人。

 4回戦も3人ともさっきと同じような勝ち方をして、とうとう残り人数は4人になった。

 勝ち上がったのは、ランキング2位の大剣使い、ランキング1位の門寺さん、ランキング3位のクオン、そして新人のラスト。

 前者3人までは順当といったところか。

 クオンの予想が今のところ当たっているな。


 ラストが4回戦が終わって帰っていくと、クオンと門寺さんが話をしていた。

 雰囲気的に周りに聞かせる気はなさそうな感じだな。


「……じゃあ、今まで通りでいくのね」


「ええ。たぶん、それでも勝てると思う」


 聞こえてくる内容からすると、戦法についての話か。

 

「何の話してるの?」


 ラストは2人の話に割り込む。


「ただの作戦会議よ。ラスト君も私たちの対戦相手になるんだから、詳細は教えてあげないけど」


 やっぱりそうか。

 クオンがラストに勝てば、そこの2人が敵同士になると思うんだけどな。


「じゃあ、2人がどんな作戦でくるのか楽しみにさせてもらうよ」


「ラスト君が考えているほど戦略らしい戦略じゃないわよ。とくにラスト君みたいなタイプは対策できないのよ」


「僕みたいなタイプって?」


「スピードに特化したタイプのことよ。捕まらなきゃ何もできないでしょ?」


 確かに攻撃が届かなければ絶対に倒されないよな。


「いや、実はそれにはひとつ決定的な弱点があるんだよ。教えないけどね」


 そうなのか。

 俺にはあまり思いつかないが。

 防御力とかか?


 ラストはまた思考を遮断して教えてくれない。

 俺にくらい教えてくれてもいいじゃないか。


「残念ね。あら、そろそろルミちゃんの出番よ」


 さすがにここまでくると試合の間隔が短くなってしまっているので、休憩時間が設けられている。

 とは言ってもそこまで長くないから、このようにすぐ準備しなければならないが。


「そう。じゃあ、行ってくる」


 門寺さんは緊張する様子もなく、試合に向かっていった。

 ランキング2位との試合だから厳しいものになると思うのだが。

 彼女が緊張しない性質なのか、実は余裕の試合なのか。

 あるいは……


「この試合がクオンが注目している試合だったよね」


 ラストは試合の準備をする2人を遠くで見ながら、クオンに話しかける。


「そうね。まぁ、準決勝ともなればみんな注目しているけど」


 周囲を見回してみると確かにみんな試合に目を向けているな。

 みんな試合が終わったからか。

 試合が残っているのはいま準備している2人と、ここにいる2人だもんな。


 こうして周りを確認していると、急に全員の表情が引き締まった。

 何事かとラストも試合準備中の2人を確認する。

 同時に俺もラストもほかの全員と同じような表情になったことだろう。


 その場に漂うのはただならぬ雰囲気。

 なんだか室温が下がったかのような気さえする。

 そんなものを向けられたことはないからわからないが、殺気とはこういうものかもしれない。

 発生源はランキング2位のほうだ。


「グレイ君はいつも通りね」


 クオンが平然とそんな感想を述べる。

 あの大剣使いの名前はグレイというらしい。

 いつも通りということは毎回殺意を込めて門寺さんと対峙しているのか。

 

 一方門寺さんのほうは、さっき試合に向かった時と何も変化なし。

 緊張なんて微塵も感じない。

 観客のほうが緊張している。

 なんて温度差。

 

 この状況から察するに、おそらく門寺さんとグレイとの間には決定的な実力の差がある。

 そうでなくとも、おそらく今までの戦歴は門寺さんの全勝だろう。

 これはもしかして、今までと同じように一撃で決着がついてしまうかもしれない。


 試合時間をカウントしているタイマーが開始5秒前を示す。

 カウントダウンしていくにつれて、グレイも観客も緊張感を高めていく。


 そしてそのカウントが0になって、残り試合時間3分を示したとき、門寺さんはフッと音もなく姿を消した。

 移動先はわかる。

 グレイの正面だ。


 ラストが視線を移した時には門寺さんは技を放った瞬間だった。

 観客たちが歓声を上げる。

 ラストも感嘆の声を漏らす。


 この試合で初めて、門寺さんの技がグレイに躱された。

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