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模擬戦(二回戦)

 試合開始と同時に俺たちは驚愕した。

 彼女のほうが突っ込んでいったからだ。

 

 そこまでの時点では、異常性すら隠しているのかもしれないという可能性もあったのだが、そうでもなかった。

 遅かったのだ、動きが。

 これは決して相対的にというわけではない。

 おそらく素の俺よりも遅いだろう。


 そのスピードでは当然よけられた。


 そしてカウンター。

 

 彼女の速度では当然、よけられない。

 そう思ったのだが。


 カウンターの拳が突き出された位置。

 そこにはすでに彼女の腕があった。

 ガードが追いついたのか。


 しかし、防御ができるような攻撃力ではないはずだ。

 防御を貫通して今度こそ勝負が決まる。

 そう思ったが、それすらも覆された。

 

 彼女はその腕で攻撃を正面から受けるのではなく、迫る拳の横に添える。

 それを押すことで、彼女自身が移動する。


 なるほど。

 相手の腕を軸にして動くのか。

 確かにその方法なら、よけられるギリギリのところで移動を止められる。

 全く無駄のない、理想的な回避が実現できるわけだ。


 しかし彼女がすごいのはここからだった。

 相手が攻撃の種類、速度、間隔、どれを変えてもすべてよけてしまうのである。

 そして回避するだけでなく、攻撃も混ぜていた。

 こちらもよけられてしまうのが難点だが。


 この攻防がしばらく続き、決着はつかないかと思われた。

 だが、だんだんと試合が傾いてきた。

 彼女のほうに疲労が見え始めたのである。

 むしろよくここまでスピードもパワーも段違いなのを相手にできていたというべきだろう。

 

 攻撃の手数がだんだんと減っていき、ついには防戦一方となる。

 それに相手も気づいたのか、怒涛のラッシュを仕掛ける。

 この策は当たり、彼女は攻撃をさばききれなくなり、ついには一発直撃した。

 彼女は車にでも轢かれたかと思うくらいに吹き飛ばされ場外で着地した。

 彼女の負けで試合終了である。


 さっきから試合を見ていて気付いたことだが、ラストが彼女の試合をとても興味津々で観戦していた。

 ランキング上位者よりもだ。

 それに興味のほかにも感じ取れる。

 これは……畏怖?


〔なぁ、ラスト。さっきの人は確かにすごいとは思うが、強くはないだろ? なんでそんなに興味があるんだよ?〕


〔そのすごさが桁違いなんだよ。たぶん異常性で言えばこの中で一番だと思う〕


 この中で一番!!

 そこまで言わせるのか。

 確かにラストは相手が誰であろうとも、今まで畏怖なんて感情は抱いていなかった。

 たとえランキング一位の門寺さんでもだ。


〔一体どんなところが異常だっていうんだよ?〕


 彼女からはそんな感じが一切しない。

 確かにこの施設にいながらそれを感じないのはおかしいかもしれないが、そこまでではない。

 

〔見て分かったと思うけど、彼女は身体能力以外のもので戦っているんだ。心技体でいう『技』にあたるかな〕


 確かに彼女のスピードは明らかに劣っていた。

 それなのに身体能力がはるかに優れた相手と渡り合っていたということは何らかの力を持っていたのだろう。


 ラストはさらに続ける。


〔で、それがかなり衝撃だったんだよね。僕の持論では、『体』がベースとなって『技』を磨くものだと思っていたからね〕


〔それってつまりどういうことだ?〕


〔『技』は『体』に比例するんだよ。『体』という器に『技』を積み上げていくというイメージかな。で、僕はこんな感じ〕


 ラストはわかりやすいように頭の中にイメージ図を作ってくれる。

 ラストの場合は強大な器に少しだけ『技』が乗っている。

 

 ほかの戦闘員も器の大きさが違うだけで雰囲気はほとんど一緒らしい。

 

〔ちなみに強さっていうのは器も含めた合計の重量だからね。それで彼女だけは例外で、許容を超えるはずの量の『技』をきれいに積んでいる〕


 今度は彼女の場合のイメージ図。

 ほかの戦闘員が『技』を砂のように山型に積んでいるのに対し、彼女は垂直にビルのように積んでいる。

 とんでもない高さで。


 ラストの勝手な想像とはいえ、俺はそのスケールに圧倒された。


〔総重量ではほかの戦闘員に勝てないとはいえ、彼女が将来器を大きくしたらどうなるのか、僕は恐ろしくてならないよ〕


 なるほど、ラストが彼女に抱いていた畏怖の感情はここから来ているのか。

 でも、どうしてもラストほどの実力者がそこまで怖がる理由がわからない。

 これはただの予想なわけだし、今の実力は知れているしな。

 

〔そんなこともないさ。ああいう技術は見よう見まねで再現できるものじゃない。当然僕にもね。つまり僕が勝っているのは一概に言えないんだ〕


〔でも、再現できなくてもお前は強いだろ?〕


〔いや、大事な技がいくつもあったよ。特に最後〕


 最後?

 確か彼女は終盤には疲れてきて、まともに攻撃すらできていなかったはずだが。


〔彼女、最後に攻撃が直撃して吹き飛んだよね〕


〔ああ。見事に吹き飛んでいたな〕


〔そんな吹き飛び方をしておきながら、彼女は無事に着地したよね〕


 そこではっとした。

 今までの対戦を見ている限り、あんな倒され方をした奴は一人としてこの場で立ち上がれていない。

 それなのに彼女はというと、倒れるどころか痛がる様子も見せず、今も何事もなかったかのようにふるまっているのだ。


 確かに俺も恐ろしくなってきた。

 

〔一体なんで、彼女はそんな風に限界を超えられるようになったんだろうな?〕


〔最大の要因はやっぱり才能だろうね。おそらく、それを見出した優秀な師が長い時間をかけて育てたんだと思う〕


 才能か。

 身体能力だけでなく、そういう方向のものもあるんだな。

 

 その希少な才能を見出されたのはとても幸運なことだと思う。

 

〔へぇ、じゃあ君もここに連れてこられてよかった、っていうことだね〕


 ……まぁ、本人はそう思っていないかもしれないけどね。



 その後二回戦も順調に進んでいた。

 次の注目はクオンの試合だ。

 クオンの二回戦目は相手がシード権持ちだったが、そいつも欠席。

 クオンは戦わずして三回戦進出となった。


 ここまでくると、戦いにおいて運というのはとても重要な事項ではないのかと思い始めた。

 もちろん、関係ないとも思っていたわけではないが。


 そしてまた、俺、というよりラストの順番がめぐってきた。

 一回戦では失敗したので、今回はクオンの試合が終わったあたりから軽くストレッチを始めていた。

 

 場内に立つと、一回戦の時より注目されていないのがわかる。

 最初は門寺さんと行動を共にしていたことで、興味を引いていたのだろう。

 しかし、一回戦目の内容が強烈とは言えないものだったから、注目度が落ちたのだろう。


〔ちょっとだけ警戒されているって感じかな〕


 対戦相手を見据えながらラストはそんなことを言う。


〔そうなのか?〕


 俺には相手の表情を読んだりすることがラストと比べて相対的に得意でないから、俺にはよくわからない。


〔苦戦しながらも一回戦は勝っているわけだからね。と言っても、負けるとも思っていないね。油断せずに本気で来るよ〕


〔それってよくないんじゃ?〕


〔そうだね〕


 ラストは肯定した割に返事はこれまでにないほど呑気だった。


 二人とも場内に立ったのですぐに試合は開始された。

 始まった瞬間、相手はすぐに飛び込んできた。

 

 やられる前にやる、というわけか。

 

〔さて……〕


 ……?

 急にすべてのものの動きがスローになった。

 俺は今、ラストの意識を通して視界を得ている。

 おそらくラストが集中力を高めているのだ。


〔彼が本気で来るなら……〕

 

 相手がこちらに向かってくるのがわかる。

 どこを狙っているのかも。

 しかしラストはまだ動かない。

 棒立ちのままだ。


 なんで動かないんだ!?

 このままじゃ確実に食らうぞ!?


 相手の拳が目前に迫る。

 もうだめだ。

 そう思った時だった。


「僕もそろそろ本気を出そう」


 混乱する意識の中で、その言葉ははっきりと聞こえた。

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