模擬戦(登場)
話を戻すが、時間制限というものがある。
つまり、どちらかが仕掛けなければ、両方とも負ける。
かと言って、仕掛ければ負ける。
なんとも難しい勝負だった。
結局その勝負は時間制限ギリギリで動いた。
痺れを切らした一人が攻撃を仕掛けたのだ。
しかしその攻撃はよけられ、カウンターを決められることで決着した。
「1試合でこんなに神経削っていたら、大変だな」
「あら、そんなこともないわ。さっきのはあくまでお互いの実力が近いとき。でも実力差が明らかだと……見てみなさい」
クオンに促されて見てみると、次の試合が始まるようだ。
片方はさっき見たランキング2位の男。
試合開始と同時に、彼は飛び出していった。
なぜだ?
先制攻撃のほうが不利なはずなのに。
さっきの試合と同じように攻撃を仕掛けられた方はカウンターをするためにその攻撃を避け……られない!!
そのまま見事に攻撃が決まり、たった一撃で勝負がついてしまった。
圧倒的な速度と絶妙な角度からの攻撃。
あんなの避けられるはずがない。
瞬殺とはまさにこのことか。
実力差があるとここまで違うんだな。
少々の有利不利は関係がない。
この後の試合は膠着するか一瞬かの2パターンしかなかった。
一回戦も折り返しに差し掛かるころに、門寺さんの出番が来た。
「しっかり見ておきなさい。ルミちゃんのすごさがわかるわ」
まぁ、門寺さんがやばいというのは知っているし、周りの反応を見てもわかる。
アップをしていた連中が手を止めて試合に注目しているからな。
戦う二人が場内に立つ。
対戦相手の方は闘志がみなぎっている感じだが、門寺さんのほうは平然としている。
そして、試合開始の合図が響く。
その瞬間、門寺さんが動いた。
やはり。
短期決着狙いか。
門寺さんがランキング1位なら当然というべきか。
動いた。
そこまでは認識できた。
そこで俺は門寺さんを見失った。
次に目で捉えたときには、相手の正面に立っていた。
なんという速度。
距離を詰めるのが早すぎる。
これは対戦相手の方も同様のことを思ったようで、驚愕の表情をしていた。
カウンターをされる前に間合いに入った。
そのまま彼女は右腕を外側に大きく薙ぐ。
ビュッ、と風を切る音がした。
しかし、それだけだ。
どちらも動かない。
外れたのか?
しかし、その不安がよぎった直後に対戦相手の方が倒れる。
そのまま10カウントで起き上がることはなかった。
決着である。
「さっきのは、なにが起こったんだ?」
「見えなかったの? 私、コーキくんがここにいるのが不安になってきたわ」
「俺はここに来た時から不安だよ。それで? 見えていたんだろ?」
その見えない方が異常という認識が怖いわ。
絶対に一般人には見えない動きだったからね。
プロのスポーツ選手でもない限り難しいんじゃないんだろうか。
「ええ。さっきのは手をあごにかすめていたの」
「あご?」
「脳を揺らされて気絶したのよ。掠めるだけで失神させるのには相当の技術が必要だけどね」
そういえば聞いたことがある。
よく創作物では首の後ろをたたいて気絶させることがあるが、実際は難しいのだそうだ。
重要な神経が通っている箇所だから、出来なくはないのだろうが、それ以前に危険なようだ。
それに比べてあごへの攻撃は脳震盪を起こさせるものだから、気絶させる手段としては非常に有効だろう。
なるほどな。
これが門寺さんの強さか。
「圧倒的なスピードに加えて、精錬された技か。強いわけだよな」
「まぁ、それだけじゃないんだけどね」
俺の独り言に対してクオンがなにやらつぶやいたが、聞き取れなかった。
どうせ肯定する言葉だったのだろうと思って、聞きなおすということはしなかった。
その後も順調に試合は進行していき、途中でクオンの番もきたが、不戦勝。
ラッキーなやつだ。
そして、俺の出番も近づいていた。
降参するだけだから、緊張感もなにもないが。
「そういえば降参する時ってどうすればいいんだ? 両手を挙げるのか?」
もしくは大きな声で降参と言うとか?
あまり考えてなかったけど、重要なことだよな。
そうでないと、相手が試合開始と同時に飛び掛ってきたら、どうにもならない。
「さぁ? 私、今まで降参しているのなんて見たことないから」
「必要ないでしょ?」
俺でもクオンでもない声が後方からして、振り返る。
その声の主は門寺さんである。
アップを中断してこちらに来たようだ。
「必要ないことなんてないでしょ、現状。降参しないと俺確実に死んじゃうし」
「クオン、そろそろ始めるわ」
俺の主張など聞く気がないのか、俺のことは無視してクオンになにやら指示を出す。
「何をすればいいかしら?」
クオンには事前に相談済みだったのか、すぐに返事をした。
「じゃあ、動けないように捕まえておいて」
いったい何の話だ、と思った矢先、クオンに羽交い絞めにされた。
捕まえるって、俺のことかよ!?
「ちょっと、どういうこと?」
必死で抜け出そうともがくが、クオンによる拘束はびくともしない。
力ずくでは無理だと察して俺は抵抗をやめる。
力ずくで抜け出すのが無理ならば今度は口を使うしかない。
何とか交渉して解いてもらわねば。
俺がおとなしくなったところで、門寺さんがぐっと顔を近づける。
「これで準備は整ったわ。正式な場で決着をつけましょ。前のようにはいかせない」
門寺さんは俺の目を見てそんなことを言う。
いや。
なんとなくもっと遠くを見ているような感じだ。
「決着? いったい何のことだよ?」
俺には全く覚えのないことなので混乱する。
ここにきて思い違いとかじゃないよな?
「あなたに言ってない」
今度は確実に俺の目を見て、あしらわれる。
え?
俺じゃない?
あれだけ俺を見据えておきながら?
じゃあ、誰に向けた言葉なんだ?
俺が拘束され、目の前に門寺さんが立つ。
この状況、覚えがある。
いつだ?
そしてさっきの門寺さんの言葉……
俺は記憶をさかのぼり、過去の映像が俺の頭の中で渦を巻く。
そして……
「……まさか」
俺はひとつの答えにたどり着き、門寺さんを見据える。
「ラストを呼び出すつもりか!?」
俺の問いかけに対して門寺さんは平然とうなずく。
何でもっと早く気付かなかったんだ?
門寺さんはラストを利用するために呼び出したことがあるんだぞ。
今考えてみればあんな自信たっぷりに心配ないと言っていたのも、ラストの実力を知っていたからだ。
あんなことがあれば普通は懲りそうなものだけどな。
そう思って、ラストのことを考えないようにしていたのが迂闊だったか。
「あなたの力を今使わずしていつ使うのよ?」
くっ……駄目だ。
口振りからして、ラストを呼び出すことに対してためらいがない。
「でもあんなことがあったのに……」
「言ってるでしょ。前のようにはいかないって」
だめもとで決心を揺らがそうとするが、びくともしなかった。
彼女は腕を振りかぶる。
ラストを呼び出すためには、俺が恐怖しないといけないからだ。
もう、どうにでもなれ。
そこまで言うのなら協力してやろうじゃねぇか。
俺は迫ってくる拳に意識を集中する。
考えることはただひとつ。
その拳への恐怖。
今回は嫌々ラストに代わるのではない。
ラストという存在を受け入れる!
拳が近づいてくるにつれて、恐怖で心臓が締めつけられる。
そして、それがピークに達した時、心拍が停止したような感覚に陥った。
その瞬間、俺の意識は一気に遠のいた。
パシッ。
明らかに拳を顔に食らったのではない音が響いた。
「やれやれ。『僕』がこの頻度で出てこないといけないだなんて、とんでもなく異常なことだと思わないかい?」
俺の口で、しかし俺の意思で発したのではない言葉。
紛れもなくそれは、ラストの言葉だった。




