模擬戦(開始)
次の授業は世界情勢についての授業。
今度はまともな座学だなと思っていたが、そうでもなかった。
世界各国の戦争や紛争の戦況、軍事費、核の保有数まで絶対に機密だろうと思われる情報まであった。
なるほど、これが俺達を逃がせない理由か。
どうせ使うことなんてないんだから、教えなきゃいいのに。
なんてことを思っていたが、紛争についての話をしているときに、参加することになるという趣旨を含んだことを言っていた。
まさか、ね?
だがここが兵士を育成するための施設だと考えれば当然の結果と言える。
……戦場なんかで死にたくねぇ。
昼食が済んだ後は自由行動となる。
超ゆとり教育というわけではなく、自主練の時間みたいなものだ。
戦闘スタイルは人それぞれなのだから、他人と一緒にやるよりも効率がよくなってしまうのだろう。
秘密にしたいこともあるだろうしな。
俺みたいに。
しかしこれは普段の日程であって、今日は違う。
そう、模擬戦の始まりである。
その前にチームごとに集合になった。
チームってなによ。
俺は一番後ろの席だから、教室内の様子がよく分かる。
しばらく傍観する。
どうやら、チームというのはすでに決まっているものらしい。
もう少し説明があってもいいだろうに。
それじゃないと新人は孤立しかねないぞ。
実際、ところどころに席を離れず一人でじっとしているやつもいる。
俺もああなってしまうかもしれないと危機感を持って、とりあえずクオンがいる隣の席を見るが……
いないし!
どこに行った?
必死になって探すと、教室で俺の対角線上にある席の周辺にいた。
あの席といえば……
俺はその席に座っている人物を見る。
案の定、門寺さんである。
ちょうど向こうもこちらを見ていたらしく、目が合う。
すると、手招きをされた。
このタイミングで呼ぶってことは、そういうことか?
俺は左側前列にある席に向かい、クオンの隣に並ぶようにして立つ。
「あなた、私に助けてもらった借りがあるわよね?」
その話か。
俺がここで最初にラストになってしまったときだな。
門寺さんが後処理をしてくれたんだった。
「え、ええ。ありましたねぇ……」
煮え切らないのは、その次に会ったとき、つまり英語を覚えさせるために監禁されたので帳消しになったんじゃないかと思っていたからだ。
確かにあの時何の確認もなかったし、無理やり連れて行かれたから、頼みを聞いたのとは違うかもしれないが。
そんなことは関係なしに、門寺さんは話は進めていく。
「その借りを返す形として、私たちのチームに入りなさい」
やはりそうきたか。
「もしも拒否したら?」
「いいの? 孤立すればあなた、絶対に狙われるわよ?」
くっ……
痛いところをついてくるな。
確かに周りにマークされた状態でひとりになるのは危険かもしれない。
マークされる原因を作ったのは門寺さんだ。
もしかしたら、もともとこうするつもりだったのかもな。
「……分かった。でも、ここでのチームってどういう役割があるんだ?」
あまりにうますぎる話なので何か裏があるんじゃないのかと、探りを入れる。
「今回はチーム内で対戦がなるべく起きないように配慮してもらうために、チームで報告するためよ。そのうちチーム戦なんかもあるわ」
味方または、戦いたくないやつをチームに入れていくわけだな。
「なるほどな。それにしても何で俺なんかを入れたいんだよ?」
そのルールだと、俺をチームに入れるメリットは小さいと思う。
「あなたの実力は十分だわ。もしも制御できるようになれば、間違いなく上位になれる」
俺、というよりラストの実力を買っているわけか。
そして俺には、チームに入って制御できるように訓練してほしいと。
そういう選択肢もあるのかもしれないが、やはり俺はどうしてでもここを出て行きたい。
このチームは俺がここに残ることになった場合の保険して考えておこう。
一応、チームに入るということは決定し、話は模擬戦に向けての内容となった。
「どうするんだよ、結局俺なにも対策してないよ」
「大丈夫、いい案思いついてあるから」
そう答えたのは門寺さん。
「ほんとか?」
「ええ。あなたは怪我ひとつもしない」
「いいの、ルミちゃん? そんなこと言っちゃって?」
「大丈夫よ、事実だもの。ちょっと私たちにリスクがあるけど」
「それってまさか―――」
門寺さんとクオンが二人で話していたがよく聞き取れなかった。
戦闘員は着替えて武道館に集合となった。
集まったのはざっと50人。
もう少しいると思ったんだがな。
武道館の入り口にはトーナメント表が貼り付けてあった。
トーナメントで戦うのか。
体力が要るな。
トーナメント表をよく見ると、60人くらいが参加予定になっている。
そこに書いてある名前に10人ほど斜線が引かれていた。
何らかの都合で出ていないのか。
俺の頭に隔離棟がよぎる。
どういうふうに組み合わせを決めているのか知らないが、俺にシード権はなかった。
これだけ欠員が出ているのに不戦勝すらなかった。
運がないな。
武道館に入ってみると、中には大きな正方形になるように線が引かれている。
「これのなかで戦うということ?」
「ええ。負ける条件は場外に出たとき、10カウントで起き上がれないとき、降参した時の3つよ」
どこの天下一武道会だよ。
いやでも、ここに集まっているのはその候補なわけだから、あながち間違っていないのか。
「そうか」
負けの条件をもう一度考えてみると、降参すれば戦わなくて済むということに気付いた。
なるほど、これだな?
門寺さんが思いついた案というのは。
ギャラリーや対戦相手に文句を言われそうだが、仕方がない。
俺は命が惜しい。
話しているうちに、早速一回戦が始まった。
始まりの合図と同時にタイマーがカウントダウンを始める。
時間は3分だ。
「時間制限もあるのか」
さっきはそんなこと言ってなかったのに
「今回はトーナメントで試合数が多いから。普段はないのよ」
普段?
俺がその単語に引っかかると、クオンは続けて解説してくれる。
「元々、この方式の決闘は順位の低い人が高い人に戦いを挑むためにできたものなの。下克上ってやつね。でもそれだけじゃ二人の順位が入れ替わるだけだから、こうやって大勢でやる機会を設けているというわけ」
「でもそれって、順位が変わることに意味はあるのか?」
「正直なところ、私たちにはあまりないわ。施設側が私たちの戦力を知りたいだけよ。たまに名誉がほしいがために挑戦している人はいるみたいだけどね」
「その割には乗り気なやつが多そうに見えるけど?」
俺は周りを見回す。
ウォーミングアップをしているやつが結構いる。
「まぁ、彼らにとってはお祭りみたいなものなのよ。滅多にないことだから。」
表情や口調はそのままに、声を少し低くしてクオンは続ける。
「でも何より、気を抜くと死んじゃうから」
ゾワッ、と身の毛がよだつ。
た、確かにそうなるのか。
格闘技ではたまに死亡事故が起こることがある。
しかも今回は反則技というものがない上に、プロ選手より攻撃力が高いはずだ。
攻撃を食らえば、ひとたまりもないに違いない。
死なないようにするために負けのルールが多くなっているのだろう。
俺たちは試合経過を見守る。
しかし、お互いにどちらも動かない。
間合いを測るってやつか。
おそらくこの勝負、先に仕掛けたほうが負ける。
本来ならば相手が集中力を途切らせた瞬間を狙いたいところだろう。
しかし、ここで時間制限というものが効いてくる。
「これって、時間内にどちらも有効な技が決められなかったら、どうなるんだ?」
「どちらも負けということになるわ。順位変動はなしよ」
それって、決勝戦は困るんじゃ、と思ったが決勝戦のみ制限時間が排除されるんだそうな。
ただ、ひとつ気になったのは、クオンは今まで決勝戦が長引いたのを見たことがないということだった。




