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全力疾走

 クオンに言われた通り、俺は銃を探しに武器庫へ出向くことにした。

 ターゲットにされているという事なので、授業が終わった瞬間に俺は教室の外に飛び出した。

 

「コーキくん、そのスピードじゃ追われたときに逃げられないわよ」


 俺が廊下を走り始めたくらいのタイミングで真横から声がした。

 俺をそんな呼び方をするのは一人しかいない。

 クオンである。

 

 おかしいな?

 俺は授業の終わりを告げられたと同時に出て行ったのに。

 どんなに反応が速かろうと、数瞬遅れるはずだ。

 さらにクオンは俺より扉に遠い。

 全速力で出て行った俺に並ぶのは難しいはずだ。

 

「私もそう思うわ。せめて逃げ足くらい速くなっておかないと」


 そしてクオンが話し終えると、今度は反対側からの声。

 門寺さんである。


 あれー?

 クオンは俺が隣の席だったからすぐ気付けたのだろう。

 もしかしたら持ち前の観察能力で察していたのかもしれない。

 だが、門寺さんは俺たちの対角線上の席にいた。

 察することは不可能。

 もしも授業が終わった瞬間に、俺が飛び出したのを見てから動いたとしても、追いつくのが速すぎる。

 彼女は扉からかなり離れていたし、今俺が走っている方向は教室の後ろ方向。

 つまり一番遠かったわけだからな。


 俺が遅いというわけではないと思う。

 50メートル走は7秒台前半だし。


「二人が走るのが速いんじゃないの?」


 俺は全力疾走なのに二人とも涼しい顔をしている。


「それは一般的にの話でしょ? ここにいる人たちが公式の場に行ったら、いくつ世界記録を持って帰ってくると思ってるのよ?」


 ありえないようなことを、さも当然かのように言われた。

 

「並みはずれているとはわかっていたけれど、そこまで?」


 確認のためクオンにも聞いてみる。

 クオンは笑顔でうなずいた。


「まぁ、人間と同じ種だと思わない方が気楽かもね。精神衛生上」


 なるほど、確かにそれなら受け入れられるかも。


「でも忘れないでよ。あなたもその一員なんだから」


 一番忘れたかったことを門寺さんに的確に突かれて、うなだれた。

 なんでそんな意地悪なことを言うかな。

 俺がここに来たのが本望じゃないのを知っているくせに。


 このまま暗い気持ちでいたくないので、大きなため息をついた後、話題を変える。


「そういえばなんで二人は着いてくるんだ?」


 逃げることにさえ成功すれば、ひとりで何とかなると思っていたんだが。

 

「だって、コーキくんが心配だったから。案内もいた方がいいでしょ?」


 クオンはいいやつだな。

 感激だ。

 そうなると門寺さんも俺を心配して・・・


「私はあなたの暴走が心配で」


 心配のベクトルが違う!!

 確かに重要なことだけれども。


「そういえばルミちゃん、私まだコーキくんの能力について聞いていないんだけど、そんなに危険なものなの?」

「ええ。実力は最上位層に属すると思う。私に匹敵するレベルよ。それが制御できないって言うんだから面倒なのよ」


 そういえばこの二人は接点がありそうなんだったな。


「そこまでなの? 彼の姿からは想像できないんだけど」


 俺はそろそろ息が切れてきたので会話には参加しない。


「私と同じ上限無視タイプよ。それで私も遅れをとったわ」

「なるほどね。ルミちゃんが警戒するなんてよっぽどなのね」

「ええ。クオンもあいつが出てきたら警戒して。男には容赦しないみたいだったから」

「私は男かどうか怪しいけどね」


 そうこう話している間に、俺たちは階段を下りて校舎から出る。

 ここまでくれば大丈夫だろうと、走るのをやめた。

 二人は平気そうだったんだが、俺は息絶え絶えだ。


 そんな状態の俺を見て二人はため息をつく。


「ほんとに強いの?」

「そうなんだけど・・・素の状態がこれなのよ。本格的に鍛えておいた方がいいかもね。今後のために」

「鍛えるって・・・どんなふう・・・に?」


 俺は息を切らしながら言葉を紡ぐ。


「それは分からないわ。言えるのは並大抵の鍛え方じゃないという事だけかしら?」


 クオンが不吉なことを言う。

 確かに俺が生き残るには重要なことだけど。

 

 ・・・生き残る?

 そういえば、重要なことを忘れている。

 俺がここに定着しようとする必要はないんだ。

 自力で帰るということをあきらめてしまっていたから選択肢から外していたが、ここまで常識はずれな場所なら、帰るという選択肢は復活してもおかしくないのでは?


「俺はここに慣れる術より、帰る術を教えてほしいんだけどな」


 この言葉に門寺さんが何かを思い出したような反応をする。


「ルナさんが言うには、この施設を見せた以上簡単に帰すわけにはいかないだろうって。こちら側もちゃんと連れてくる人を吟味しているし。あなたは連れてこられるべくして連れてこられたってことよ」


 簡単に帰すわけにはいかない、っていうフレーズが怖い。

 都合よくはいかないらしい。

 

「すでに帰るという選択肢は考慮すらされていないのか・・・」


 予想以上の厳しい現実に俺は肩を落とす。


「それで思い出したんだけど、ルナさんが放課後においでだって。今後の育成についての話がしたいって」


 たしかにルナ先輩、俺の育成メニューを考えてくれるっていう話をしていたな。

 あの場では有耶無耶になっていたが。


 俺が門寺さんと話をしているとき、クオンもさっきの彼女と同じ反応をした。


「ルミちゃん、私も思い出したことがあるわ」


「どうしたの?」


 俺たち二人はクオンに向き直る。


「コーキくんって、このままだと模擬戦を乗り切れそうにないんだけど、どうすればいいかしら?」


 そうだ、模擬戦!

 確かに後で門寺さんに相談しようって話だったな。

 相談したところでどうにかなるのか不安なところであるが。


「大丈夫。それについてはもう考えてあるわ」


 意外にも、門寺さんの口からは頼もしい言葉が出た。


「へぇ、どんな手なの?」


 クオンはとても興味があるらしい。

 俺もここまで自信満々に言われると気になる。


「別に準備が必要なことでもないし、始まる前に教えるわ」


 先延ばしにされてしまった。

 一気に不安になった。


「そう。ルミちゃんがそういうなら後にしましょう」


 興味ありげだったクオンもすぐに引きさがってしまう。


 これが力あるものには逆らわない、というやつか?

 それとも単純に門寺さんを信用しているのか。

 結局は他人事だからか。

 どれにしろ俺が追求していい雰囲気ではないな。

 俺も何とかなると信じよう。


「それよりも私、何のために外に出たのか聞いてないんだけど?」


 門寺さんは俺たちが出て行ったのを見て、着いてきただけだもんな。

 

「コーキくんの武器を選んでもらおうと思ってね。一人じゃ不便があるだろうと思って着いてきたわけ」


 このクオンの言葉を聞いてひとつ思い出したことがある。


「クオン、武器庫の話をしたときから思っていたんだが、武器庫に誰かいるのか?」


 確か武器庫にいる奴が銃を選んでくれるとか、さっき説明してもらったはずだ。


「ええ、非戦闘員がね。彼女は武器の開発や改造を主に活動しているんだけど、その人に合った武器を見繕うこともできるのよ」


 でたな、非戦闘員。

 ルナ先輩に続く二人目だ。

 

 武器の開発ときたか。

 戦闘員でなくとも、確かにここには必要な人材かもしれないな。

 戦闘員を補助する役割というわけだ。

 ここにいるくらいだから、能力は高いのだろう。

 一体どんな開発や改造を行っているんだろう?


「ここよ」


 クオンがそう言って立ち止まる。

 話をしている間に着いたらしい。

 

 武器庫は大きな倉庫のようなたたずまいだ。

 正面には大きな扉がある。

 高さは一般的な二階建て住宅と同じくらい、幅が等倍で、奥行きが二倍といったところか。


 正面の大きなドアは人力で開く感じがしない。

 クオンに着いていくと、側面にドアがついていた。

 

 一瞬、あの重そうな扉を門寺さんが開けるところを想像してしまったが、それはないようだ。

 だめだ、思考が常識から遠のいている気がする。

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