模擬戦
そういや、さっき気になることを言ったな。
「最高のコンディションって?」
「あら、もしかして聞いてないの?」
彼は心配そうな表情で俺の顔を覗き込む。
近いって。
「な、なにを?」
あまりの迫力にたじろぐ。
「その様子じゃ聞いてないみたいね。今日、戦闘員は模擬戦をやるのよ。力量をはかるためにね」
「・・・うん、聞いてない」
あまりにも都合が悪い情報だったためか、理解するのに少々の時間を要した。
極限に追いつめられると不思議なことに、笑顔になってしまう。
その口から発せられるのは乾いた笑いだけだが。
「じゃあ、気をつけないとね。今日あなたはルミちゃんと登校したことでかなり注目されているわ。さっきも言ったけど、それに加えて気迫がないものだから、みんなあなたのこと狙っているわ」
やっぱりそうなんだ。
なんだか怖い人たちが、こっち見てるなとは思ったけど。
「それって、俺はどうすればいいの?」
果たして存在するのか定かでない解決策を乞うてみる。
彼は俺の質問に対して、驚いたという反応を見せた。
「あら、簡単なことじゃない?」
そんなことを言われても分からないことは分からないので、首をかしげる。
その反応をみた彼はため息をつき、仕方ないと口を開いた。
「あなたが本当に能ある鷹なら、その姿を誇示すれはいいのよ」
つまりラストの姿を見せるという事か。
ついでに何人か倒してみると。
でもなぁ・・・
「なるほどね。そういうことなのね」
俺が答えを聞いて考えていると、突然彼がそんなことをつぶやいた。
「何を突然納得したんだ?」
「あなたさっき、私の答えを聞いて嫌そうな顔をしたでしょ。それであなたの事情が少し飲み込めたから」
よく見ているな。
さすが自称趣味人間観察。
「力を誇示するのを嫌がるっていうのは本当に賢い人間だけよ。でもそこまで徹底しているのなら、ここに連れてこられることもなかったはずよ。じゃあ、あなたが力を誇示したがらないのは別の理由があるから。例えば、力を引き出すのは自分の意思でできないとか、引きだした力を制御できないとかね」
洞察力も優れているな。
例に挙げている2つのどちらにも当てはまっている。
こりゃ隠し事はできなさそうだ。
俺は白旗をあげることにした。
「正解だよ、どっちもな。あんたこそ本当に賢い人間じゃないのか?」
俺は降参だと言わんばかりに肩をすくめる。
彼は自慢げに鼻を鳴らす。
「あんたなんて言わないで次からは名前で呼んでほしいわ。私はクオン・フェン。クオンちゃんって呼んでね!」
バチン。
またそんな効果音が聞こえた気がした。
「俺は空色光輝。よろしく、クオン」
俺は要求を軽く無視したものの手を差し出してごまかす。
彼は快く握手に応じてくれた。
顔は不満げであったが。
「そろそろ、話を聞いているフリをした方がいいわよ。勘づき始めたわ」
彼は教室の前の方へ視線を送る。
そういえば今授業中だった。
全然聞いてなかったけど。
俺は頷き、姿勢を正す。
教室の前には教官が講義中だ。
確かにこちらを一瞥したな。
クオンの観察能力に感謝せねば。
「ほらね。危なかったでしょ」
クオンは自慢げな口調でそう言ってくる。
「ああ、助かったよ」
俺も前を向いたまま答えた。
教室内は話し声くらいはするので、これくらいなら大丈夫だろう。
「そういえば、みんなちゃんと授業聞いているんだな。俺はてっきり学級崩壊しているものかと思っていたよ」
話題がひと段落したところで別の話題をふる。
「それはちょっと偏見が過ぎるんじゃない? みんなそこまで暴れたりしないわよ?」
そんなに可笑しかったのか、クオンは少し吹きだす。
「そうなのか? じゃあ、俺はそこまで心配しなくてもいいってこと?」
俺は少し安心して問いかけると、
「まぁ、そこまで安全でもないけれど」
と真剣な口調で返された。
俺はガクッ、と机に突っ伏す。
ぬか喜びだったな。
「みんなそれぞれ相当な実力の持主だけれど、それ以上の実力者の前には言う事を聞くしかないという事よ」
「それ以上の実力者?」
俺はクオンの方を向く。
すると、彼は教室の前の方へ視線誘導する。
俺がそちらを見やると、いるのは教官。
ああ、そういう事か。
「ルミちゃんはどうなのか知らないけどね」
なんだか不審なことを言ったな。
まるで門寺さんは対象外みたいな。
・・・まさか、まさかね。
実力が皆が恐れる教官の、さらに上をいくと?
どうなんだ、と目でクオンに訴えかけるが、彼はごまかすように笑みを浮かべて前を向いてしまった。
真実はわからないが、おそらく俺の考えている通りなんだろう。
さらに彼女のことが怖くなったな。
「それでコーキくんのこと、ルミちゃんはどれほど把握しているのかしら?」
さっき話題に上がったからか、例の怖い人の名前が挙がる。
俺はコーキくんと呼ばれるらしい。
まぁ、変ではないからそれでいいけど。
「話したよ、全部」
「なら都合がいいわね。後のことはルミちゃんも含めて相談しましょう」
口ぶりからするに門寺さんとはつながりがあるんだろうな。
さっきの流れからして、誰とでもすぐ仲良くなってしまいそうな感じはするし。
俺はさっぱり聞いてなかった授業に少し耳を傾ける。
やっている内容は銃の構造についてだ。
見たことも触ったこともない俺からしてみると全く興味のない授業だな。
「ちゃんと聞いておきなさい。銃は敵の命を奪い、自分の命を守る重要なものよ。コーキくんが銃弾よりも速いなら別の話だけど」
「銃弾より速いって・・・それは人間じゃないな」
俺はクオンの冗談に微笑む。
ちゃんと聞いておけって言われたって、そんな現実味のないものについての話を聞いたって・・・
ん、まてよ?
こんな授業をやっているという事はこのなかに帯銃している奴がいるのか?
ここは無法地帯の土地。
その可能性は否定できない。
というか帯銃に関して取り締まらない国だってある。
「なぁ、クオン」
俺は脂汗をかきながら、彼にに呼び掛ける。
「なぁに?」
「このなかに銃持っている奴ってどれくらいいる?」
本当なら耳を塞ぎたいくらい聞きたくない情報だが、俺の命にかかわる情報なのでそういうわけにもいかない。
聞き逃さぬよう、代わりに目でもつむるか。
「そうねぇ・・・」
こういうさっさと答えを言ってほしいときに限って、時間がかかる。
この時間は心臓に悪すぎる。
「別に正確な数じゃなくていいから! だいたいで!」
俺は焦って答えをせかす。
「正確な数は分からないけれど、目安でいいのなら。少なくとも、私とルミちゃんは持っているわよ」
なに・・・?
クオンはともかく、門寺さんが持っているだと・・・?
彼女はこの中で最も強いはずだ。
その彼女が帯銃しているというのか。
さっき『銃弾より速いなら別』という話はしたが、門寺さんがどんなに強いとは言え、そんなことはない。
俺が言ったとおり、彼女は人間なんだからな。
その彼女ですら帯銃しなければならない状況。
それはつまり、この中のほぼ全員が持っていると言っても過言ではない。
なんてこった。
俺の生存確率がぐっと低くなったぞ。
「フフッ、そんなこの世の終わりみたいな顔しないの」
そんなに顔色が悪かったのか、クオンが笑う。
「そりゃこんな顔にもなるさ。さっきクオンが言っていたように、今みんな俺を狙っているんだろ? あんな屈強な奴らが銃持ってやってきたら、俺はどうすればいいって言うんだよ?」
「とりあえず、あなたも銃を持ちなさい。すぐそこに武器庫があるわ。そこにいる子があなたに見合った銃を選んでくれるはずよ」
やっぱりそうなるのか。
あんまり物騒なものは持ちたくないんだけどな。
外の人間から見て危険だと思われたくないから。
ここの色に染まってしまうのは回避したいところだ。




