表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/42

大食い

 これは非常に良くない状況である。

 

「空色くん、来たならちゃんと入ってくればいいんだよ。盗み聞きはあまり感心しないな」


 なんだろう、嫌な汗が出る。

 

「す、すみませんでした」


 自分が思っていた5分の1くらいの声量だった。


「まぁ、聞かれてまずい話じゃなかったのが幸いかな」


 そういうとルナ先輩は俺から目を離し、目の前のパソコンに目を向ける。

 説教は終わりか。

 よかった。


「私もちょっと楽しかったから許すよ」


「どういうことですか?」


「この島にはたくさん監視カメラがあるのには気づいた?」


「ええ、寮の1フロアだけでもたくさんありましたね」


「じゃあ、この建物の監視カメラの映像はどこから見られると思う?」


「そりゃ、どこかの画面で……」


 ここで気づいた。

 ルナ先輩は今、パソコンに目を向けているのだ。


「見てたんですね」


 俺はため息をつきながら答えを言う。


「いや~、実に面白かったよ」


 つまりはあれか。

 見つからないように隠れながら歩いたり、扉の前でこけるという挙動不審なところを全部見られていたわけですか。


 恥ずかしっ。


「ところで、俺が呼び出された要件なんですけど……」


 これ以上このことについて追及されると、俺の身が持たないのですぐに話題を変える。

 

 つまらないなぁ、と言いたいかのようにルナ先輩は唇を尖らせる。


「そうだったね。さっき、ちょうど留美ちゃんと入れ違いになっちゃったでしょ?」


 確かに、俺が出て行ってすぐ後にここに来たよな。


「本当は2人に診断結果を報告してもらおうと思っていたんだけど、どうやらトラブルがあったみたいだね」


「そう……ですね」


 あったのは間違いないが、はっきりと返事をするのはどうかと思う質問内容だったので、すこしだけ濁す。

 

「そのせいで2人の仲が悪い、というより留美ちゃんが一方的に嫌っているから、2人に仲直りをしてほしいんだよ」


 本当に俺が聞いた内容が実行されるなら、たしかにこの状態はよくない。

 計画を順調に進めるためにもこの作業は必須なのだろう。


「ちょっと、ルナさん! 私そんなこと聞いてないです!」


 当の本人はあまり納得していないようだ。


「留美ちゃん、大人になりなさい。私的な感情を捨てて組織のために動くのは必要なことだよ。彼は一度、謝っているんでしょ?」


「私の胸を触ろうとした件については何もしていません」


 門寺さんはそう言って、そっぽを向いてしまう。


 やるなら今か。


「あの時は誠意を見せようとやったんだ。でも、確かに不用意な行動だったと思う。ごめんなさい」


 今後は土下座とかではなく、深く頭を下げた。

 その代わり、誠心誠意を全力で込めた。


 10秒、20秒……1分。

 俺はずっと頭を下げ続ける。

 ルナ先輩は空気を読んでくれているのか、何も言わない。

 

 そろそろ時間の感覚が狂い始めたころ、門寺さんが動いたのがわかった。


「頭、あげなさいよ」


 上げろと言われたので、門寺さんのほうを確認しながらゆっくりと体を持ち上げる。 


「そこまでされて、許さないなんて言えないじゃない。ルナ先輩に免じて許すわ」


 とても不機嫌そうな顔をしているが、何とか許してもらった。


「ありがとう、留美ちゃん。じゃあ、仲直りの握手だね」


 ルナ先輩はそう言うと俺たちの手を取り、無理やり近づけた。

 俺たちは苦笑いしながら、相手の手を握った。


 ルナ先輩の仲直り作戦が成功したところで、俺たちは机を用意して椅子に腰かける。


 長方形の机を三人が囲む。

 ちなみに門寺さんとルナ先輩が長辺に、俺が短辺に座っている。

 

「そういえば、これ留美ちゃんからの差し入れ。みんなで食べよ?」


 ルナ先輩は机の上にあった袋を持ち上げる。

 見た感じ、結構入っているな。


 袋を広げると、中身はハンバーガーだった。

 ていうか数が多いな。

 ぱっと見ただけでは数えられない。

 袋をひっくり返してすべてを確認する。

 目で数えていくと、ちょうど20個ある。


 いったい何人で食べるつもりだったんだ?

 こんなに重そうなものだと、一回当たりの食事で一人2個くらいが限界だろう。

 普通は。


「じゃあ、私は晩御飯も含めてもらっておくね。あとは二人でどうぞ」


 ルナ先輩がまず先にふたつ取った。

 残りは18。


「じゃあ、私たちは9個ね」


 平然と門寺さんが9個取っていく。

 俺は残った分を袋ごと受け取る。


 これは100円くらいで買えるようなものじゃない。

 厚みを見ればわかる。

 これを9個食べるといったらかなりのカロリーだろうな。

 ひとつ500キロカロリーと考えれば、4500キロカロリーだ。

 一日に必要なカロリーの倍以上である。


 普通、これをいっぺんに食べろと言われたら無理な話である。

 そう言うと俺が普通じゃないみたいだが。


 ラストが身体を使うと普段とは段違いの能力を発揮するが、いくつかの代償がついてくる。

 筋肉痛、疲労、そして空腹だ。

 そしてこれは正常な生活をしている限り絶対に体験することがないほどひどいものだ。


 前者二つはあまりうれしくないことだが慣れてきた。

 だが空腹だけはどうにもならない。

 実際さっきまで栄養不足で倒れていたわけだからな。

 たとえ点滴をしてもらっても、やはりこの空腹はどうにもならなかった。


 というわけで、俺は周りの様子をうかがいつつハンバーガーをいただく。

 小食な人が見たらひいてしまいそうな光景になってしまうだろうが、気にしなくてもよさそうだな。

 門寺さんは俺とタイプが一緒なことと、さっき俺と同じ数を取ったこと、そもそもこんなに大量に買ってきたのは彼女であることを考えれば、彼女もたくさん食べるのだろう。

 ルナ先輩もそのことを知っているはずだ。


 9個という異常なはずの数を俺は食べ始めから全く失速せずにたいらげた。

 門寺さんも俺と同じペースで食べていたが。


 食事をしている間に今後の予定について聞いてみたが、あまり詳しいことは分からないらしい。

 とりあえず明日の朝に校舎で門寺さんと待ち合わせる約束をした。

 彼女と同じクラスになることは確定しているようだ。


 その他諸々、施設のことについて質問し、俺が満足したところで解散ということになった。

 また3キロメートルという距離を歩かなければならない、と愚痴をこぼすと自転車を借りることができるという事を聞いた。

 主に非戦闘員が使っていて、戦闘員はトレーニングのために走って登校するんだそうな。

 俺には戦闘員の自覚もプライドもないので、迷うことなく利用させてもらうことにした。


 別れ際に教えてもらった自転車置き場に行ってみると、様々な種類の自転車があった。

 日本製のママチャリから、マウンテンバイク、競技用のものまである。

 並みのサイクルショップより品ぞろえがいいのではないだろうか。


 貸し出し自由のためか、鍵はかかっていない。

 共用にしておけば窃盗の心配がないからだろうか。

 そもそも孤島の上で、さらには厳しい監視がある中では犯罪をはたらくのは無理というものだろう。


 なるほど、考えてみて納得した。

 わざわざこんなところに隔離しておくのは存在を隠すためだけではなく、犯罪を抑止する働きもあるからなのか。

 血の気が多い奴らにはぴったりだ。


 外部には迷惑をかけることなく、問題が起こったとしてもそれは内部で解決する。

 その問題は俺にも降りかかってくる可能性がるというのが難点だが。

 他人事であれば「よくできたシステムだ」と賛美できたものを。

 俺にとっては猛獣の檻に放り込まれたようなものだ。

 生き残るすべは、猛獣と仲良くなるしかないという事か。

 

 思いやられるこの先のことを考えて、俺はため息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ