病院
ここは……どこだ。
ついさっきまで監禁されたり、解放したりで大変だったはずだが。
そこまでの記憶があるが、そこからどうして移動しているのか分からない。
もっと状況を把握しようと俺はその場から起き上がる。
そこで初めて隣に人影があるのに気がついた。
「お~、起きたか! でももうちょっと寝ておくのをお薦めするよ」
ここの制服に白衣を羽織っている少女がいた。
ていうか、小っさ!
第二次性徴の最中じゃないのかと疑うぞ、これは。
目測140センチ前半。
「えっと……」
ここはどこか、あなたはだれかなど、聞きたいことがたくさんあって言葉に詰まる。
「まぁ、とりあえず寝なさい!」
横から肩を掴まれて、後ろ向きに引っ張られたので、俺はおとなしく従う。
力そのものは全くなかったが。
少女は俺の額に手を当てる。
「うん。36度5分。平熱だね」
さっき、手を当てただけで体温を測ったのか?
いや、今はそんなことどうでもいい。
状況把握をせねば。
「俺はなんでここに?」
「ああ、覚えてないんだね。ここはこの島の医療施設だよ。えーと、空色くん。空色くんは突然倒れたそうだよ」
「倒れた?」
そういえば、なんか立ち上がろうとしたところで記憶が途絶えているな。
そこで気絶したと。
それにしても、気絶ってあんな感じなのか。
なんか、時間が飛ぶというか。
睡眠とは全く違う感覚だった。
それであの時ラストに警告されたのか。
〔おい、ラスト〕
…………。
しばらく待っても返事が返ってこない。
無視しているわけでもなさそうだ。
俺は今までラストの感情を読み取っていたわけだが、ラストの存在そのものを感じられない。
いなくなっている。
おそらく、俺とラストとを隔てる壁が修復したということだろう。
少し惜しいとは思うが、また会話したいとは思わない。
その時は、またラストが出てきたときだからな。
「うん。空色くん、断食でもしてた?」
「いえ、一応持ってきた携帯栄養食は食べていましたけど」
まともな食事の内容ではないが。
急に連れてこられてそれくらいしかなかったし。
結局食堂にも行きそびれている。
少女の容姿は明らかに年下だ。
だが、見た目で判断してはいけない。
小さい体で圧倒的パワーを誇る人間をみたばかりなら、なおさら。
ここには普通な人間などいないと思ったほうがいい。
人は見かけによらないともいうし。
どういう言葉づかいをすればいいのか分からん。
「だめだよ~、一般人と同じカロリーしか摂ってないのに本気を出したら。君は上限無視タイプなんだから」
「ジョウゲン……なんですか?」
聞きなれない単語を思わず聞き返す。
「名前の通り。上限を無視するんだよ」
「何の?」
「肉体の。よく創作物であるじゃない? 身体が壊れないように本気を出せなくなっているってやつ。で、そのリミッターをなんらかのきっかけではずす的な。まさにそれ。ここでは結構珍しいんだよ」
白衣の少女が楽しそうに話しているので、おとなしく聞く。
まぁ、話の内容に興味ないこともないし。
もしかしたら、この力をコントロールできるかもしれない。
「俺みたいなタイプ……上限無視以外にどんなタイプがあるんですか?」
「もうひとつは上限引き上げタイプだね。ロボットスーツを着たり、自分が半分ロボットになったり、遺伝子をいじったり。要は装備と改造だね」
思った以上にやばいところだな、ここ。
人間の形をした化け物どころが、異形の化け物か。
「今日、何人か見かけましたけど、そんな雰囲気の人はいませんでしたよ?」
少なくともみんな、人の形をしていた。
「じゃあ、その人たちは戦うためではない能力を持っているんだろうね」
「他の能力? 念動力的な?」
これ以外に危険な能力を思いつかない。
「いや、念動力もいないことないんだけど……もしかして君、この施設が何のためにあるのか誤解してない?」
少女は困った表情をしながら聞いてくる。
俺は当然のように、
「危険人物を隔離しておく施設」
と、答えた。
それを聞いた少女はため息をつく。
「たしかにそういう部分もあるんだけど、君には私が危険に見えるの?」
「そういう可能性もなきにしもあらずかなと……」
少女はもう一度ため息をついたあと、また話し始める。
「ここはね、単独ではもてあましてしまうような能力を持った人たちを管理するところなの。高い戦闘能力を持った人は軍人に、知能を持った人は研究者に、という具合にね」
「じゃあ、俺はこのままでは軍人にされてしまうというわけですか」
何という理不尽なシステム。
いきなり連れてこられて、軍人になれと言われるんだぜ。
「そりゃ、強制はしないよ。君が希望すれば、それなりの手順を踏んで故郷に帰ることだってできるよ。でも、ちゃんと連れてくる人は選んでいるようだけど」
確かに、俺はここから去りたいとは思っているが、帰りたいとは思わない。
最終的にはここにいるのが最良の選択なのかもしれない。
どうせ、あのまま生活していて就職できるのかは不安なとこだったし。
「じゃあ、ここにいる人はそれなりの境遇があるんですね」
言葉に出してから思ったけど、これだとまるで彼女の境遇を聞きたがっているようだな。
興味ないことないけども。
「そういうこと。私にもね。そういえば、自己紹介がまだだったね。私はルナ。こんな見た目だけど、君よりひとつ年上だよ」
年上か。
よかった、丁寧語使ってて。
ルナという名前は日本にありそうだが、たぶん違うな。
雰囲気的に。
少なくともハーフだろう。
そもそも日本人は俺と門寺さんだけであることを確認しているし。
「俺は空色光輝です。もう知っているようでしたけど」
「うん。私はこの医療施設に雇われているんだ。だから、君たち生徒の情報は一番持っているんじゃないかな」
まぁ、そりゃカルテとか必要だろうな。
いったいどこまで情報を握っているんだろう。
「どこまで俺のことを知っているんですか?」
彼女なら正直に答えてくれるんじゃないだろうか。
隠す理由も見当たらないし。
「ん? 君が多重人格者で、人格切り替えのトリガーが外的損傷であるっていうことくらい? まぁ、この判断は私が下したんだけど」
「じゃあ、あの報告書を書いたのは――――――」
「ああ、あれ読んだんだ。私だよ」
そういえば、あの報告書は若干間違いがあったんだよな。
今訂正しておくか?
あの間違いがなければ2回目の事故は起こらなかったわけだが。
いや、どうせラストを呼ぶ計画だったか。
ならあの事故は必然。
ラストへの対策が甘かったということだ。
どうせ結果が同じになるのなら、今訂正しておく必要はないだろう。
「そういえば、俺が倒れたという情報はだれから?」
「君と同じ学年の門寺さんだよ。君の検査に立ち会ってもらったはずだけど?」
それもこの人の差し金か。
「彼女は君と同じ日本人だしね。君が英語を話せないだろうと思ってお願いしていたんだけど、その流暢な英語を聞く限り無用な心配だったかな?」
いや、その時はまだ話せてなかったけど。
「いいえ、助かりましたよ。同じ日本人がいるというだけで。まぁ彼女には驚かされましたけど」
向こうも同様に驚いていたが。
「彼女は天才だからね。君と同じ上限無視タイプに分類されるんだけど、彼女は自分の力を完全に制御しているんだよ。だから彼女は今、この施設内で徒手格闘ランキング一位なんだ」
…………。
「たとえ銃火器ありでも、上位を狙えると思うよ」
え、ちょっとまって。
俺……徒手格闘で勝っちゃいましたけど!?
正確にはラストが。
俺がだらだらと冷や汗を流していると、
「そういえば身体検査の結果見たよ。君自身の能力はいたって普通だね。ここまで振れ幅がある人は他にいないんじゃないかな」
「それって、いいことなんですか?」
質問をすると、彼女は顔を曇らせる。
「いや。むしろ逆かな。そのせいで君は今、ベットの上にいると言ってもいい」
俺の身の安全のためには聞いておいたほうがいい。
そういう内容だな。
「君のもうひとつの人格はかなりエネルギーを消費するみたいだけど、君はにはそれだけのエネルギーを蓄えられない。内臓機能も消化器官も常人レベルだからね。だから栄養失調で倒れちゃう」
俺が倒れたのは栄養失調のせいだったのか。
確かにラストが出てくる前から飢えそうだったもんな。
さらに追い打ちをかけたということか。
「でもそれは上限無視タイプ全員に言えることじゃないんですか?」
「そうなんだけど、君のは症状が重いんだよ。ほかの子たちは上昇幅がそれほど大きくなかったり、元からエネルギー貯蓄の素質があったり、長い準備期間を設けたりするものなんだけど、君の能力はどれにも当てはまらない」
言われてみればそうか。
俺の能力は生まれつきではなく後天的なもの。
発動条件が俺の危機で、目的は俺を守ることだ。
さっきのどの条件にも当てはまらない。
それだけラストが特別ということか。
「じゃあ、どうにかしないといけないですね」
「その話は後にしよう。もっとデータが取れてからね」




