桜の正体
(また、”兄”の話になったらどうしよう・・・)
「・・・ら? 桜?」
突然の声に振り返る。
「どうしたの? 考え事?」
「あ・・・うん・・・」
ぼーっと歩いていたため瑞希の声に気が付かなかった。
それに辺りを見渡せばもう、学校と家の半分の距離を歩いていた。
(いつのまにここまで・・・)
また、考えていたら瑞希が心配そうに聞いてきた。
「大丈夫?」
「あ、うん」
「大丈夫じゃないでしょう? 麗ちゃんのことどうするの? いったい何があったの?」
一人で抱え込んでいるのも正直つらかったため、話を聞いてもらおうと近くのカフェに入った。
◆
「私さぁ、麗と喧嘩したんだ」
「知ってる。原因は?」
そりゃ喧嘩したことはもうほぼ学年中に伝わっているだろう。
「私の態度が気に入らないんだって」
「態度ねぇ、優しくないってところ?」
やっぱり瑞希は私のことを見てくれている。
いや、他人も目から見ても私は冷たかったということなんだろう。
「うん、・・・でもさ、仕方ないよね?」
「・・・・・・・」
沈黙が場の空気を重たくする。
「私、麗が思ってる”桜”じゃないもん・・・」
「・・・うん」
瑞希は静かにうなずき、真剣に話を聞いてくれた。
「中途半端に優しくすると後で悲しくなるのはお互い様だし、何より”桜”が困る」
「そうだね・・・そう考えると”咲良”の行動は正しいと思う」
「・・・うん」
「でも、麗ちゃんも相当ショックだと思うよ?」
そんなこと分かってる。
「告白を受け入れたってことは咲良も好きだったってことでしょ?」
「でも、”桜”が”桜”じゃないことを知ったら、・・・怖い・・・」
「それは咲良が女の子じゃないってこと?」
私は”蒼井桜ではなく、蒼井咲良。
性別は男。
妹の蒼井桜の双子の兄。
今、俺は病気で学校に来れない妹の代わりをしている。
【登場人物紹介】
・蒼井桜 咲良の双子の妹
・蒼井咲良 桜の双子の兄
・渡辺瑞希 双子の大親友、双子の秘密を知っている
・麗 桜(咲良)の彼女、咲良が桜だということを知らない