第一章 秘密 4
『韻』の一族というのは、俺が生まれる頃、今から二十年ほど前からのこ国を治めている一族である。その長として君臨し、今まで平和を保つことだけに力を注いで来たのが母であった。
「僕の自由を考えてのことだと理解していましたが、違うのですか」
『韻』の名を名乗るということは、この国を背負い、その職務を全うするということである。
「実は、少し違うのよ」
振り返りこちらを見据える母は、一人の母親としての顔になっていた。
「私が子供を産んだことは、誰にも知られていない。知っているのは、アデポネと、ジェネさんだけよ。つまり、そうしなければならない理由があったのよ」
優しい母の語りかけに、なんと答えていいのか分からなかった。
「つまり…、私が産まれた事が、知られてはいけなかったと」
今までは、母の仕事上、自分が母のお荷物となるので、他人としての生活を余儀なくされているのだと思っていた。
「そう。その通りよ。あなたが悪いわけではないの。ごめんね」
母との約束の儀式はあと二回。それが終われば、自由に母とも接していけるのとばかり思っていた。自分が成長することで、母の仕事の役に立つ人間になるのだと。
「なぜですか」
意外な話の展開に、少し戸惑った。
「なぜ、あなたの子供ではいけなかったのですか」
子供の頃は、母に会えない思いを募らせて、自暴自棄になったこともあった。だが、それらも全て乗り越えて今がある。
「あなたが大きくなって、私の話が分かるようになるまで待っていたのよ」
母は涙を浮かべながら、遠い昔を眺めるようにゆっくりと話始めた。