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第一章 秘密 3

 いつもの儀式とは、月に一度の母との面談の事である。

 何故儀式などと呼んでいるのかといえば、それは、この面談が一切他人に漏れてはならないという制約があるからであり、その為に多くの人達が力を注いでいるのである。

 だから、身支度というのは、目立たない格好という条件があるのだ。

 その上、素性の分かるものなのどは一切身に付けてはいけない。何かあった時に困るという分けだ。


「もうすぐつきますよ」

 面談の場所は、毎回変更される。どこかの地下室だったこともあれば、貸切の喫茶店、人気のない公園、映画館の上映中だったこともある。

 最近はどこの場所でも驚いたりはしないが、移動中の目隠しだけにはうんざりしていた。


「では、5時間後に迎えに参ります。ゆっくりと楽しんでいらして」

 車が止まったのを確認し、目隠しを外す。今回は、建設途中のビルだった。黒服の男が、工事中のエレベータの前で待っている。時間通りの、いつものスケジュール。


「ご苦労様」

 いつもの黒服に、そう声をかける。これも日課だった。

 エレベーターを最上階まで上がってゆく。工事中ではあるが、中は概ね出来上がっているようだ。

 最上階で俺を降ろし、黒服はまた下へと降りて行った。いつも、母と会う時は二人きりになるように図られている。


「お変わりないですか、母さん」

 建設途中のビルの内装はまだ仕上がっていない。あちらこちらに工事の道具が散らばっている中、街を見下ろしている女性が佇んでいる。その背中はいつになく大きく見えた。ピンと張った背筋からは、何かを伝えようとしていることが分かった。


「心の準備は出来ています」

 あと二回の面談、それが意味する事を、自分なりに考え答えを見つけてきたつもりだった。

 それだけ成長した自分を、母も分かってくれているのだと信じていた。


「何故、あなたに『韻』の名を名乗らせなかったのは分かりますか」

 背中越しに語る母の表情は分からない。ただ母の声は、いつも温かく包み込まれるような感覚で、ただただ落ち着く。どのような話であろうと、母がする話であるのならば、それが真実なのであろう。



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