第一章 秘密 1
今、いったい何時くらいだろうか。どのくらい眠っていたのだろう。
まだ肌寒い三月の初旬だが、布団の中で汗びっしょりになり目が覚めた。
いつもの嫌な夢でも見ていたのだろうか。黒い影が忍び寄り、首を絞められ、苦しさにもがきながら相手の顔を見ようとしたところでいつも目が覚める。
だが、ここまで汗だくになったことはない。寒いが、暖房器具は使わない主義なので布団に丸まって寝るのが習慣だが、まったく厄介な夢だ。
「なんだ?」
汗だくのシャツを着替え用とベットから立ち上がろうとした時、一枚の紙が手からこぼれ落ちた。
どうやら、寝ている間、左手に握っていたらしい。どこから持ってきたのか、まったく覚えていない。
その紙には、ボールペンで走り書きがされていた。絵のような、地図のようにも見て取れる。今まで見たこともないような形状の模様のようなものだった。いや、ただの意図のない落書きなのかもしれない。
ふと目覚まし時計に目をやると、朝の五時を回ったところだった。いつもは七時まで起きはしないのに、夢のせいで、睡眠の邪魔をされたことに腹を立てながら、着替えを済ませ、もう一度ベットへと潜り込んだ。
パジャマのズポンのポケットにしまった、先ほどの紙切れが気になった。自分で書いたものなのかどうかは覚えていない。誰かにもらったものなのだろうか。昨夜の記憶を辿りながら、頭を働かせてみたが、思いだせない。
状況から言って、自分で書いた線が濃厚なような気がする。
「今日はあの日か」
月に一度、必ず行わなければならない行事があった。物心ついた時からそれは続いており、自分の義務なのだと母には言われていたので、仕方なく受け入れてきた。そして、それは二十歳の誕生日が最後になるのだと。
誕生日まで、あとひと月。儀式はあと二回で終わるはずである。
仕方なく、いつもの儀式用の身支度を整え、顔を洗った。