第二章 Epithelial (上皮) 4
「心当たりはないの」
ティクスの執拗な追求も仕方がない。まだ十七になったばかりの生娘なのだ。そんな彼女が背負っているものは、想像すら出来ない大きな世界に違いない。
「もしかすると…、街外れにある湖かもしれません。主人が最近そこによく出かけていましたから」
情報員からはそれ以上聞き出せなかった。行ってみるしかない。しかし、そこにではトレグの奴等がオンコジーンを探しているに違いないのだ。
「ティクス、大丈夫か」
武器も使えない俺の方が足手まといなのだが、彼女がわざわざ危険に曝される道理はないのだ。
「安心して、承知の上よ。あなたはオンコジーンを探して。お母様は、オンコジーンは主人を選ぶって仰っていたわ。きっとあなたらな見つけられるはずよ。トレグの奴等より早くね」
俺に特殊な能力があるわけではない。ただ、そのオンコジーンを集めた両親の子というだけの理由なのである。
街のはずれの森を抜けると、大きな湖があった。夕日が湖面にゆれている。湖面にはボートが数台浮かんでいる。トレグの一味と思われるが、その様子からはまだオンコジーンは見つかっていないのだろう。
「よかった、間に合って。先にオンコジーンを見つけて、それを相手に知らせば、情報部員は無事釈放されるはずよね」
それは、こちらの情報を与えるということであり、危険にさらされることを意味しているのだが、ティクスの優しさと、強さなのでろう。男としては、それに答えないわけにはいかない。
「オンコジーンは、水にぬらして、太陽にかざすと、文字が浮かび上がるそうよ。さあ、陽が沈むまでが勝負よ。彼等より早く見つけてね」