第二章 Epithelial (上皮) 3
「何があったの」
ティススの声が裏返る。そこは、『EPI』の北の隠れ家。情報部員は夫婦を演じている二名のはずだが、そこに倒れこんでいるのは女性の情報部員だった。
「…ティクスさ…ま」
まだ息はある。隠れ家は荒らされ、引き出しは全て開放されている。強盗の類に押し入られたに違いない。
「申し訳ありません…」
倒れていた情報部員は致命傷は免れており、彼女の話によると、オンコジーンの手がかりを探していたら、突然襲われたというのだ。必死に抵抗したが、相方は連れて行かれ、主要な情報は全て持っていかれたという。
「おそらく、TREGの奴等の仕業かと思います」
情報部員によれば、世の平穏を乱す反対勢力が大きくなりつつあるという。今まで少数派だった反対勢力だが、最近は組織的に行動するようになってきたのだと。神出鬼没のトレグの動きに警察などは対処仕切れていないのが現実で、朱里も手を焼いていたというのだ。
「オンコジーンがこの街にあるという情報が漏れていた可能性があります」
つまり、内部にトレグの手先が入り込んでいる、または内通者、裏切り者がいるというのだ。
「ですが、まだオンコジーンは見つかってはいません。主人が見当を付けていることを知った奴等は、主人を使って探しているに違いないのです」
一刻を争う。奴等より先にオンコジーンを手に入れなければ。万が一、奴等にオンコジーンが渡ってしまったなら、乱世となり、秩序は失われ、やがて滅亡へと向かうであろう。恐らく、トレグの首謀者はそれが狙いなのである。