第二章 Epithelial (上皮) 2
ティクスは、母であるジェネが小さい頃から千里眼の力を使えたことを知らなかった。ジェネがその力を使うことを禁じていたのかもしれない。
「それより、あなた武器などは使えるの。一通り持ってきたけど」
車のトランクには、機関銃から、手榴弾、ありとあらゆる武器が積まれていた。この法治国家で、ここまで容易く武器を手に入れられるのは、『EPI』の一族を措いて他にない。
「そんな分けないだろ。俺は普通に育って、普通に学生だぞ。お前等と一緒にするな」
もちろん、命を狙われたことなど今までに一度だってなかった。
「え。本当なの。私に戦えっていうの。信じられない」
ティクスは幼少の頃より英才教育を受けてきた。もちろん、武器弾薬の使い方も例外ではない。それがこの国を牛耳る一族の仕来たりなのであろう。
「じゃあ、頼む。何かすることがあれば言ってくれ」
自分の中に流れる血。それがどのような力で、意味があるのか、今はまだ分からない。
「足手まといにだけはならないでね」
冷たいティクスの視線の中に、暖かい光があった。これから先行運命の激流に飲み込まれまいという括弧たる決意と、見据える未来への希望とが彼女の眼光に宿っているのであろう。
北へ。俺の書いた地図をジェネに照合してもらい割り出した地は、最北端にある人口二万という小さな街だった。そこに、オンコジーンがある。ジェネの話によれば、オンコジーンは響きあり、重なる性質があるという。まずは、一つ手に入れることが先決だというのだ。
「さあ、どうやって探すか」
もちろん、最北の地へ足を踏み入れるのは初めてのことだった。
「お母様から、情報は来ています。こちらの情報員にも手を回してくれているはずだから、手がかりがあるといいけど」
伝えてはならない伝説。そうジェネは言っていた。誰も知りえない、隠された言い伝え。本当にそのようなものが存在するというのだろうか。