第二章 Epithelial (上皮) 1
結局、神との交信に成功したものの、敵の正体は分からないままであった。
オンコジーンが、どこかに存在し、それを手に入れれば、世を救えるというのだ。
「神ってのも、当てにならないな。自分じゃ何もしないんだから」
俺とティクスは、北へと車を走らせていた。助手席の彼女といえば、母の命令とあらば仕方ないという素振りで文句も言わずに連れ添ってはいるが、納得はしていないようである。
「その、オンコジーンを集めて、それで全てが解決するなんて都合がよすぎるわ。夢物語よ」
ティクスは外を眺めながら、面白くなさそうに腕組みをしている。
「第一、あなたが無意識に書いた絵が、オンコジーンの場所を示しているなんて、ありえない」
千里眼の力を持つ自分なら、そうティクスは言いたかったのかもしれない。だが、ジェネにさえ見えない敵なのである。その、見えない理由がなにかあるに違いない。俺はそう直感していた。
ジェネが、俺の書いた落書きのような模様を見て、それが北を示していると直感したように。
「俺は、俺の敵を知りたい。そして、母の仇を討ちたい。別に世を救いたい訳じゃない。もし、嫌なら付いてこなくてもいいだぞ」
十七歳の彼女に、運命の旅は過酷に違いない。それも命がけになることは必至だ。俺に、彼女まで守る技量があるのならよいが、俺にそんな力はない。
「それは別にいいのよ。私が気に入らないのは、お母様よ」
ティクスは、母であるジェネを心より尊敬していた。そして、母の命令は絶対だった。だが、今回だけは少し違う。ジェネは、神とやらの言いなりなのだ。それが面白くない。
「でも、俺は助かるよ。ティクスの開花もあるかもしれないし」
ティクスも、ジェネと同じ先を見通せる力を持つ一族なのである。その力さえあれば、オンコジーンの収集も、敵との戦いも、臆する事はないのだ。
「二十歳まではしないそうよ。遺伝子のせいで」