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第3章 青春革命

「はぁ~……何やってんだろ俺……」


 あのあと、先輩がケータイで何処かへ連絡をいれ、その後やって来た先輩の使用人だと言う黒服の人達(どうやら先輩は何処かのお嬢様のようだ)が事後処理をおこなっていった。

 ちなみに俺がした事は罪には問われないらしい。何故かは聴きたくもない。

 その後、先輩は少し用事あると言い、また、すぐに戻ってくるので待っているようにとも言い残し去っていった。

 そして今、俺は一人で自分のしでかした事を思いかえしている。


「あー、だめだ……普通こういうのって、暴走してる時の記憶とかは無くなるんじゃねぇのかよ……」


 俺は、俺のしでかした事を全て覚えている。

 確かにあれは、俺が望んで、俺自身の意思でやった事だ。しかし、今思い返してみると余りに猟奇的だったのではないかと思うのだ。


「はぁ……俺っておかしいんかねやっぱり」


 そんな自分に自己嫌悪してみるものの、仕方がないと簡単に諦める自分もいる訳で、正直自分の気持ちすら意味がわからなかった。

 そんな感じでぼーっとしていたら、突然声が掛かった。


「ふむ、待たせたの」


 どうやら先輩が帰ってきたらしい。

 俺は顔を上げ勤めて笑顔で返事を返す(その顔は返り血で大変な事になっていたが……)。


「はい、待ちました」


 俺が爽やかにそう言うと、先輩はあからさまに顔をしかめた。


「相変わらず嫌味っぽいやつじゃのぉ」


 先輩はそう言って、何か服の様な物が入った袋を渡してくる。

 嫌味を言ったつもりはなかったんだけどなぁ……

 何はともあれ袋を受け取る。


「え? あの……これは?」


「これは? って、制服じゃよ。おぬしにやる。大切にの」


 制服? ……あぁ! そういや、まだ着替えてなかったのか! 確かに、血まみれの制服のままってのもまずいしな。


「でも先輩、こんな高いの本当に貰っちゃっていいんですか?」


 確か神栄の制服は、他の学校の制服より大分高かったような……


「なに、気にするでない、私を助けてくれた礼だ」


「そうですか……では、有り難く頂戴しますね」


 まぁ先輩がくれるって言うんだから、有り難く貰っとこう。


「確かあそこに公衆トイレがあったから、そこで着替えてくるといい、今着てる制服はその袋に入れて持ってこい、私が処分しておくからの」


「あ、はい」


 そうして俺は、この血塗られた制服からおさらばすることが出来た。

 ついでに返り血も拭いておいた。




=SEISYUN=




「うむ、それじゃ行こうかの」


「え? 行くって何処に?」


 俺が着替え終り、帰ってきて、いつの間にかそこにいた執事(先輩がそう言っていた。しかもイケメン)に血まみれの制服を渡した時、突然先輩がそんな事を言いだした。


「何処って……そんなのデートに決まっておろう?」


「デート? ……俺は、まぁいいですけど、先輩は大丈夫なんですか?」


 ちらっと執事の方を見る。どうやら先輩は、いいとこのお嬢様らしいからね。門限とかあるかもしんないしね……多分。

 俺が目線を送ったのに気付いたらしい執事が、初めて口を開いた。


「僭越ながらお嬢様、今夜はもう遅いです、旦那様も心配していらっしゃいますので、今日はお帰りになったほうがよろしいかと」


 確かに、空は既に真っ暗で、女の子が歩くには少々危ない時間帯だ。

 しかし先輩は、まるでそう返ってくる事が分かっていたかの様に……いや実際分かっていたのだろう、顔色一つ変えず無表情な執事に言葉を返した。


「まぁそう言うな。私も、もう高校二年生じゃ。夜遊びの一つくらいさせてくれてもよかろう?」


 先輩がそう言うと、執事は困った様な顔をして、しかし……と反論仕返そうとするが、先輩が執事の言葉を遮りそれに--と続けた。


「いざとなったらウサギもおる、大丈夫じゃ、のぉウサギ?」


 そう言い、先輩はこちらを見る。ついでに執事もこちらを見る。

 そのムカつく顔をこっちに向けんな、キモいんだよ、この糞執事(イケメン)が!


「まぁ、出来る限り頑張るつもりです」


 俺がそう言ってもなお、執事は食い下がろうとした。しかし、結局先輩の説得に負け、すげぇ嫌そうだけど渋々といった顔で了承した。


「では斬愛様、お嬢様を頼みます。本来であれば、私もついて行きたい所ですが、お嬢様がついて来るなとおっしゃりますので……」


 そう言った執事の言葉に、先輩が呆れた様な表情で口をはさむ。


「当たり前じゃ、なに人のデートに勝手について来ようとしておる? そんな不届き者は、死んでしまえばいい」


 執事は苦笑いをした。そんな顔も、いちいち決まっていてなおムカつく。いっその事死ねばいいのに……


「では斬愛様、お嬢様に何かあった時はこちらに電話してください。全力で駆け付けますから」


 そう言って執事は、俺に走り書きと思われるメモを渡した。

 最後にこんな言葉付きで。


「ついでにてめぇ様もぶっ殺します」


 ニコッ


「ありがとうございます。へどが出るほど気持ち悪い笑顔の糞執事さん」


 ニコッ


「おぬしら仲悪いのぉ」


 そして執事は最後、先輩に声を掛けて帰って行った。


「御自分の役目をお忘れなきよう、媛」


 と。


「そのような事……言われなくても、わかっております……」


 そう言った先輩の顔は、苦しがっている様に見えた……









=SEISYUN=









「服が欲しいのぉ」


「確かに…………」


 さっきから視線が痛すぎる。

 平日にも関わらず、夜の街中は人で賑わっていた。

 俺達はそんな街中にくり出し、何処に行こうかと迷っていた、しかし、途中から周りの人がちらちらとこっちを見ている事に気付き、不思議に思っていた。

 そして、その謎は、すぐに解けた。

 調度、服屋のショーウィンドウを通り過ぎた時だ、先輩がショーウィンドウに飾ってある服を指して、なかなかデザインがいいのぉ、と言ったので足を止めてその服を見てみた、まぁ確かに可愛らしいデザインの服だったよ、そこまではいい、だが同時にこうも思った、『先輩の服装は確か……』


「先輩……何で和服なんですか?」


 あぁ、こりゃちらちら見られもするわ……


「ん? 部屋着じゃよ?」


 何と!? 和服が部屋着ですと!? じゃああれか、先輩の家は日本屋敷か!


「それはまた何とも……珍しい?」


「よく言われる」


 そう言った先輩の顔は何だが哀愁が漂っていた。

 あぁ何だ、自覚あんのか。


「はぁ、にしても目立ちますよね、それ」


「うむ、そうじゃな……」


 と言う訳で……


「服が欲しいのぉ」


「確かに…………」


 当然の流れで、服を買う事になった。

 何かすげー嫌な予感がする……

 ぼんやりとそんな事を考えながら、店のドアを開く、中はそれ程広くもなく、品揃えも、まぁまぁだと思われた。


「ふむ」


 先輩は一つ頷くと、店内をすいすいと進んで行き、5分もしない内に戻って来る。


「のぅウサギ、これなんかどうじゃろうか?」


 そう言って先輩が見せてきた服は、白とピンクの、お嬢様が着る様な服で、ある意味小学生みたいな先輩には、とても似合うんじゃないかと思った。


「いいんじゃないですか?」


 俺がそう言うと、先輩はにっこり笑って店員を呼ぶ。


「済まない、これの試着がしたいんじゃが」


 店員は笑顔の眩しい綺麗なお姉さんだった。

 うーむ、ただの店員Aにするには勿体ない逸材じゃのぅ。


「はい、かしこまりました」


 店員のお姉さんはそう言って、先輩を試着室の方へ連れて行った。

 そうして先輩が試着室に入ってから少しがたった頃。


「ウサギ」


「んぁぃ?」


 突然先輩から声を掛けられた。

 ぼーっとしていた俺はついつい生返事を返してしまう。


「ブラ買って来てくれんかのぉ?」


 そして変な事を頼まれる。

 何言ってんだろ、この人。


「は? いやいや、何で着てないんですか? 貴女?」


 そもそも必要なのか?


「普通着物の下には、着けんじゃろう?」


 普通とか言われても、女性の常識は、男の俺には解らない。


「そもそも必要なんですか? その貧しいトリプルエースなBustに、その装備は必要なのですか隊長?」


「おぬしはドSじゃな、鬼畜大魔神といった所じゃの。何故さっき心の中で思った答えより更に酷くなっておるのじゃ? しかも声に出して言うとるし……普通逆じゃろ?」


 先輩は少しへこまれた。

 気にしてたのか。これは以外……


「気のせいです」


 はははっと笑ってごまかしてみる。

 すると先輩は呆れられた。


「笑ってごまかすな、しかも、さっきの暴言はあえてスルーしてやったと言うに、何故再び声に出して言う必要が?」


「答えが聴きたかったんです。THE好奇心」


「殴っていいかの?」


 先輩はお怒りになった。

 仕方ない。話を進めますかね。


「サイズは?」


「おぬしは恥じらいを持つべきだ!」


 あら? 怒鳴られちった。何かいけなかったかな?


「男が恥じらっても、気持ち悪いだけじゃないですか」


 俺がそう言うと、先輩は少し口ごり、そうでもないような……とかぶつぶつ呟いていた。

 まぁ先輩が恥じらってくれたらさぞ可愛かろうけど。

 そんな風に俺が他愛のない事を考えていたら、先輩が口ごもりながらも、何事か喋りだした。


「び、びーじゃ………」


 そして、いきなり先輩がガバッと頭だけ出して来た。

 んん? 先輩の顔が真っ赤っかなんだが ?どったー?


「あい?」


「Bカップじゃっ!!///」


 おぉぅ! いきなり怒鳴らないでほしい。

 驚いて数歩後ろにさがってしまう。


「で? どれくらい?」


「人の話しを「Bですね」聞こえておったぁぁぁぁぁぁ!!」


 真っ赤になっていた先輩だが、すぐに普段の表情に戻り、何か愚痴り始める。

 しっかし、相変わらずよく解らない先輩だなぁ。いやまぁ恥じらう先輩は可愛かったけどね。


「このシーンて普通、どちらも恥じらうシーンじゃなかったのかのぅ……あんまりにウサギが恥じらわんもんだから、こっちが恥じらってみたのじゃが……失敗だったかの?」


 とか何とか言っているが、そんな事はどうでもいい!問題は、先輩がまさかのBカップだったという事だ。

 以外と、ある……さば読んでんじゃねぇの、この人……


「嘘などつかぬわ、事実じゃ事実」


 心を読まれた。

 プライバシーの侵害だ!


「失礼な奴に言われたくないのぉ」


 いい加減先輩が呆れて来たので、話を進める。


「て言うか先輩、ブラならここにも売ってるんで、自分で選んだらどうです?」


 周りを見渡せば、近くにそれらしき物の置いてある場所が見える。

 俺がそう言うと、先輩は、はぁ~と溜め息をつき、解ってないのぉと言い、首を横に振った。


「まぁよい、おぬしの好きな下着を選んでこい。今日はそれを着ける事にする」


 俺は少し考えてから、真剣に訊いてみる。


「…………下もですか?」


 途端に先輩は残念そうな顔をして、溜息をついた。

 溜息をつくと幸せが逃げるらしいですよ?


「おぬしは変態さんじゃったのか……そして、少しは男の子の恥じらいを見せて欲しいのぉ~」


 とは言ってもですね~


「妹いますし」


 微妙な顔をされた。


「関係あるのかの? それ」


「まぁいろいろと……」


 そんな事を言いながらも、先輩に一言いってから、女性用下着売り場に歩を進める。普通、俺ぐらいの歳の男子はここで恥ずかしがる所らしいのだが、正直あまりそう言うのは無かった。

 やっぱり俺っておかしいんかね……まぁ、どうでもいいけど。


「何でもいいって言う割に、こういうのにうるさいよな、女の子って」


 ぼやきながらも、きっちり選ぶ。

 何と言うか、妹との買い物に慣れ過ぎて、似合う下着を選ぶのって新鮮味がないな、あぁそうだ、いい事思いついた。ここは、あえて似合わなそうな下着を選んで、新鮮味を(俺が)味わってみよう。


「よし、そうと決まれば即行動」


 手に取ったのは、黒いレースの下着。先輩の呆れた顔が脳裏に浮かぶ。

 どんな、小学生だよ。みたいな?

 レジを済ませて先輩の元へ。


「先輩、買って来ました」


 そう言い、カーテンの隙間から手を入れて、下着の入った袋を渡す。


「凄い嫌な予感がするのじゃが…………うわぁ、これまたアダルティな……こういうのが好みなのかの?」


「いえ」


 まぁ、おぬしならそう言うだろうと思っておったよ、と言って先輩は着替えを始めた。

 そんなきぬ擦れの音を聞きながら、先輩が着替え終わるのを待つ。

 そして、10分くらいたった後、着替えた先輩が試着室から出てきた。

 さて、どう可愛くなったかな?あの小学生先輩……は……


「どうかの?」


「………………ぁ」


「? どうした?」


「え? あぁ、いえ何でも」


 思考が一瞬止まってしまった。

 それ程までに、先輩の姿は綺麗だった。そう、『可愛い』のではなく、『綺麗』だったのだ。まるで深窓の令嬢の様な雰囲気を纏っており、それは不意にも、俺の男を揺さ振った。




 遠い昔に凍てつかせたはずの俺の男としての心を……




 何故今更?

 そんな言葉が頭をよぎる、そして……隠した。全てを仮面の下に詰め込んだ。

 見せたくなかった、こんなに醜い自分を、目の前の人に。だから……隠した。


「? ……ふふん」


 だが目の前の人は何か悪い事でも思いついたかのように笑い、全てを見透かしたような瞳で、俺の仮面を撫で回す。




 見るな……




 それは俺の心の叫びだった。

 そして先輩は、こんな事を言う。




「惚れたか?」




 と、

 ……だから俺は、こんな醜い自分を目の前の人に見せたくなくて、いつも通り仮面の下からこう返す。




「初めて会った時にね」




 って。








=SEISYUN=








 試着を終えた先輩は、会計を済ませるために店員のお姉さんを呼んだ。


「これを」


「はい、全部で12525円になります」


 うわ……高

 思わず顔が引き攣る。


「あの先輩、お金持ってるんですか?」


 俺がそう問うと、先輩は得意顔になり、ふふんと鼻で笑った。


「愚問だのぉ、ブラックカードは金持ちの特権であろう?」


 はぁ、さいですか……


「しかして、そのブラックカード様はいずこへ?」


 先輩俺を小馬鹿にしたような目でみる。


「そんな物、いつものバックに……」


 先輩、自分の手を見る。次に周りを見る。そして最後に俺を見る。


「………………」


「………………」


「………………」


「しまったぁぁぁぁぁぁぁぁ!! バックを持っていない事を忘れておったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 先輩絶叫。

 まぁ、こうなるんだろうとは、思っていたが……


「ど、どっど、どどどどどどど、どどうしよう! どうしようウサギ!」


 途端に先輩の顔が不安で曇り始め、店員のお姉さんが俺の方をちらちらと見てくる。なんやねん。

 しっかし、先輩焦りすぎ、何か小動物みたいで萌えるわぁ。


「はぁ……12525円でしたよね? ……っと、じゃあこれで」


 そう言って財布を取り出し、一万円札一枚と千円札三枚を店員のお姉さんに渡す。


「よ、よいのかウサギ!」


「ええまぁ」


 先輩の表情がパッと明るくなる。店員のお姉さんの表情も明るくなる。予想通りとは、口が裂けても言えない。


「はい、13000円確かにお預かりしました。475円のお釣りです。」


 結果的に、にこやかな笑顔となった店員のお姉さんから小銭を受け取り、財布に入れる。 いや~、金引き出しておいて良かったよ。


「悪いのウサギ、お金は後日必ず返すからの」


 珍しく先輩がしゅんとしていた。

 んー……


「いや、いいですよ。ここは俺に奢らさせてください。」


 俺がそう言うと、先輩は表情を曇らせる。


「それではおぬしに悪いであろう」


「いや、いいです。調度余って、使い道無かったんで、プレゼントです」


 先輩はプレゼント……と呟いてから、顔を上げた。


「そうかプレゼントか、ありがとう」


 そう言って先輩はにっこりと笑った。

 やっぱし、先輩には笑顔が似合うね。




=SEISYUN=




 店から出て、街中をふらふら歩いていたら、腹が減っている事に気付いた。

 まぁ、なんだかんだで飯の時間だし。


「先輩、何か食べに行きません?」


 俺が先輩にそう言うと、先輩も、そうじゃな、と頷いた。


「何処で食べましょうか?」


「ふむ、あそこなんてどうじゃろうか」


 そう言って、先輩が指差した先にあったのは、ごく普通のファミリーレストランだった。

 ある意味生粋のお嬢様だと思っていたので、少し驚いた。


「じゃあ、そうしましょうか」


「うむ。……所でお金は、足りるのかの」


 そう言って、先輩は申し訳なさそうな顔をした。


「大丈夫ですよ。それなりに貯まってたんで」


「そうは言うがの……」


「まぁまぁ、金の事なら気にしないでください、細かい事なんて気にせず楽しく行きましょーよ」


「おぬしに言われると、いまいち不安なのじゃが……」


 あら?信用サレテマセンネー?


「まぁよい、おぬしがそう言うのなら、私もそうしようかの」


 あららー何か言ってる事が矛盾しているようなー


「うむ、口で何と言おうと、心の奥底では信頼しきっておるからの」


 いつの間にそんな信頼を勝ち得たのでしょうか?


「まぁそんな事はどうでもよい、問題は腹が減ったと言うことだの」


 あまりどうでもいいような話でもない気がするが……

 何はともあれ、腹が減っているのは事実だ。

結局、そんな調子で、俺と先輩はファミレスに入っていった。



ファミレスはなかなかに小綺麗で、お洒落なかんじの内装だった。俺と先輩は店員の案内で入口近く、窓際の向き合う形になっている椅子についた。


「さ、遠慮しないでじゃんじゃん注文して下さい」


 一応にこりと微笑んでおく。

 すると何故か先輩は嫌そうな顔をした。

 何故に!? もしや俺の笑顔がキモかったとか!? それはあんまりだ!?

 などと心の中でのたまっていたら、突然先輩が声を掛けてきた。


「愛想笑いは好かんのぉ」


「………………」


 ばれてましたー(笑)


「それと遠慮するな、と言うてくれるのは嬉しいのじゃが……私はそんなに大食いに見えるかのぅ」


「………………」


 シマッター、やっちゃったZE☆


「まぁ、例え私が大食いに見えようとも、最低限レディに対する配慮はして欲しかったのぉ」


「うぐっ……おっしゃる通りです」


 最早返す言葉すらない、ここは素直に謝っておこう。


「あと、ばれてましたー(笑)とか、シマッターとかもいらんのぉ」


 心が読まれている!?

 馬鹿な!? それじゃあ、俺のプライバシーはどうなるっ!! えっ? 何? お前にプライバシーなぞ無いし、心なんて最初から読まれてた?

 嘘だっ!!


「そんな事俺は断じて認めない!!」


「わっ!? いきなり何事じゃ!?」


 拳を握りしめ、椅子を倒しながら、叫び立ち上がったら、先輩にドン引きされた。

 うん、そりゃ引くよね普通……俺もう黙って大人しくしとこう、そうしよう。

 まぁ一先ず心が読まれていない事に一安心だな。


「安心せい。おぬしのプライバシーは守られておる」


「ですよねー! ……って、めっさ心読まれてるーっ!!」


 俺にプライバシーは無かった。



 結局、俺と先輩は同じ白身魚のムニエルを注文し、食事を始めた。


「はむはむ」


「………………」


 何と言うか……癒される、いや萌える。

 俺の目の前では、先輩が料理を食べている。その姿は流石お嬢様と言った所でとても上品だ、しかし……何と言うか……必死だ。

 そう確かに上品なのだ、テーブルマナーは完璧、だが必死な様子がひしひし伝わってくる。

 多分その幼く見える容姿のせいだ、まるで小学生が背伸びして、大人の食事をしている様に見える……いや、もっと短絡的に、まるで--


「…………猫」


「む?」


 まず! 思わず考えていた事が口に……


「むぅぅぅぅ…………」


 うわ、何か先輩がいきなり唸り出した!


「よしっ! 決めたぞウサギ! 今日から私の事は猫先輩と呼ぶがいい!」


「……はぁ」


 こうして先輩のあだ名が決まり。


「それじゃ、改めてよろしくお願いします……猫先輩」


「うむ」


 猫先輩は満足げに頷いた。





 食事をとった先輩--もとい猫先輩と俺は、特に目的地も無かったので、一先ず街中をぶらぶらと歩いていた。

 道中、色々な場所に寄ったりしたが、そこはまたの機会に。

 猫先輩は、お嬢様であるわりに、庶民の常識をわきまえている人で、お嬢様によくありがちな『突飛な行動』は無いに等しかった。しかし、まぁ、全く無かったと言う訳でもない。

 それは調度、ある店の前を通り過ぎた時の事だ。


「のう、ウサギ。あれはなんじゃ?」


 そう言って猫先輩が指差したのは、ラ○ホテル(自重)だった。


「ぁ゛…………」


「ウサギ? 聞いておるか?」


 今俺の顔を見たら、子供でも困っているのが分かるだろう。何せ今の俺の状況は傍から見れば、いたいけな幼女(見た目)を男子高校生が、『ねぇお嬢ちゃん。お兄さんとあそこで楽しい事しないかい?げへへへ』『え? あそこでー?』といった風に悪い道へ導いてる様にも見える(見た目)からだ。

 ちなみに現在進行形で周囲の視線が痛い。

 まぁ今はまだ視線が痛いだけなのでいい、なので問題は、猫先輩の質問にどう答えるか、だ。


 ……どーしよっかなー、正直に答えたらまずいよなー、多分視線だけじゃー済まないよなー(泣)

 そんな事を考えていたら、いつの間にか猫先輩からもジト目で見られていた。


「何か変な事を考えておるかの?」


 なしてそう思ったのですか……?


「いやいや、ちゃんと考えてますよ!?」


「何を?」


「何をってそりゃぁ………あれ? 何だったっけ?」


 猫先輩は呆れた様に溜息を一つつくと、もう良いわ、と言って歩き始めてしまった。



 …………計画通り



 ニヤリと笑い、それを隠す様に顔を背ける。そうして猫先輩に続き歩き始めた。

 そんな時だった。

前を歩く猫先輩がボソッと漏らしたのを俺は聞き逃さなかった。



 「ラ○ホテル(自重)くらい何だと言うのじゃ」



 ……………………



 確信犯かっ!?

 ちびっ子先輩にいいように弄ばれた一幕だった。








=SEISYUN=








 猫先輩の道案内により数分街中を歩き、少し街から外れた場所にまで歩いて来た。

 時間が時間なだけに、辺りはしん、と静まり返っていて、そのブロックで舗装された道を猫先輩と二人きりで歩く。


「そろそろじゃ」


 隣へ視線を向けると、猫先輩はニコニコしていた。どうやらこれから行く場所は猫先輩のお気に入りらしい。

 そんな先輩を見ていたら何故か俺まで気分が良くなって来て、何だかウキウキしてきた。

 それから少し歩いた所で猫先輩が、あそこじゃ、と言って前方を指さした。


「…………すご」


 目の前には満開の桜が咲き誇っていた。

 中央に噴水があり、その周りをぐるっと囲うように桜の樹が見事に立っていた。更に奥にまだ道が続いており、その両脇にも桜の樹が咲いていて、とても綺麗な桜並木の一本道となっている。

 思わず笑みがこぼれてしまった。そんな事を考えながらぼーっとしていたら、猫先輩が噴水の傍まで走って行き、こっちにおいでと手招きを始めた。

 その様子がある日の光景とダブって見えて、一瞬ドキリとした。

 そういや、猫先輩と初めて会った別れ際も、猫先輩はあんな風に桜吹雪の中で一人微笑んでたな……

 そんな事考え、俺も笑いながら猫先輩の居る噴水の傍に寄る。


「綺麗ですね」


 俺がそう言うと猫先輩は、そうじゃろう? と得意顔で俺に視線を向けてきた。そんな愛嬌のある猫の様な先輩に俺は苦笑をし、参りましたという意を両手を上げて示した。



 それから、まだ見せたい所があるのじゃ、と言う猫先輩の言葉に従い、二人並んで10分ほど歩くと、丘の上に出た。ここからだと街が一望できるな。

 それから、こっちじゃこっち、と急かす猫先輩について行くと、次は教会と思われる場所に着いた。

 猫先輩によると、以前ここは教会として使われていたが、とある理由により使われなくなり、今は廃屋と化してるそうだ。

 それから沢山ある椅子の内の一つに、二人で並んで座る。


「静かだ」


 俺がそう言うと、隣で猫先輩がうむ、と頷いた。


「ここはの、私と友人達の思い出の場所でな、今はもう会う事は難しいけれど、当時はよくここで遊んだものじゃ」


 独り言のように語る先輩の言葉に、へぇ、と気の抜けた返事を返し、顔を前に向ける。

 聖堂の奥には聖母の石像が立っており、ステンドグラスからの月明かりによって神秘的な雰囲気を醸し出していた。

 それから少しのあいだ間が空き、また聖堂は静寂に包まれる。

 時間がゆっくりと流れていく。まるで世界からこの場所だけ切り離されたように、穏やかな時が流れる。

 感覚にして5分くらいたった頃、不意に猫先輩が口を開いた。


「私はおぬしに言いたい事があるのじゃ」


 そう言って、猫先輩は顔をこっちに向けてくる。俺も、なんですか? と言いながら猫先輩に向きなおる。


「好きじゃ」


 ……………………は?

 今……なんて? 好き? 好きって言ったか?

 突然出てきた愛の告白に戸惑う。

 あぁ、自分は、今きっと真っ赤な顔をして、おろおろしているのだろう。と、自分の様子を他人事のように冷静に考えている自分もいる。

 猫先輩の方を見ると、少々頬を桜色に染めてはいるが、澄ました表情で凜としている猫先輩がそこにはいた。


「勿論、おぬしの事が、じゃぞ」


 どうやら、逃げ道は無いらしい。

 いきなり好きと言われても…… 確かに猫先輩の事は好きだが、それがLikeかLoveなのかは、俺もよく分からない。正直まだ初めて会ってから、そんなに会ってもいないのに答えなんかでる訳がない。

 俺がどう答えようか迷っていると、猫先輩は、返事はいらない、と言った。


「何がなんでも好きになってもらうからの」


 わお、男らしい。


「おぬしからはプロポーズの言葉だけで十分じゃ」


 そんな、何気にハードル高い事を言ってくれやがった猫先輩に、苦笑いを返し、機会があれば、と言って、この話を終わらせた。

 それからは二人して、意味のない事をただ延々と語り合った。




 そうして9時がすぎた辺りで、猫先輩の携帯が鳴り執事が迎えに来ている事を告げられた。

 送っていこうか? と言う猫先輩に、大丈夫です、と断りをいれ教会の外までやって来た。


「それじゃぁの。今日は楽しかったぞ」


 そう言って微笑んだ猫先輩に、また、とだけ返し手を振った。そうしてリムジンに乗りこんだ猫先輩は俺から見えなくなるまで終始手を振っていた。


「……さて、帰るかな」


 俺は、そう一人呟いて教会を後にした。






過去編の前半戦終了です。

で、データがぁ





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