第2章 人格破綻者
明日も投稿するつもりです
出来れば見捨てないでやってください(泣)
あれから二週間が経ち、いい加減学校にも慣れてきた頃。
天音先輩とは、あの日以来あっておらず、気にはなってはいたものの、新しい生活環境に慣れるので精一杯で、結局会う事は出来なかった。
そして今、休み時間を利用して友達と駄弁っている。
そんな時だ…………あいつに会ったのは。
「君? 斬愛黒兎君?」
オールバックのチャラ男。
「え? ああ、うんそうだけど…………」
誰こいつ
「ふーん……君があの……」
まるで値踏みするような目で見てくる、目の前のチャラ男。
うへー、気持ち悪ぅ。俺にそっちの趣味はねぇぞ。
「君さ中二の頃、不良二人を相手にして、返り討ちにした事あるんだって?」
っ! ………何故俺の知らないやつがあの事を!?
「た、たまたま運が良かっただけだよ」
「ふーん……俺、白崎雄太、よろしく」
爽やかな笑顔で手を差し出すチャラ男……もとい、白崎。
って白崎? 何処かで聞いた名前だなぁ、うーん、何処だったか…………
なんて事をぐだぐだ考えていたら、白崎に変な顔をされた。
んん? ああ、握手ね、握手、はいはい。
「よろしく。えと……白崎君……でいいのかな?」
そう言いながら笑顔。
うむ、我ながら完璧だっ!
そんな感じで自画自賛していたら、不意に白崎が近ずいできて--
「放課後、校舎裏」
耳元で、ボソッ、とこんな事を言われた。
俺は一体、何処で選択を誤った…………?
=SEISYUN=
放課後、勿論呼び出しはしかとして、さっさと帰る事にした。
「帰って寝るかぁ」
んで、帰って寝た。
=SEISYUN=
翌日、朝SHR
「初っ端からの無視は、さすがの俺も予想外だったよ…………」
面倒なのに絡まれてますなう。
「母さんに、知らない人に付いて行くなって言われてたから…………」
「お前は、五歳児かっ!!」
何とも切れのいいツッコミだった。
こやつ、芸人の才能があるぉ!
「って、俺はこんな漫才をやりに来たんじゃない!」
して最近の若者はキレやすい。
「キレてねぇよ!?」
心を読むなよキモいなぁ。
「話をそらすなっ!」
面倒なのに絡まれてますなう。
「またかっ! もういいよ! それより何で来なかったんだよ!」
「母さんに知らない人に「それはもういいよ!?」」
じゃあ何なんだよ! お前は何が望みなんだよ!?
「だから、人の話聞けよ!」
「ごめん……何で叫んでんの?」
「お前が叫ばせてんだろぉぉがよぉぉぉぉぉぉ!!」
「え?」
いや、心の中で思ってただけだし。
「え?」
「………………」
「………………」
「あの…………」
「と、ともかく! 放課後だかんな! 覚えてろよ! 絶対だかんな! 逃げ「解ったから逃げないから、って言うかもう開始のチャイムなったから」」
そう釘を刺してやると、白崎は変な顔をした後、泣きながら自分の席に戻っていった。
=SEISYUN=
放課後。
「帰るかぁ」
んで帰--
「やっぱりかぁぁぁぁぁぁ!!」
ちっ!見付かったか…………
「何平然と帰ろうとしてんの君!?」
我ながら厄介なやつに目を付けられたもんだ。
「ねぇ! 朝言ったよねぇ!? 待ってろってさぁ!? ねぇ!?」
「近い近い、顔が近いから」
しつこいやつだなぁ。
「まぁいい! さっさと来い!」
白崎はそう言うと、一人でさっさと進んでいった。
「………………」
帰るか。
くるっ、すたすたすたす--がしっ
「ねぇ……何で帰ろうとしてんのかな? かな?」
…………目が逝っちゃってるんですけど。
「いやいや、怖い、怖いから!」
うわっ! 逝っちゃってる度が急上昇!?
マジ勘弁!
「あ゛あ゛ぁぁぁ」
白崎が仲間になりたそうに、こっちを見ている。
NoooooooO!!!!
いらない! いらない! お前だけは、絶対欲しくない!
「わ、解った、行く! 行くから!」
うわしつこっ! 寄るな寄るな!
「よしっ、じゃあ行くぞ! 行くったら行くぞ!」
どっちかってーと、こいつが五歳児だ…………
=SEISYUN=
「父さん母さん、俺やったよ……遂にここまで来たよ!!」
目の前に変態がいる。
「くうぅぅぅぅぅぅ(泣)」
号泣している白崎と言う名の変態が……
「………………」
「くうぅぅぅぅぅぅ(泣×2)」
「…………帰るか」
「ちょっと待てぇぇぇぇぇ!! 鬼か! お前は鬼なのか!」
むぅ、相変わらずツッコミだけは早い………
「いやだって泣いてたから…………」
「嬉し涙だよっ!! この鬼畜アッパッパーがっ!!」
あ、そっ
「あ、ああ、そうだったんだ、ごめん…………」
俺が上っ面だけで謝ると、白崎は突然唸り出した。
「何故考えている事と、言っている事が、ここまで乖離しているのだろう…………」
あぁ? てめぇにゃ関係ねぇだろ、黙ってろ!
「え? そ、そんな事ないよ?」
「なるほど…………可愛い善人面で、中身は真っ黒か。性格、捻れ捻れて、ひねくれて、遂には鬼畜魔王に暗黒堕ち(だいへんしん)か。主人公としてどうなのよ」
何故か、白崎が一人でぶつぶつ唸りだした。
今帰ろうとしたら、後ろから包丁でぐさりかなぁ…………
「しかし、思ったより面白いな、お前」
俺に向き直った白崎がそんな事を言った。
お前にだけは、言われたくねぇよ。
「んで? 一体何なんだ? こんな所に呼び出して」
いい加減白崎のギャグにも飽きてきたので本題を聞く事にする。
白崎はあからさまに嫌な顔をした。
「そうあせんなよ、はやとちりはいけねぇ」
なんだろう、違和感を感じる…………
「まぁでも、確かにそろそろ塩時かね」
「!!」
敵意!? ……なる程、違和感の正体はこれか。
俺とした事が、全く気付けなかった、敵は目の前に居るって言うのに……
「塩時って……一体何の話だ?」
あえてとぼけてみる。
「んん? 気付いてんだろ? それともわざとか?」
目の前の男の雰囲気が一変した。
「まぁ簡単な事だ。要はここでやり合えばいいってこった」
「っ!!」
空気が変わった。
白崎の目が鋭くなり、今までの軽い空気から、ぴりぴりした空気へと変わる……
やっぱり、定番のアレか?
「……っく!!」
無意識の内に足が一歩さがった。
本能が告げている、目の前にいるこいつは危険だと。
「構えな、測ってやるよ」
そう言って白崎は、ファイティングポーズをとった。
測る? 一体何なんだこいつ? アレじゃないのか?
汗が一筋頬をつたう。
「アレ……いじめやリンチ、の類じゃあなさそうだな。目的は?」
俺がそう言うと、奴はニヤリとほくそ笑む。
「目的ぃ? だぁかぁらぁ、さっきから言ってんだろ? 測るって。聞こえなかったかぁ?」
そう言った奴の眼は、獰猛にギラついている。
あれは猛獣? いや違うな……あれは、狩人だ。ただ本能のままに喰い回っている訳じゃない、定めた標的を知能ある引き金で確実に仕留める。そんな奴だ。
「ちっ……」
まずい、普通の不良だと思って油断してたせいで何も準備してなかった。
やるしか……ないか?
「んじゃぁ……行くぜぇ!!」
白崎が地を蹴り駆ける。
「くっ!」
気付けばもう目の前まで接近されていた。
思っていたより速い!
「しっ!」
こちらが態勢を整える前に、白崎の拳が、ガードの上から俺の身体を穿つ。その拳は、見かけより遥かに重みがあり、モロに入ったら一発で危なくなりそうだ。
「おら、どぉしたぁ!! かかって来いよぉ!!」
「ぐぅっ!!」
押される一方で攻める事が出来ず、どんどん後退させられていく。
くそっ! 身体を運ぶ暇がない!
更にそこに白崎の蹴りがはいる。
「こんなもんじゃねぇだろお前はぁ!」
「くふっ!」
ぎりぎりで白崎の蹴りをかわし、すぐに身を引く。
痛ぅぅ、ガードしてる腕がまるでフライパンで焼かれている様に熱い。
「スキありぃ!」
「しまっ!? っがぁ!!」
痛みにより一瞬出来た隙を突かれ、ボディブローをモロに食らい、態勢を崩す。
そこからは、一方的だった。
「甘ぇよ!」
態勢を立て直そうとした俺の左足を払い、バランスを崩した隙に、みぞに膝を入れる。
「かはっ!」
「まだまだぁ!!」
のけ反った反動で距離を離すも、一歩で距離を詰められ、右フックをモロに食らう。
「がぁっ!!」
足がふらつき、視界も揺れる。並行感覚が保てなくなり、遂には、地面に伏せる形になってしまった。顔だけを上げて白崎を睨む。
白崎は流れた汗を腕で拭い、ふぅ、と一息ついた。
「こんなもんか?」
地べたに這いつくばる形となった俺に、白崎は見下した様な眼を向けた。
そうして俺が声を出さないでいると、白崎が独り言の様に喋りだした。
「はぁ~……期待ハズレだったかな……」
そう言って白崎は右手を挙げる。
「かはっ……はっ……はっ……」
やばい、やばい、やばい! 死ぬ! 殺される!
手に力を入れてみるが、震えるだけで全く役に立たない。
「まぁ、一般人だしなぁ」
「はっ……はっ……はっ」
動け! 俺の身体! 頼むから! くそっ! ダメだ、呼吸が上手く出来ないっ!
「んじゃ、これで……」
動け! 動けよ俺身体! 動けぇぇぇぇぇぇ!!
「はっ……っ……うおぉぉぉぉぉぉ!!」
「な!?」
突然動きだす俺の身体、驚いている白崎へ一直線に駆ける!
「……はっ! いいじゃねぇか!」
だが相手もさることながら、すぐに調子をとり戻し、態勢を整える。その間僅か0、7秒!
これで倒しきれなきゃ、おしまいだ、この一撃に全てをかける!
「直線的な攻撃は、カウンターの的だぜ!」
白崎がカウンターの蹴りを放つ! 普通この位置なら確実にあたる、だが止まる訳にはいかない!
だからここで……身体を極限にまで捻る!
「なにっ!?」
俺が身体を捻った為、白崎の蹴りは俺が通るはずだった場所で空を切る。
「ここだっ!!」
カウンターを外して、態勢を崩した白崎の頭部目掛け、ありったけの力を込めて回し蹴りを放つ!
「ぐぁっ!!」
頭を強く打たれた白崎がよろめき、バランスを崩した。
脳を揺らしたんだ、平衡感覚を保っているのは難しいはず!!
「ぐぅっ!」
倒れろ白崎!
「っぁぁぁぁぁぁ!!」
凄まじい気迫だった。
ふらつきはしたものの白崎は倒れなかった。
そして白崎はお返しとばかりに動けないでいる俺の腹を殴りつけた。
「なっ! がぁっ!」
白崎からの起死回生の一撃を食らう。
腹部に鈍い痛みが伝わり、内臓がぐちゃぐちゃに掻き混ぜられる。
「ぐっ……っふー、ふー」
白崎は、一瞬顔をしかめたあと、俺が、起き上がらない事を確認してから、呼吸を整え始めた。
くそっ! 何でだ!? 脳を揺らしてやったはずなのに、何で倒れなんだよ!
くそっ、身体に力が入んねぇ。
「はははっ……残念ながら、俺の勝ち」
「ぐっ……」
「そう睨むな、別に命とる訳じぁねぇんだから」
「はぁ……は? ……はぁ……」
命を取る訳じゃない?
きっと今の俺の表情はキョトンとしているだろう。
「あにキョトンとしてんだよ、殺しなんてまずいに決まってんだろ? それに言ったじゃねぇか、測ってやるって」
案の定白崎に指摘されてしまった。
嘘だろ? まさか俺の早とちり?
「はぁ……殺す…気はぁ……満々だったじゃねぇか……はぁ」
「んお? 殺気まで感じ取るとは、やるねぇお前」
さっきから一体、何言ってんだこいつ? 計るって何だ?
「んんぅ、疑問の表情、まっ、そのうち解るさ」
「はぁ……てめ……ちゃんと……説明……はぁ」
俺がそう言うと、白崎は微妙な顔になって、後で解るからと言って、話をそらした。
「んな事より保健室ってね」
むかつく笑顔で、そんな事を言ってくるこいつを殴りたい。
「誰の……せいだ! 全部お前のせいだ!」
少し呼吸が落ち着いてきたので、白崎に文句を垂れる。
「怒んなよぉ、これで俺達も戦友たぜ?」
白崎が俺の腕を持ち、立ち上がらせる。そのまま、肩をくんで並んで歩きだす。
「こんな出来損ない、いらない」
そう言って、隣を歩く白崎の足を踏む。
憎い! 憎いわ~! 隣の出来損ないがっ!
「ひどっ! 出来損ないて痛ぁ! 痛い! 痛いから踏まないでっ!」
涙目の出来損ないが余りにキモいので、踏むのを止める。
「くそっ、最悪だ!」
「まぁ、人間誰だって一度は負けるさ、そう落ち込むな」
「お前の隣にいることが!」
「そっちかよ!!」
かくして、俺と白崎は、出会ったのであった。
ギャグじゃねーよ。
=SEISYUN=
白崎との戦闘から一週間がたった。
あれから俺は、何度も話かけてくる白崎を完全無視し続け、その存在を無かったものにしていた。
しかし、白崎はそれでも諦めず、事あるごとに話かけてくるので、余りにうざくなり、遂に、謝ったら許すと宣言した。
勿論白崎はすぐに謝ってきた。
まぁ、それさえ無視したが。正直、関わりたくないのだ。
だが、その日以降、何故か白崎の謝り方は進化していき、遂には、パンツ一丁で土下座までしてきたのだ。プライドも糞もあったもんじゃない。
これはもう許した方が楽だなと判断した俺は、白崎を許してやることにした。
それが、昨日の話。
そして今、俺に新しい出会いが訪れていた。
「あの~、大丈夫ですか~?」
うわ何この人超萌えるんですけど。
「え? あ、ああああ、だ、だだ大丈夫です」
昼休みの事だ。
俺はいつも通り、学食へ向かっていた。
急いでいたせいだろう、前方不注意による事故。
廊下の曲がり角で、轢かれた……そう轢かれたのだ、ぶつかったのではなく。しかも、何故か一輪車で……
最近普通の人に会ってない様な気がする。
んで冒頭の出会い、一輪車の搭乗者は、可愛い萌える人だったのだ。
「本当にごめんなさい~、急いでいたものでつい~」
そう言って、目の前の萌える人は、頭を下げた。
どうやら、いい人らしい。
「あ、いえ! 本当に大丈夫ですから! ほらっ、何処も怪我してないし!」
タイの色を見る限り二年生だ。
さすがに、上級生にこうまでペコペコと頭を下げられると、逆にこっちが申し訳なくなってくる。
「本当ですかぁ~? 嘘だったら~嫌ですよ~?」
「本当です本当です、大丈夫ですから」
なんて言うか、ほんわかとした雰囲気の人だ。
だがしかし! 忘れちゃいけないのが、一輪車。……何故一輪車?
「? ……あぁ!これですか~?」
どうやら、俺の視線に気ずいてくれたたらしい。
「いや! えーと……何なんのかなぁ……って……」
「これはですね~一輪車って言うんですよ~」
いや、知ってますがな……
「いやえと、そういう事じゃなくてですね……」
そう言った、俺の意図に気ずいてくれたらしい、萌える人は、あら~、と言って、恥ずかしそうに顔を朱らめた。
「そ、そうですよね~……えとですね~、これは~結構お高いんですよ~? 十万円くらいでしょうかぁ~?」
違う…………
しかも、何気に金銭感覚狂ってるし……
「えとですね~そろそろ~時間なので~おいとまさせて頂きますね~? 私はですね~姫宮百合といいます~。それで~……えと~?」
「? ……あぁ! 斬愛黒兎です!」
「斬愛君ですね~、では~またいつか~」
そう言って姫宮先輩は、去っていった。……一輪車、置いていっちゃったんだが……高いんじゃないのか? これ……。
これが、とても優しいが、何処か頭のネジがすっ飛んでいる萌える人、もとい、姫宮先輩との出会だった。
ちなみにあのドジっ子が、演技だったという事を、俺が知るのは、まだまだ先の話である。
すっかり騙されたぁ
=SEISYUN=
「俺、白崎はこの世に要らないと思うんだ……」
「初っ端から何言ってんの君!?」
「あ、それ俺も思ってたわ」
「ぐはぁっ! まさかの裏切り! 浅野ぉ貴様もかぁ~!」
SHRが終わり、放課後となった教室、そこでいつもの様に(白崎は、たまに用事があるとかほざいて、いなくなる時があるが)、俺達は駄弁っていた。
「流石浅野、空気読めてんな」
「あったりめぇよぉ」
浅野とは、白崎謝罪事件がきっかけで仲良くなった。元々クラスは同じだし、顔も知ってはいたが、話をする機会が無かったのだ。しかし、これが話をしてみると驚くほど馬があって、それ以降、こうして仲良くつるんでいる、と言う訳だ。
「お前達が、その要らんシンクロをするのは勝手だが、そのシンクロでもって俺を虐めるのは止めてくれ……」
嘆く白崎、相変わらずきもぉい。
「「まぁさっきのは、九割本気だが」」
そして勿論追撃もする。
「なふっ!」
白崎に20のダメージw
まぁ、こんな感じで毎日が過ぎて行く。この割とどうでもいい、くだらなくて、一番愛おしかったこの日々が……
「こんなんが毎日続いてたら、俺の身は持たないがね……」
「うるせぇ白崎、今いいとこなんだから茶々入れんじゃねぇよ」
イラッ、ときたので白崎を殴った。
「あぎゃっ!!」
本気で。
そしてそれは、ある日の帰りに起こった。
少し魔がさしたのだと思う。
その日は、白崎がいつもの用事で、浅野まで用事があるから、と言い出し、結局一人で帰る事になってしまったのだ。だけどこのまま、何も無しに帰るのもつまらないかな、と思いゲーセンに寄る事にした。
「んー、ちょっと使い過ぎたか……」
結局三時間くらい、ゲーセンで過ごし、俺の財布はもぬけの殻になった。
しかし、それでも気分は晴れずにモヤモヤするばかりである。
実際ゲーセンで中途半端に金を使ったせいで、モヤモヤは減る所か、増える一方だった。
「こりゃ、明日から節約生活かな……」
いっその事、貯金を全て使い果して、また一から貯め直すのもありかもしれない。まぁそんな事を考えた所で、俺に大した金の使い道が無い以上どうする事も出来ないが……、たまには、妹にプレゼントの一つや二つ、買ってやるのもいいかもしれない。
大きく息を吸い込み、そして引き出す、少しでもこのモヤモヤを軽減かった。
上を向くと、空はすでに暗く、雲で覆われて街を黒く染めていた、ちらほら街灯の明かりが見られる。
「明日は雨か……」
そうして、黒く染められた街に溶けていった。
それから10分ほど歩いた時だ、ちょうど人気ない道に入った時、不意にあるものが視界に写った。
着物を着た小柄な女の子だ、しかも、その姿に見覚えがある。
「あれは……天音先輩?」
そう、まるで小学生の様な先輩、その人だった。
その先輩が、大柄な黒服の男二人に、挟まれてトンネルの方へ歩いていた。
「あれって……ちょっとまずいんじゃ……」
考える前に走り出していた。
「はぁ……はぁ……っ、先輩!!」
「む? ウサギ?」
俺が叫ぶと三人は止まり、緩慢な動きでこっちを振り向いた。
俺は、そのあいだも止まることなく走り続け、黒服の一人が振り向き終わる頃ちょうどに、タックルをかました。
そうして黒服と入れ替わるようにして、先輩の隣へ陣取る。
「はぁ……だ、大丈夫ですか先輩?」
「う、うむ、大事は無いが……何故おぬしがここに?」
先輩はとても驚いいた、しかし、今そんな事どうでもいい、どうここを切り抜けるか……だ。
見れば黒服はよろめきはしたが、倒れてはいなかった。
全体重を掛けてタックルしてやったのに倒れないって事は、相当なやり手だな……しかも、そんなのが二人もいる。
外見からして、何となく強そうだなとは思ったが、まぁ何とかなるだろうとたかをくくっていた。だが結果はどうだ……正直全然勝てる気がしねぇ、……ここは、逃げるが勝ちだな。
する事が決まったのなら即決行。さて、どう隙を作るか……
「何だぁ? ガキじゃねぇか」
「痛ぇじゃねぇか坊主」
二人の黒服が怒鳴り散らす、後ろには先輩、前には黒服、今背を向けたら確実に殺られる。一か八かだな……
ポケットの中をまさぐる、硬い物が指にふれ、それを掴む。
変な話だが、俺は護身用に折り畳み式のナイフを持っている、こいつを油断しきっている黒服に投擲して不意をつく、んで、黒服が驚いている隙に逃げる。
我ながら完璧だ。
三秒数えて投げる、落ち着けよ俺、失敗したら全部おしまいだ。
まずは先輩に作戦を伝える。
「先輩聞いて下さい」
声を押し殺して黒服に聞こえないように、話しかける
「んむ?」
「今からナイフをあいつ達に投げます、そしたら、あいつ達が驚いている隙に、逃げて下さい。俺もその隙に逃げます」
「うむ、了解じゃ」
少し驚いた。提案した俺が言うのも何だが、あの作戦は非常識過ぎる。普通の人はナイフなど持ち歩かないし、ましてやそれを投げて隙を作ろう等とは絶対に考えないだろうからだ。しかし、先輩は何の疑問もなくそれを承諾した。
お嬢様だからだろうか……まぁ今はそんな事よりやらなくちゃいけない事がある。気持ちを切り替えよう。
よし、運命の時間だ。
3。
「なぁ~にこそこそしてんだぁ坊主ぅ?」
2。
「おい、聞いてんのかぁ?」
1。
「なあおい、聞いてんのかって言っ--」
今だ!!
「ふっ!!」
ナイフは、黒服へ向かって一直線に向かっていった。
「なっ!?」
「今だ走れ!!」
そう言って、俺は、走り出した。
「こんのっ!」
「ながっ!?」
「ウサギっ!?」
作戦は完璧だったはず……
俺の身体は、捕まれた襟により、後ろに引き戻されていた。
「糞ガキがぁっ!!」
ゴリッという鈍い音と共に、白崎の時とは比べものにならないくらいで、頭がかち割れるんじゃないかという程の衝撃が、俺の脳を揺らした。
「あぐっ!!」
ぐ、やばい、視界揺れる……これはヤバい、殺される。
気付けば俺の目の前には死があった。そう……明確な死。今まで感じた事もないような死の感覚が体中を駆け巡る。
嫌だ死にたくない!
「ウサギぃ!!」
先輩が何か叫んでいる。
そうだ……先輩がいるんだっけ……。
でも正直逃げ出したかった、っていうかもう逃げよう。泣いて土下座すれば相手も見逃してくれるかもしれない。
だって怖いんだ、目の前にあるのは恐怖、何処を見ても恐怖しかない、恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖、世界は死で満ちていた。先輩には悪いが、もう無理だ。
だってそうだろ? 死ぬかもしれないんだぞ?
そうして全てを諦め掛けた時だった…………見てしまった。
突然俺の視界から辺りの景色がきえさった、そして、俺の視線の先には一人の女の子がいた。
「ウサギ! ウサギぃ!」
泣いていた。
先輩は、泣いていた。その大きな瞳を涙で濡らし、綺麗なその顔を悲しみで歪ませていた。
それを見た瞬間、全てが一気にクリアになった。
あの人の涙は……見たくない。
「先輩! ……逃げて下さい! 俺がこいつ達を食い止めます!」
俺がそう言うと、先輩の涙で濡れた顔が驚きで染まった。そうして先輩は、一歩前に踏み出し俺に向かって叫んだ。
「おぬしは、馬鹿か! そんな事をすれば、おぬしが死んでしまうのかもしれんのだぞ!?」
その通りだな、視界は揺れるし、足は力が入らなくてガクガクいってるし、もう完全死亡フラグだよ。
だけど、もう決めちゃったからね……護るって。
この命に替えてでも君を護るって
「さて、別れの挨拶はすんだか?」
そう言った黒服の手の甲には、先程俺が投げたナイフによる、切り傷が出来ていた。
どうやら俺の予想より、相手のスペックの方が、遥かに上だったらしい。
成る程、道理であの作戦が失敗する訳だ。相変わらず俺は相手の力量を測るのが下手くそらしい。
「別に、別れって決まった訳じゃないだろ」
黒服は、ふんっ、と鼻で笑い、かまえる。
「行くぞ!!」
黒服が唸り、こちらに向かって走り出す。
ははっ、見栄張ったのいいけど全然動けねぇや。それでもここは通さねぇ!
そして、俺が先輩に逃げてと言おうとした時、突然先輩が声を上げた。
先輩が声を上げた事により黒服達も足を止める。
「まてっ!! おぬしらの目的は、この私。ならば私は、大人しくおぬしらについて行こう。そのかわりそこの少年には、指一本ふれるな! これが条件じゃ」
…………は? なん……だって?
「ほう、それは好都合」
そう言うと黒服は、ニヤリと笑った。
う、嘘だろ? だめだ! 行くなっ! くそっ! 動けよ俺の身体!
「まてっ! 待ってくれ!」
そう叫ぶが、黒服は鼻で笑い俺を一瞥するだけ、先輩は一度振り返って、済まない、と言いすぐにまた前を向いて歩いていってしまう。
「それでは媛、御手を」
そう言った黒服の手を取る先輩。
動けよ! くそっ! くそっ! くっそぉぉぉぉぉぉ!!
「では」
そう言った黒服と歩き出した先輩。
そして振り向いた先輩の瞳は、涙で濡れていた。
「がぁっ!!」
何が起こった?
「ウサ、ギ…………?」
隣に先輩がいる。
あぁそうか、蹴り飛ばしたのか。……誰が? いや、俺だ。
覚えてる、確かに足を使った感触もある。
「なっ!? 何だ!!」
もう一人の黒服が驚いていた。蹴り飛ばされた方も、何がなんだか解らないといった顔をしている。
体術による殺害は無理か……
何だか酷く落ち着いてるな。頭は依然、熱をもったままだが。
「先輩、何か刃物持ってません?」
体術による殺害が出来ないなら、道具を使えばいい。
先輩に視線を送ると、戸惑いながらも俺の問いに答える。
「あ、ある事には、あるが……」
そう言うと、先輩は何処からか、刀を取り出した。
一体、何処から出したんだか……女ってのは、不思議だな。
「ありがとうございます。少しお借りしますね」
そう言って刀を受け取る。
刃渡り20cmくらいの短刀だ。護身刀か何かだろう。
まぁ、刃物であるなら何だっていい、要は、相手を殺す事さえ出来ればいいのだから。
しかし、さっきから頭が熱くて仕方ない。今日の俺は少し変だな。
「さて、獲物は揃った。」
鞘から刀を抜き、鞘を先輩に返す。
相手も、ふところからハンドガンを取り出す。
「さぁ、殺り合おう」
その言葉を引き金に、銃を撃ってくる。
それを難無くかわし、一歩で間合いに入る。
「そんなんじゃぁ俺は、殺せないぜ?」
牽制のために刀を振る。黒服はそれをかわすも頬をかすった様で、一筋の傷痕をのこした。
識っている。俺は、全てを識っている。躯の動かし方も、刃物の扱い方も、人を殺す方法も。
あぁ、脳が焼けるようだ……本能が叫んでいる、殺せと、目の前の敵を、意味のない肉塊に変えろと。だから殺す。本能のままに犯し、蹂躙する!
「な、何なんだこいつ!!」
黒服が拳を振るう。俺はそれを右に避け、伸びる腕に向け刀を振る。
「いぎっ!! ぎぁぁぁぁぁぁぁ!!」
刀が皮膚を切り、ぎちぎちとひきちぎるように肉を、筋繊維を裂き、骨をも断つ。その感触が腕に伝わり、身体が歓喜に奮える。切断面から血が噴き出し、俺の身体へびちゃびちゃと降り注ぐ。
あぁ熱い、まるでマグマが煮えたぎっているようだ。
それでも、意識はやたら鮮明で、逆に怖い程、落ち着き過ぎている。
これは、完全に俺の意思なのだろう。
「ば、化け物ぉ!!」
片腕を失った黒服が、銃を俺に向ける。同時にもう一人の黒服も引き金を引く。
パァン! と乾いた発砲音が辺りに鳴り響いた。
俺は、腰を落とし、足を曲げ、極限にまで態勢を低くする、そうして奥にいる黒服からの銃弾を避け、足を曲げる事により溜めた力を、解放した。
「なっ!?」
「跳んだ……!?」
解放した力により、高く跳んだ俺は、躯を回転させ、調度目の前の黒服の背後--首の後ろに、下が頭、上が足となるよう調整し、頭から地面落ちる前に、黒服の首へ刀を振る。
肉と骨を断ち切る感触を感じ、また躯を回転させ、綺麗に着地する。
朱い雨が降り、後ろで、ゴッ、とボウリングの球を落とした様な音が鳴った。
辺りに鉄の臭いが充満する。
「ひっ!!」
黒服の息を呑む音が聞こえた。
しかしこの護身刀、やたら切れ味がいいな。
まぁ今はそんな事どうでもいい、早く目の前の敵を殺さねば。
熱い。
刀を振る度、どんどん熱くなってくる。
「くそっ! まだ死にたくないっ! 化け物がぁ! 死ね! 死ね! 死ねぇぇぇぇぇ!!」
黒服は叫び、銃を乱射する。
しかし、その銃弾を全て避けながら、更に黒服に近づく。
そして遂に、黒服の目の前までやって来た。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
カチッカチッ
どうやら弾も尽きたらしい。
すると黒服は、銃を捨て、泣きながら地面に頭を擦り付け、許しを乞うてきた。それを見下ろす。
「い、嫌だ! 死にたくない! ゆ、許してくれ! お願いだ! 俺にはまだ--」
最後まで待たず、首を薙いだ。
血が噴き出し、朱く綺麗な華を咲かす。足元には血溜まりが出来ていて、それがどんどん広がっていく。
身体中血まみれだ。
「…………ウ……サギ?」
先輩が近づいてくる、その顔は心配そうな表情だった。
はて? 何がそんなに不安なのか。こんなにも気持ちがいいと言うのに。
「くっ、くくくっ、あはっ、あははっ、あははははははははっ」
ああ、何て気分の良い夜なんだ……朱い、全てが朱い。
空に浮かぶ月さえも……
男は笑う。
血溜まりのなか、朱く染まった刀を手に…………