第八章 四人目
真田はテーブルの上の500円玉を見つめていた。
小さな傷。
爪で引っかいたような線。
それが数字の形になっている。
「4」
偶然とは思えなかった。
真田はコインを指で触る。
冷たい。
普通の硬貨だ。
だが。
なぜここに数字が刻まれている。
そのとき。
ドアが乱暴に開いた。
「真田!」
杉本だった。
真田は振り向く。
「刑事さん」
杉本は部屋を見回す。
ミカの姿がないのを確認して、舌打ちした。
「逃げられたか」
真田は言った。
「逃げたわけじゃないと思います」
「何?」
真田はコインを見せた。
杉本はそれを受け取る。
そして。
眉をひそめた。
「……なんだこれ」
「数字です」
「4」
杉本の表情が変わった。
わずかだが。
確実に。
「どうしたんです」
真田が聞く。
杉本はすぐには答えなかった。
代わりに聞いた。
「お前」
「何か聞かれたか」
真田は答える。
「質問」
「どんな」
真田は思い出す。
今の人生、続けたい?
杉本は黙った。
そして小さく言った。
「同じだ」
「同じ?」
杉本は言った。
「他の三人も」
真田の心臓が強く打つ。
「同じ質問を?」
杉本は頷いた。
「記録に残ってる」
真田は驚いた。
「記録?」
杉本はポケットから手帳を出した。
古い警察のメモ帳だ。
ページを開く。
そこには名前が書かれていた。
三人。
そして横に短いメモ。
佐伯健一 失踪
最後の証言
「今の人生、続けたい?」
大谷誠 失踪
最後の証言
「今の人生、続けたい?」
久保田隆 失踪
最後の証言
「今の人生、続けたい?」
真田は息を呑んだ。
「全員……」
杉本は言う。
「同じ女と会ってる」
「五百円」
「一回だけ」
「そのあと質問」
真田は聞いた。
「答えは?」
杉本は首を振る。
「わからない」
「全員そのあと消えた」
真田の背中に冷たい汗が流れる。
「消えたって……」
杉本は言った。
「家も」
「仕事も」
「口座も」
「全部」
「全部?」
「全部やめてる」
真田は混乱した。
「そんなこと可能なんですか」
杉本は苦笑する。
「普通は無理だ」
「でも」
少し間を置く。
「全員やってる」
真田は思い出す。
ミカの言葉。
自分でいなくなったの。
真田は聞いた。
「刑事さん」
杉本を見る。
「あなたはどう思ってるんです」
杉本は窓の外を見る。
夜の街。
ネオン。
そして言った。
「わからん」
「ただ」
手帳を閉じる。
「一つだけ分かる」
「何です」
杉本はコインをテーブルに置いた。
カラン、と音が響く。
そして言った。
「これは四人目だ」
真田は息を止めた。
「四人目……」
杉本は真田を見る。
その目は真剣だった。
「お前だ」
真田の胸が強く打つ。
「俺?」
杉本は頷く。
「コインの数字」
「順番だ」
真田の頭が一瞬白くなる。
杉本は続ける。
「三人消えた」
「そして今」
コインを指で叩く。
「4」
静かな音が部屋に響く。
杉本は言った。
「次はお前だ」
そのとき。
真田のスマートフォンが震えた。
画面を見る。
知らない番号。
真田はゆっくり通話ボタンを押した。
耳に当てる。
そして。
聞こえた。
あの声。
静かな声。
ミカだった。
「決めた?」
真田は言う。
「何を」
ミカは答える。
「続ける?」
少し間。
そして。
「やめる?」
電話の向こうで。
微かにコインの音がした。
カラン。
ミカは言った。
「四人目」
真田の背中に寒気が走る。
そして。
「あなたはどっち?」




