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ワンコインの女  作者: 臥亜


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第四章 刑事

駅前のラブホテルは、昼間でも薄暗かった。


ネオンの看板は消えているが、建物全体に夜の匂いが残っている。


真田は入口の前で立ち止まった。


取材でこういう場所に来るのは珍しくない。


だが今日は少し違う。


失踪事件。


それが絡んでいる。


フロントに入ると、中年の男がテレビを見ていた。


真田が名刺を出すと、男は露骨に嫌そうな顔をした。


「またかよ」


「また?」


「さっきも警察来た」


真田の耳が反応する。


「警察?」


「刑事」


男はテレビの音量を下げた。


「昨日の客の件で」


真田は聞く。


「失踪ですか」


男は答えなかった。


ただ肩をすくめる。


それだけで十分だった。


「最後に一緒にいた女がいると聞きました」


男は少し黙ってから言った。


「証言だけだ」


「誰の?」


「隣の部屋の客」


真田はメモを取る。


「何て言ってました?」


男は面倒そうに言った。


「会話が聞こえたって」


「会話?」


「女の声で」


男は指を二本立てた。


「短い言葉」


「二つ」


真田はペンを構える。


男は言った。


「五百円」


そして。


「一回だけ」


真田の背中を冷たいものが走った。


完全に一致している。


都市伝説と。


そのとき、背後でドアが開いた。


「取材?」


低い声だった。


振り返ると、背の高い男が立っていた。


スーツ姿。


三十代後半くらい。


無精ひげ。


警察手帳が一瞬見えた。


「刑事さんですか」


真田が聞くと、男は頷いた。


「杉本」


それだけ名乗った。


真田も名刺を出す。


「真田です」


杉本は名刺を見て言った。


「新聞か」


「はい」


杉本は少し考えてから言った。


「例の女の話だろ」


真田は驚いた。


「知ってるんですか」


杉本はため息をついた。


「嫌になるほどな」


真田の心臓が少し速くなる。


「他にも?」


杉本は答えない。


代わりに言った。


「お前、どこまで知ってる」


真田は正直に話した。


・五百円の女

・人生が変わる

・失踪者がいる


杉本は黙って聞いていた。


そして言った。


「半分当たり」


「半分?」


「人生が変わるのは本当」


「でも」


杉本はホテルの廊下を見た。


「消える奴もいる」


真田は聞く。


「今回で何人目です?」


杉本はすぐ答えた。


「三人」


真田の手が止まった。


「三人?」


「全員男」


「年齢は?」


「三十代から四十代」


真田は聞く。


「共通点は?」


杉本は少し考えて言った。


「人生詰んでる」


「借金」


「離婚」


「仕事クビ」


真田は息を吐く。


完全に一致している。


「その女」


真田は聞く。


「捕まえられないんですか」


杉本は苦笑した。


「何の罪で?」


真田は言葉を失う。


確かにそうだ。


合意の関係。


五百円。


それだけだ。


杉本は続ける。


「しかもな」


「しかも?」


「姿がバラバラ」


「バラバラ?」


「証言が一致しない」


真田は眉をひそめる。


「どういうことです」


杉本は指を折る。


「二十代って奴もいる」


「三十代って奴もいる」


「黒髪」


「茶髪」


真田は聞く。


「同一人物じゃない?」


杉本は首を振った。


「いや」


「共通点はある」


「何です」


杉本は言った。


「必ず言う」


真田は息を止めた。


杉本は静かに言った。


「五百円」


「一回だけ」


ロビーのテレビでニュースが流れる。


その音だけが響いていた。


杉本は煙草を取り出す。


火をつけながら言った。


「俺はな」


煙を吐く。


「この女、探してる」


真田は聞く。


「なぜ?」


杉本は少し笑った。


「四人目が出る前に」


真田は凍りついた。


「四人目?」


杉本は真田を見る。


そして言った。


「もうすぐ出る」


「なぜわかるんです」


杉本は煙草を灰皿に押し付けた。


そして静かに言った。


「この女」


少し間を置く。


「必ず来るからだ」


真田の背中に寒気が走る。


「どこに?」


杉本は答えた。


「人生が終わりそうな奴の前に」


ホテルの外で。


夜の風が吹いた。


そのとき。


真田のポケットでスマートフォンが震えた。


知らない番号だった。


出ると、女の声がした。


静かな声。


落ち着いた声。


そして。


こう言った。


「五百円」


真田の呼吸が止まる。


電話の向こうで。


女は続けた。


「一回だけ」

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