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ワンコインの女  作者: 臥亜


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第二十二章 六人目

ミカの視線。


それは。


杉本に向いていた。


橋の下。


全員が黙る。


杉本が眉をひそめる。


「なんだ」


ミカは言った。


「最後の五百円」


杉本は苦笑した。


「冗談だろ」


長谷川が笑う。


「いや」


「冗談じゃない」


杉本は長谷川を見る。


「どういう意味だ」


長谷川は肩をすくめた。


「俺もさっき気づいた」


真田が聞く。


「何に」


長谷川は言う。


「一人足りない」


真田は数える。


長谷川。


佐伯。


大谷。


久保田。


真田。


五人。


真田は言う。


「足りてる」


長谷川は首を振る。


「最初の人」


真田が言う。


「長谷川さんですよね」


長谷川は笑った。


「違う」


沈黙。


長谷川は杉本を見る。


そして言った。


「あんただ」


杉本の顔が固まる。


「……何?」


真田も驚く。


「どういうことです」


長谷川は言った。


「最初に会ったのは俺じゃない」


ミカは黙っていた。


杉本の眉が寄る。


「意味がわからん」


長谷川は言う。


「三年前」


「この女」


「警察に相談してる」


真田の背中に寒気が走る。


「え……?」


杉本の顔が少し変わる。


長谷川は続ける。


「兄のこと」


真田が言う。


「自殺した……」


長谷川は頷く。


「そう」


そして。


杉本を見る。


「担当刑事」


空気が凍る。


真田がゆっくり杉本を見る。


「本当ですか」


杉本は黙っていた。


長谷川は言う。


「この女」


「兄が死んだあと」


「警察に来た」


ミカは小さく言った。


「覚えてる?」


杉本は目を閉じた。


数秒。


そして。


小さく言った。


「ああ」


真田の背筋に寒気が走る。


杉本は続ける。


「若い女だった」


「泣いてた」


「兄が死んだって」


ミカは言った。


「そのとき聞いた」


真田が呟く。


「質問……」


ミカは頷く。


「そう」


杉本の声が低くなる。


「俺にか」


ミカは答えた。


「うん」


沈黙。


ミカは言った。


「兄はどうすればよかった?」


橋の下。


静かな空気。


杉本はゆっくり言った。


「覚えてる」


真田が聞く。


「なんて答えたんですか」


杉本は少し苦笑した。


そして言った。


「やめればよかった」


真田の心臓が跳ねる。


ミカの兄が言った言葉。


同じだった。


ミカは続けた。


「そのあと」


「もう一つ聞いた」


杉本は目を細める。


「……ああ」


真田が言う。


「何を」


ミカは静かに言った。


「今の人生」


「続けたい?」


橋の下。


誰も動かない。


真田が杉本を見る。


杉本は小さく笑った。


そして言った。


「わからん」


ミカは頷いた。


「そう」


長谷川が笑う。


「同じだな」


真田が言う。


「でも」


「それで終わりですよね」


長谷川は首を振る。


「違う」


真田が聞く。


「何が」


長谷川はベンチの500円玉を見る。


そして言った。


「この女」


「最初の質問」


「最初の相手」


「杉本だ」


真田の背中に寒気が走る。


ミカは静かに言った。


「六人目」


杉本が呟く。


「……俺か」


ミカはポケットから。


もう一枚の500円玉を出した。


カラン。


ベンチに置く。


最後のコイン。


ミカは言った。


「今の人生」


「続けたい?」


杉本はそのコインを見ていた。


長い沈黙。


川の音。


遠くの車。


そして。


杉本は。


笑った。

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