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ワンコインの女  作者: 臥亜


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第二十章 最後の質問

長谷川の言葉。


「最後の一人だ」


橋の下に沈黙が落ちる。


真田の胸が強く打つ。


「俺……?」


長谷川は頷いた。


「顔でわかる」


真田は言う。


「何が」


長谷川は答える。


「壊れてる」


杉本が睨む。


「言い方考えろ」


長谷川は肩をすくめる。


「事実だろ」


真田は黙っていた。


長谷川は続ける。


「三年前の俺と同じだ」


そして。


ベンチの500円玉を指で弾く。


カラン。


小さな音。


「限界まで来てる」


真田は言った。


「そんなこと……」


長谷川は笑う。


「警察」


「残業」


「責任」


「借金」


「家庭崩壊」


真田の体が固まる。


長谷川は言った。


「全部顔に出てる」


杉本が真田を見る。


何も言わない。


でも。


否定もしない。


真田はミカを見る。


「……知ってたんですか」


ミカは答えない。


真田は続ける。


「だから俺を?」


ミカは静かに言った。


「違う」


真田が聞く。


「じゃあ何ですか」


ミカは言った。


「たまたま」


長谷川が笑う。


「嘘つけ」


ミカは長谷川を睨む。


長谷川は続ける。


「この女はな」


「見てるんだよ」


真田が聞く。


「何を」


長谷川は答えた。


「終わりかけの人間」


風が吹く。


川の匂い。


遠くの車の音。


真田は呟く。


「選んでるんですか」


ミカは首を振る。


「違う」


そして。


静かに言った。


「気づくだけ」


真田は笑った。


少しだけ。


疲れた笑いだった。


「俺が?」


ミカは頷く。


「そう」


長谷川は言う。


「質問してやれよ」


ミカは黙る。


長谷川が続ける。


「最後の一人なんだろ」


ミカは真田を見る。


長い沈黙。


そして。


ゆっくり聞いた。


「今の人生」


「続けたい?」


その言葉。


橋の下に落ちる。


真田は目を閉じた。


頭の中に浮かぶ。


警察署。


机。


書類。


怒鳴る上司。


冷たい家。


帰っても。


誰もいない。


そして。


ホテルの部屋。


500円。


ミカ。


あの夜。


真田は目を開けた。


そして言った。


「わからない」


ミカは頷いた。


「うん」


長谷川が笑う。


「俺と同じ答えだ」


杉本が言う。


「それで終わりか」


ミカは首を振る。


「違う」


真田が聞く。


「何が」


ミカはベンチの500円玉を取った。


それを。


真田の前に置く。


カラン。


小さな音。


そして言った。


「これは選択じゃない」


真田は聞く。


「じゃあ何ですか」


ミカは答えた。


「きっかけ」


沈黙。


長谷川は笑う。


「そういうことだ」


真田は500円玉を見る。


小さなコイン。


でも。


重く感じた。


杉本が言う。


「どうする」


真田は答えない。


ただ。


コインを見ていた。


そのとき。


長谷川が言った。


「一つだけ教える」


真田が顔を上げる。


長谷川は言った。


「この女のルール」


真田は聞く。


「何ですか」


長谷川は笑った。


「五人で終わりじゃない」


真田の心臓が跳ねる。


「え?」


長谷川は言った。


「五人成功したら終わり」


橋の下に沈黙が落ちる。


真田は数えた。


長谷川。


佐伯。


大谷。


久保田。


そして。


真田。


真田は言う。


「俺は……」


長谷川は笑った。


「まだ成功してない」


そのとき。


ミカが静かに言った。


「だから待つ」


真田が聞く。


「何を」


ミカは答えた。


「あなたの人生」


風が吹く。


川の水が揺れる。


真田の手の中。


500円玉が光っていた。

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